投稿日:2013年1月21日|カテゴリ:コラム

東日本大震災から早、1年と10ヶ月が過ぎた。被災地の現況を伝える報道もめっきり減ったが、最近になって、計画的避難区域におけるずさんな除染作業の実体が問題となって、久しぶりに紙面を賑わした。ところで肝心の福島第一原子力発電所は、今いったいどうなっているのだろう。
大手マスメディアはこぞって口を閉ざしている。まるで統制が布かれているかのようだ。そんな中、東京新聞だけが「福島第一原発の現状」と題して定期的に報告している。
それによると一号炉については放射性物質の飛散を防ぐための建屋カバーが完成しているが、同じように水素爆発を起こして建屋が破壊された3号炉、4号炉については未だにカバーが施されておらず、破壊された施設がむき出しの野ざらし状態のままである。
この他、2号炉の温度計は6個のうち5個が故障し、高濃度汚染水の水漏れ事故は日常茶飯。建屋内の放射線量は相変わらず致死量レベルを推移し、高濃度汚染水は処理されるあてもなく、すでに8万トンも貯水されたままである。さらには新設中の汚染水処理装置の電源ケーブルが損傷し窒素供給装置が一時停止したりといった、ひやり・はっと事故も多発している。
こんな状況下で4号炉の使用済み核燃料棒貯蔵プールから燃料棒の取り出し作業のためのクレーンの設置作業が始まった。クレーン設置が完了するのがこの夏。その後1533本の燃料棒をすべて取り出し終わるまでには、すべてが順当に運んだとしても来年いっぱいかかる予定だという。野ざらし状態での危険極まりない作業が1年半も続くことになる。
今再び、福島が3.11クラスの震災に襲われたならば、日本列島はおろか、周辺近隣国に壊滅的な放射能被害をもたらすことは確実だ。

政府の終息宣言とは裏腹に、安全性と言う側面から見た場合、福島第1原発の現状は震災直後から大きく改善しているとは言えない。にもかかわらず、政府による意図的なマスコミ操作と日本人の忘れっぽさが相まって、今や福島原発のメルトダウン事故は遠い昔の話になりつつある。
すでに貯蔵施設は満杯でこれ以上保管さえままならないというのに、使用済み核燃料の処理問題など、全く話題にも上らない。それどころか、今や世論は3.11以前のように「円が下がった」、「東証株価指数が上がった」と大騒ぎ。狂乱のマネーゲームの再来を策す安倍政権によって、原発は一気に再開の方向に動き出すに違いない。
私たちは、あの3.11の福島原発事故から多くのことを学んだはずではないか。それなのに、2年もたたないうちに、何事もなかったかのように公共事業に群がり、マネーゲームに狂奔する生活に戻ろうとしている。
「学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し(あやうし)*1」と言う。殆い指導者に率いられた罔い民衆の行先は悲劇的結末しかなかろう。そうならなぬよう、私たちは自分たちで、福島第一原子力発電所の処理状況がどうなっているかを常に知っておく必要があるのではないかと考える。
大手報道機関を頼ることができないのだから、少なくとも週に1回くらいは原発関係諸機関のホームページなどをのぞいてみることをお勧めする。
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*1学びて思わざれば則し罔し、思いて学ばざれば則し殆し:出典:論語、いくら先生や本から学んでも、自分で考えなければ本当の知識として身につかない。一方、自分で考えるだけで人の教えを受けなければ独断に陥って危ない。と言っている。

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