投稿日:2012年3月19日|カテゴリ:コラム

「地震、雷、火事、親父」と言えば、以前は怖いものの代表として喩えられてきた。しかし、父権が完全失墜した現在、親父はこの喩えから削除される。野山を歩いている時の雷は今でも十分に恐ろしいが、避雷針を設置した高層ビルに取り囲まれた都会では雷の恐ろしさは実感できない。火事も確かに怖いが、自分の心構えである程度防ぐことができる。やはり、恐怖の大王は地震と言えよう。
関東大震災以降次第に風化しかけていた恐怖が呼び起こされたのは14年前の1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災だった。早朝のテレビの画面に映る倒壊した高速道路の映像は平和ボケした私たちに冷や水を浴びせかけた。地震のもつエネルギー、マグニチュードが7.3程度であったにもかかわらず甚大な被害をもたらした阪神淡路大震災はあらためて都市部の直下型地震の怖さを思い知らすものとなった。
その後、2004年の新潟県中越地震(M6.8)では初めて震度7を記録。2007年新潟県中越沖地震(M6.8)では柏崎刈羽原子力発電所で震度7を記録し、日本における原発の地震に対する危険性が注目された。今から思えばこういった一連のプレート内地震は来るべき大災害に対する自然からの警告であったのかもしれない。
そして昨年3月11日世界で最も地震に慣れているはずの日本人が、改めて地震の底知れぬ恐怖を味わった。3月11日14時46分18秒、宮城県牡鹿半島東南東沖130kmの海底、深さ24kmを震源とする東北地方太平洋沖地震はマグニチュード9.0(観測史上第4位)、最大震度7で、東北から関東にかけて東日本一帯に甚大な被害をもたらした。人的被害は地震そのものによるのではなく、地震によって引き起こされた巨大津波によるものであった。最大溯上高40m、訴状距離は数kmにおよび、津波による浸水面積は6県62市町村、561km2にも及んだ。
あまりに壊滅的かつ広範囲なために、さらには津波によって引き起こされた福島大原子力発電所のメルトダウン事故のために、1年たった今も復興さえおぼつかない。しかも、この大地震の本態である北アメリカプレートと太平洋プレート間のずれが本当に終わったのかさえ怪しい状況だ。
というのは、長く続く境界線の中央部分が大きくずれたのに、東北以北と以南の境界がずれ残っているからだ。事実、大震災以降も件のプレート境界の延長上にある北海道沖、アリューシャン列島沖、そして千葉東方沖付近でM3~6の地震が続いている。これら境界部分が最終崩落すれば昨年と同程度の大地震が起きる可能性がある。もし千葉東方沖でM9クラスの地震が起きるとすれば首都圏の被害は昨年の震災の比ではない。
さらに、最近危惧されているのが直下型地震である。直下型地震とはプレート内の活断層がずれることによって起きる地震であって、プレート境界型の地震に比べればそのエネルギーは大きくない。大きくてもM7どまりと考えられる。しかし、地震エネルギーは小さくても侮ることはできない。なぜならば震源が首都近傍で浅いからである。震源が近ければ同じエネルギーの地震でも地表部の揺れは大きくなる。現在政府は最大震度7の直下型地震を想定している。震度7の揺れは首都機能が壊滅すると言っているに等しい。
実際、先の大地震で関東地方の土地も数10cmの幅で東にずれて、また下に沈んでいる。プレート間の歪は解消されたとしてもプレート内部は逆に歪が増大していると考えられる。立川断層を始め多くの活断層が、その歪の解消のために自身を引き起こす可能性が大きいのだ。

現在我が国で使われている気象庁震度階級においては震度7の激震以上の震度はない。つまり、そう遠くない日に東京を襲うであろう地震は現在想定されうる揺れの中でもっとも激しい揺れがくるかもしれないと言っているのである。
震度7とは人は殆ど立っていられない。殆どの建物の外壁タイルが剥離し窓ガラスが破損する。耐震性の低い住宅は全壊し、耐震性の高い建物でも傾いたり大きく破壊されるものがあるという揺れを言う。
ここで疑問が湧く。なぜ震度8以上がないのであろう。すべての建物が倒壊する揺れが来ないとどうして言えるのだろう。
答えは気象庁が過去の記録から、我が国における地震の揺れは震度7までと考えたからにすぎない。だからこれから先、実際にもっと激烈な揺れを体験すれば震度階級に8以上の数字が設定されることになる。過去に遡れば昔は震度は6までしかなかった。1948年の福井地震で9割以上の建物が倒壊するという壊滅的な被害を診たために震度7が設定された。つまり、震度とは今まではこれ以上の揺れはなかったから、この先もそれより強い揺れは来ないだろうという経験法則によって最大値を決めているだけのものなのだ。
記録が残っている中で最大エネルギーの地震は1960年のチリ地震のM9.5である。これを超える地震がくる可能性はないのかというとそうでもないらしい。マグニチュードの算出式は[エネルギー]=[ずれた断層面積]×[ずれた距離]である。これから地質学的に過去の地震エネルギーを推定すると1000年に一度くらいはマグニチュード10を超える地震が起こっていた可能性があるようだ。
東北地方太平洋沖地震でさえ地球の自転軸にずれを引き起こした。この32倍のエネルギーを持つM10の地震が起きたらいったいどういうことが起きるのか。計算上の予測値をみると震源域の長さは16000km(地球半周)におよび、地震継続時間は2時間半。高さ500mに達する津波が海岸から10km以上遡上する。そしてその後半年の間に震度7クラスの余震が200回以上続くとされる。
マグニチュードが12になると地球がまっぷたつに割れることになる。こうなるともはや地震とは呼べないだろう。
なんともはや恐ろしい話だが、M10を超える地震に遭遇した場合、恐ろしいと感じる間もなく私たちは死んでしまうだろうから、それほど心配しなくてよい。むしろ天文学的な確率で生存した場合の方がその後地獄の日々を味わうことになりそうだ。
2億5千万年前の地球には、大陸はパンゲア大陸という超大陸一つしかなかった。この超大陸が2億万年前から分裂を始め今の地球の形になった。しかし、今の形が完成型であるわけではなく、今現在もプレートは移動を続けている。すなわち太平洋は左右から押されて狭くなり、大西洋が拡大を続ける。そして数億年後には再び一つの超大陸に集合する。
超巨大地震はこの過程で生まれてくるわけだから、M10を超える地震に遭遇した時には、身の不幸を恨むのではなく、偉大な地球史的イヴェントに遭遇できた幸運を感謝すべきかもしれない。

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