投稿日:2013年3月11日|カテゴリ:コラム

先週のコラムで、安倍首相が訪米時にオバマ大統領に手渡した貢物を次の四つと言った。すなわち、①日本の防衛予算の増額、②集団的自衛権を行使できるような法整備、➂環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加、④普天間米海兵隊の4項目だ。
防衛費についてはすでに1月の段階で、11年ぶりに対前年度比で増額する方針を固めている。増額費は1000億円を超える見込みで、北朝鮮の長距離ミサイルを睨んで、新型レーダーの研究などに充てられると考えられる。
集団的自衛権の行使に関しては、第1次安倍内閣で設けられた「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」を再開した。夏の参議院議員選挙後の実現を目指して現行憲法下においても、アメリカを標的とした弾道ミサイルの迎撃、公海上での米艦船の防護、PKO(国連平和維持活動)で行動を共にする他国軍への駆けつけ警護、PKOにおける他国軍への後方支援などが実行できるよう法解釈の変更を検討に入った。
普天間海兵隊基地の辺野古移転も急加速で実現段階に入った。今週中にも沖縄県に対して埋め立て申請を提出する模様だ。鳩山内閣でにわかに混乱状態に突入した、基地移設問題を正面突破で一気に解決するつもりでいる。
そしてTPP交渉参加。TPPに関しては農業関係者からの強い反対の声が多く聴かれる。確かに、日本の農業は家族単位の零細経営で、アメリカのように大規模集約化されていない。このために生産経費が高く、市場では価格の点で太刀打ちできない。このために外国産品には輸入の段階で関税をかけて対抗している。
たとえば、小麦には252%、粗糖には328%、バターには360%の関税を課している。もっとも高いこんにゃく芋輸入には、なんと1706%もの税金が課せられるのである。こんにゃくまではいかないが、日本農業の基幹である米の関税率も778%に達している。
無条件でTPPに参加してこの関税が撤廃されたならば、国産の脳製品は価格競争に負けて、日本の農業に大打撃が加えられることになることは間違いない。農協が夏の参議院議員選挙で自民党を支持しないとの抗議声明を出したのは当然であろう。
しかし、アメリカがこんにゃくを売りたいとは思えない。米にしたってアメリカではとても日本に供給するだけの生産量を持っていない。しかも、カリフォルニア米を全面的に売り込んだとしても、それによって生じる利益は数10兆円に過ぎない。もちろんそれによって日本の農家は全滅してしまうのだが、アメリカは日本の農業関係者が心配するほどこの分野に関心を持ってはいない。

アメリカが日本をTPPに引きずり込みたい、真の狙いは何かといえば、それは医療の分野なのだ。もっと言えば、アメリカが喉から手が出るほど欲しがっているのは「医療保険の開放」なのだ。これが達成できれば、約4兆円と言われる、我が国、国民の総個人資産を集中に納めることができるかもしれないからだ。農業分野での利益などその比ではない。
具体的手順としては混合診療の解禁。次いで、混合診療枠の拡大と公的健康診療枠の縮小。そして最後には公的保険制度の解体と日本の医療の完全自由診療科なのである。
TPP無条件参加後の我が国医療の未来図については、すでに一昨年のコラム「TPP―対岸の火事でなくなったSiCKO」で述べたが、あえてもう一度ここで示す。
医療保険の完全開放がなされると、次の日から先進的医療行為を健康保険でまかなうと保険財政がパンクするというキャンペーンがはられる。その結果、自由診療枠の拡大という言葉に刷りかえられて、先進的な医療行為は健康保険では受けることができなくなる。その分を穴埋めする形でアメリカの保険会社の医療保険という、非常に紛らわしい名前の商品市場がどんどん拡大していく。
やがて、公的健康保険と民間の医療保険の住み分けは、医療行為による方法から、疾患単位の選別に変わるだろう。つまり、発生頻度が低くて高価な費用のかかる疾患にまつわる医療行為がすべて公的健康保険の対象から除外されるのだ。そうなると感冒や胃炎などの病気は公的健康保険で治療を受けられるが、肺栓塞症や大動脈解離といった病気は公的保険だけでは治療を受けられなくなるのだ。皮肉なことにそういう病気ほど致命的であり、治療費が高い。自由診療となって全額自己負担となれば、支払い可能な人はそう多くない。
そうなると致死的な病気に備えるためには、営利的な保険会社の医療保険に加入しておかなければならなくなる。やがて、多くの人が公的健康保険料を天引きされた後のなけなしの給料から、さらに民間保険会社の医療保険料を支払うことになる。家計を圧迫すること間違いなし。
それでも、そういった民間医療保険に加入できる人はまだよい。なぜならば、やがてはほとんどの胃療法医が自由診療となってしまうからです。医療保険料を支払うことができない人にそんな大金を負担できるわけがありません。ということは、具合が悪くなっても診断も治療も受けられず、苦しんで死ぬだけという人が続出してくるでしょう。
いったん混合診療を認めてしまえば、公的保険枠が大幅に削減されるのは火を見るより明らかです。雪だるま式に膨れ上がる社会保障費に頭を悩ませている財務省にとって、これほどありがたい話はないからです。最終的には、世界に冠たる日本の公的健康保険制度は完全に崩壊して、アメリカのハゲタカ保険会社の草刈り場となってしまうでしょう。
さらにアメリカはこの民間医療保険をより有効に売り込むために、病院も売り込もうとしています。巨大資本による超最先端の病院は、一部富裕層にとってはこの上ない医療を提供するでしょう。CEOがなん100億円という報酬をとるような営利企業としての病院が、心ある医療を提供するわけがありません。患者の病気やけがを元に莫大な利益を上げることが至上目的なのですから。
保険会社と結託して、保険料はいただくがいざ病気になったら「あーでもない、こうでもない」といちゃもんを付けて支払いを拒否します。医療保険に入っていても、実際に治療を受ける段になると、さらに高い実費を要求されるのです。
小泉、竹中がブッシュに貢いだ医療保険は、すでにしっかりと我が国に根をおろしてしまったようです。最近はテレビを付けるとどのチャンネルでも「医療保険」の広告ばかりです。
国民皆保険の根付いていたはずの私たちが、この摩訶不思議な保険商品に違和感を持たなくなってしまったことが恐ろしいのではないでしょうか。保険会社から見ればまだ序の口にすぎない商品でも、それだけ儲かるということも意味している。そしてすでに不当不払いの苦情が相次いでいることを知っていただきたい。

無条件TPP参加は、悪魔に国を得る行為といっても過言ではない。

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