投稿日:2013年2月11日|カテゴリ:コラム

先日、NHKの大型特別番組を観て、2月1日がテレビ放送記念日であることを知った。なんと今年は60周年に当たるそうだ。テレビはほぼ私と同世代ということになる。
1953(昭和28)年2月1日午後2時、東京・内幸町の東京放送会館から「JOAK-TV、こちらはNHK東京テレビジョンであります」の第一声が放送された。その年の8月には日本テレビ、翌1954(昭和29)年3月にNHK大阪と名古屋、1960(昭和30)年4月にラジオ東京(現在の東京放送(TBS))でもテレビ放送が開始された。当時の受信契約数は866台、受信料は月200円だったそうだ。
テレビの記憶としてはNHKの人形劇「チロリン村とくるみの木」を毎週楽しみにしていたことを思い出す。個性的な声優陣の中でも「くるみの頑固爺さん」の熊倉一雄さんの声が大好きだった。熊倉さんは「チロリン村」の後を継いだ人形劇「ひょっこりひょうたん島」でも「トラヒゲ」役で大活躍だった。
人形劇はやがて鉄腕アトム、鉄人28号といったアニメに取って代わられた。動画枚数が少なくて、今のアニメに比べるとはるかにぎごちない動きのアニメだったが、夢中になって観たものだ。
NHKの「夢で逢いましょう」と日本テレビの「シャボン玉ホリデー」はバラエティ番組の元祖だろう。「夢で逢いましょう」では毎月1曲、永六輔作詞、中村八大作曲による「今月のうた」が提供された。ここから「上を向いて歩こう」、「遠くへ行きたい」、「こんにちは赤ちゃん」などの大ヒット曲が生み出された。
一方、「シャボン玉ホリデー」からはザ・ピーナツのヒット曲の数々が生まれ、ピンク・レディの人気を不動のものにした。だがそれよりもクレージーキャッツのコントやギャグを日本中に広めた功績が大きいのではないだろうか。このコントの流れが後の「ゲバゲバ90分」、ドリフターズの「ドリフ大爆笑」、コント55号の一連のコント番組を作った。
テレビ放送開始当時はすべてが生番組で、ドラマでは舞台劇同様に役者は長い台詞を覚えなければならなかった。ハプニングが起きて、そこで放送中止となったことも少なくないらしい。
さすがに民放が普及した頃には録画技術が発達して、コマーシャル(CM)はビデオによるものがほとんどだったが、シャボン玉ホリデーではわざわざ生コマーシャルをやって視聴者の関心を図った。視聴者はいつザ・ピーナツやハナ肇がCMを始めるのだろうとわくわくしながら観ていたものだ。
視聴者が楽しみにしていたコマーシャルはシャボン玉ホリデーの生コマーシャルだけではない。美しい映像CM、おもしろおかしいCM、ちょっとエロチックなCM等々コマーシャルフィルムの作り手は創意を尽くして渾身の一作を創り上げた。その結果、テレビCMからは数々の流行語が生まれた。「オー!モーレツ(丸善石油)」、「ハヤシもあるでよ~(オリエンタルカレー)」、「インド人もびっくり(エスビー食品)」、「腕白でもいい、逞しく育ってほしい(丸大食品)」等々、枚挙にいとまがない。
流行語とは縁がなくても、観ていて楽しい作品もあった。私は日産自動車、スカイラインの広告「ケンとメリーのスカイライン」や開高健出演のサントリーウイスキー、ローヤルの広告などを観るのが楽しみだった。また、三井のリハウスに出演した14歳時の宮沢りえ演じる「白鳥麗子」の可愛らしかったこと。私は、番組そのものよりもCMを観たくてテレビを付けていたときもあったくらいだ。テレビコマーシャルは一つの映像文化を形作ったように思う。
とは言っても、いくらしゃれたCMも何回も観ると飽きてしまう。そういう場合にはコマーシャルタイムはトイレやお茶淹れに好都合の小休止となった。CMの無いNHKの番組に夢中になりすぎて、生理現象と苦闘した思い出がある。

さて60年たった現在のテレビ界はどうだろう。番組の質の凋落ぶりは何度となく述べてきたが、CMの質も相当に低くなっている。ソフトバンクモバイルの「白戸家」シリーズCMや、トミー・リー・ジョーンズ演じる宇宙人が主人公のサントリー缶コーヒー「ボス」のシリーズCMなど、観せるコマーシャルもあるし、キンチョーの「コバエがポットン」のように思わず吹き出すような面白CMもあるのだが、いかんせん、そのCMの打ち方があまりにも下劣なのだ。
同じフィルムを2度も3度も連続して流す。商品を強く印象付けたいのだろうが、うっとおしくてその商品に好印象を持てない。
また、長時間ドラマでよく見られる手法だが、初めのうちはCMをあまり流さない。ドラマが進行してくるに従ってCM回数が増え、佳境に入る頃になるとCMだらけになる。2分ドラマを観たと思ったら、5分のCMだ。トイレに行き、煙草を1本吸ってもまだコマーシャルをやっている。
ドラマの導入部でCMを入れると他局にチャンネルを回される。ある程度取り込んでしまえば、いやがおうでも最後まで観るだろう。あまりにも露骨でいやらしい商業主義である。10年以上も前に、「アメリカのテレビはコマーシャルばかりだ」という話を聴いたが、今の日本は10年前のアメリカと同じになった。こんなことまで我が国はアメリカ追従なのかと思うと情けなくなる。
最近我が家では、民放で観たいドラマがあるとHDに録画しておいて、後日CMを飛ばして観ることにしている。こうすると1時間ドラマが40分程度で一気に楽しむことができる。
この方法でテレビを観るのは我が家に限ったことではなく、多くの人がそうしていると聞いた。これでは強引にCMを見せようとしたことが逆効果であり、コマーシャル効果は全くなくなってしまう。目先の利益しか考えない商業主義が墓穴を掘ることをどうして分からないのだろうか。
こんなことを続けていると視聴者はますますネットに流れていき、やがては民放テレビの存在意義がなくなってしまうだろう。テレビ関係者も広告企業も初心に立ち戻り、テレビのあり方を再考すべき時にきているのではなかろうか。

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