投稿日:2013年4月8日|カテゴリ:コラム

参議院の予算委員会での安倍首相と民主党の小西ひろゆき議員との憲法に関するクイズまがいの問答が、巷で議論を呼んでいる。この問答で安倍首相が著名な憲法学者、芦部信喜を知らなかったことがばれてしまったからだ。赤っ恥として彼を貶める声もあるが、自民党への追い風が幸いしてか、安倍さん擁護の声の方が大きい。
以前、当時の麻生首相に漢字力がないことを揶揄して、当時野党の民主党議員が国会で漢字テストをした。これと同じく、ただ相手を貶めるためだけの子供じみたパフォーマンスという質問者への批判が多い。
確かに、総理大臣は法学者ではないのだから憲法の条文をそらんじることや、学者の名前といった細かいことを知っている必要はなく、憲法の本質をよく理解してさえすればよいのかも知れない。
政策を語る時、その分野の専門的な知識を要求されたならば、政治家はあらゆる分野に精通していなければいけないことになる。そんなスーパーマンはいるはずもない。具体的で細かい点はそれぞれの専門家に任せて、政治家はもっと大局的なビジョンを示すことのほうが大事だ。
知らないことよりも、一知半解、下手な知ったかぶりのほうが害悪であることは、福島原発事故の際の菅首相の行動がよく示している。菅が東工大出身のプライドを振りかざしたために、復旧作業に甚大な支障をきたしたことが、後の調査委員会の報告から分かっている。
しかし、憲法改正をライフワークと自認している首相が芦部信喜を知らないとなるとこれは話が違ってくる。
芦部信喜(1923年~1999年)は東大名誉教授であり、文化功労者であった。彼の著書「憲法」はロングセラーであり、現行憲法における統治機構の原理および人権保障のあり方を語る上で避けては通れない。法学部の一年生でも知っている有名な憲法学者だ。
芦部の名前を知らないということは、その著書も全く読んでいないことは明らか。その程度の見識の者が憲法改正を論ずるということは、ピタゴラスを知らない者が数学の教科書を書く、あるいは長嶋茂雄を知らない者が野球の評論家を演じるようなものである。一知半解よりももっとたちが悪い。
しかも、数学の教科書や野球の評論に比べて、被害は甚大だ。なにせ、扱っているものが全国民の生き方をこれから先何十年左右する憲法だからだ。かけ声だけの不勉強男の指揮のもとに憲法改正が行われようとしているのだから。空恐ろしいではないか。
ライフワークの憲法に対する認識でさえこの程度だと、円安、株高で多くの人が舞い上がっている経済政策も危なっかしく見えてくる。お腹の具合はよくなったのかもしれないが、お調子者は変わりないようだ。相変わらずふわふわ軽くて勢いだけがよい。軽佻浮薄の極みに思える。民主党に落胆した反動で安倍内閣に喝采を送っている方々、どうかもう少し冷静な目で彼の言動を見直した方がよいのではないだろうか。

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