投稿日:2012年8月13日|カテゴリ:コラム

アスピリンという薬を知らない方はいないのではないだろうか。痛み止めであり、熱さましである。また、最近では血液をサラサラに保つ効能でも広く使われている。
ところで、このアスピリンという名前が一商品名であることは案外知られていない。アスピリンとはドイツのバイエル社(Bayer)で製造されるアセチルサリチル酸の商品名なのだ。薬物としてはアセチルサリチル酸と呼ぶのが正しい。
因みに、米のブリストル・マイヤーズ・スクイブ社(Bristol-Myers Squibb )から発売されているバファリンは、アセチルサリチル酸の胃に対する副作用を緩和するために、アセチルサリチル酸の周囲をマグネシウムとアルミニウムで包んだ製品である。したがって、アスピリンもバファリンも同じアセチルサリチル酸製剤なのだ。
このように、一つの商品があまりにも有名になってしまい、その商品名が一般名となってしまう例はアスピリンに限らない。
エスカレータ(米、オーチス社)、ホッチキス(米、E.H.ホッチキス社)、キャタピラー《無限軌道走行装置》(米、キャタピラー社)、ポラロイドカメラ(ポラロイド社)、タバスコ(米、マキルヘニー社)、タッパウェアー(米、タッパウェアー社)、ジッパー(米、B.F.グッドリッチ社)など枚挙にいとまがない。
日本だって負けていない。ウォシュレット(日本、TOTO)、サランラップ(日本、旭化成)、セロテープ(日本、ニチバン)、ファミコン(日本、任天堂)、エレクトーン(日本、ヤマハ)、宅急便(日本、ヤマト運輸)、オセロ(長谷川五郎氏考案、)うどんすき(美々卯)、招福巻(小鯛雀鮨鮨萬)なども、もはや普通名詞となっている。
これとは逆に、一般的な名称が特定の商品や企業に間違われるケースもある。その一例が「月極駐車場」だ。言うまでもなく、これは月単位で契約する貸駐車場のことであるが、「月極」グループという大手フランチャイズ企業の駐車場だと誤解する人も少なくないと聞く。
だが、誤解したとしても不思議ではない。なぜならば、「月極」という2文字があまりにも強烈なインパクトを持っているからだ。とてつもなくでかい大企業を連想させるに十分だ。
そもそも本来の意味から言えば「月決め」と書くべきだろう。確かに江戸時代には決めることを極めると言ったそうだが、現代国語で「極める」と書かれた場合には「きわめる」と読んで、「物事を深く追求して本質や真相をつかむ」という意味になる。
もし「月決め駐車場」と書かれていれば、それを企業名と誤解する人はいないはずだ。最初に「月極」という文字を使った人は天才コピーライターだと思う。
私は、以前もっとすごいスケールの誤解を聞かされたことがある。先輩を車に乗せてゴルフ場へ行った時のことだ。その先輩が道路わきの看板を指さしてこう言った。「西川、このお店はどこに行ってもあるんだよ。アメリカに行ったときも沢山あった。」
先輩が指さす看板を見ると、大きく「IN」と書かれていた。

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