投稿日:2013年9月9日|カテゴリ:コラム

「カレーライスとライスカレーとはどう違うのか?」と言う論争に未だ確定的な答えは出ていない。
もっとも有力な説は、「カレーライスはご飯とカレーが別々の容器に入れられて供されるもので、ライスカレーはあらかじめご飯の上にカレーがかけられた状態で供されるもの」だろう。
しかし、この有力な説に対しても異論がある。まったく逆にカレーライスがご飯にカレーがかかったもので、ライスカレーがご飯とカレーが別々に出されるものと言う説。その根拠は英語表記した場合、カレーライスはcurried riceであって、ライスカレーはrice and curry だと言う。
このほかの説を紹介すると
◦カレーライス:レストランなどの高級な気取った店で出されるもの。ライスカ
レー:家庭や大衆食堂で作られる庶民的なもの。
◦カレーライス:洋風のスープを用いたもの。ライスカレー:和風の出汁を用い
たもの。
◦ライスが多ければライスカレー。カレーが多ければカレーライス。
◦陸軍で出されていたものがライスカレー、海軍式がカレーライス。
◦1960年代までがライスカレーで、1970年代前半からカレーライス。

どの説もそれぞれ筋が通っているように思えるが、その中で私が最も納得できるのが陸軍式ライスカレーと海軍式カレーライスの違い説である。
その説によると、戦前、ほぼ同じ料理が陸軍では「ライスカレー」と呼ばれ、海軍では「カレイライス」と表記されていた。戦前は人数の多い陸軍式呼称が優勢でライスカレーが一般的であったが、敗戦によって軍、特に陸軍の評価が地に落ち、さらには高度経済成長とともに海軍由来のカレーライスが優勢になってきた。特に東京オリンピックを境に一気に海軍由来のカレーライスが覇者となった。
私がこの説をとる理由は、ほぼ同じ料理と言うものの、陸軍式ライスカレーと海軍式カレイライスとでは実際のレシピが異なっていたからだ。海軍のカレイライスは現在人気の「横須賀海軍カレー」からも分かるように、スープストックを用いて、小麦粉は狐色になるまで炒められていた。これに対して陸軍のライスカレーは小麦粉とカレー粉をラードと一緒に撹拌しただけのものをルーとしたとある。
私が幼少期に家や町の食堂や給食で食べさせてもらったものは狐色でトロ~としたカレイライスではなく、黄色くさっぱりとした、そしてなんとなく粉っぽいライスカレーだった。少し冷めてくると表面に薄皮が張る。味が薄いので、しばしばウースタソースをかけて食べた。
小さい頃、親に連れて行かれて食堂でライスカレーを食べていると、隣の席のおじさんがソースをじゃぶじゃぶかけて茶色になったライスカレーをおいしそうに頬張っている。真似をしてソースに手を伸ばそうとする「せっかく作ってもらったものにソースをかけるなんて失礼で下品よ」と母から叱られた。
自分一人で食堂に入ることができるようになってから、思う存分ソースをかけて食べた。予想通り旨かった。ライスカレーはブイヨンを使っておらず、元の味が薄いのでソースを足して一人前の味になる。あれは本来ソースをかけて食べるものだったのだろう。
その頃から味の濃いカレーを供する店もあった。それは蕎麦屋。カレーうどんに用いるカレーはそばつゆにカレー粉を混ぜたものであったから、出汁が効いていた。このためにライスカレーにかかっているカレーよりもずっと味が濃くて美味しかったのだ。店によってはカレーうどん、カレーそばだけでなくこのカレー汁をご飯にかけてライスカレーとして供する蕎麦屋も少なくなかった。「ライスカレーを食べるなら蕎麦屋で」なんてことを通ぶって言っていた記憶がある。
今から考えてみれば、しっかりと下ごしらえをしてあるカレーライスの方が美味しいに違いない。しかし、あの皮の張った黄色いライスカレーは、幼いころの家族との貴重な楽しい想い出と直結した味なのだ。ぜひとも、もう一度あのライスカレーを食べてみたい。
ここで重要な注文が一つある。それはライスカレーには絶対にグリーンピースが入っていなければいけないのだ。これは私にとって、支那そばに赤い渦を巻いた鳴門巻が必須であるのと同じくらい重要なことなのである。

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