投稿日:2012年3月12日|カテゴリ:コラム

ホワイトデー(3月14日)は今や日本男子が忘れてはならない大切な日となった感がある。2月14日のバレンタインデーが我が国に定着するに連れて男子から女子にお返しをする習慣が生まれた。その日がホワイトデーだ。バンレンタインデーの本家本元であるキリスト教圏の欧米各国にこの習慣はない。したがってホワイトデーという記念日すら存在しない。
そもそも大元のバレンタインデーの由来は古代ローマ帝国時代に遡る。当時ローマでは2月14日はすべての神の女王であるユノを祝う日であった。翌15日から始まる、豊年を祈願するルペルカリア祭の前日である。ルペルカリア祭の間は、普段は離れて生活している若い男女が、決められたパートナーと一緒にいることと定められていた。このパートナーを決める儀式が行われるのが前日に当たるユノ神の祝日であった。多くの若者がその相手と恋に落ちて結ばれたことから、2月14日は当時のローマの若者にとっては一生の伴侶を決める重要な日であった。
一方、クラウディウス2世は、愛する者を持つ兵士は士気が低いという理由から、ローマにおける兵士の結婚を禁じた。しかし、キリスト教司祭であったヴァレンティヌスは愛する者と結婚できない兵士たちを憐れんで、秘密裏に結婚させた。しかし、この事実が皇帝の知るところとなり、捕えられて処刑された。このヴァレンティヌスの処刑がユノの祭日に行われたことから、以来2月14日はキリスト教徒にとって恋人たちが愛を誓い合う日として祝われるようになった。
キリスト教国でない我が国へのバレンタインデーの導入は製菓業界や流通業界の力による。戦後、彼らがお菓子の販売促進を目論んでバレンタインデーを「女性が男性に愛を告白してよい日」、「親愛の情の証としてチョコレートを贈る日」というキャンペーンを張った。この努力が1970年代後半になって花開き、それ以来2月はチョコレートの売り上げが大幅に上昇。こうして日本独自のバレンタインデーが発展確立した。
当時はまだ女性が控えめであったから、乙女の方から愛を告白するということはなかなか抵抗があった。ところが、2月14日だけは公然と女性が意中の男性にアタックできるようになったのだから、バレンタインデーの定着は製菓業界が潤う以外にも、それなりに社会的意義があったように思う。
だが、そこは世間体を重んじる日本の社会。本命の男性以外にも、普段お世話になっている男性にもチョコレートをプレゼント。お世話になっていなくても、贈らないということで悪意を持たれては困る男性にもプレゼント。さらには家族、顔見知りとプレゼント対象者が増えて、欧米人から見たら到底理解不能の「義理チョコ」という習慣にまで発展した。製菓業者の思惑は見事大成功。
ところが彼らの欲望はこれだけでは収まらなかった。女性だけに買わせる手はない。この際男どもにもお菓子を買わせようと考えた。こうして、バレンタインデーにチョコレートをもらった男性は1ヶ月後の3月14日にマシュマロやキャンディをお返ししようというキャンペーンが開始された。
当初は「マシュマロデー」とか「キャンディの日」と呼ばれたが、他の菓子業者を配慮して砂糖の白に因んで「ホワイトデー」と改名された。元来、お中元、お歳暮という欧米にはないお返しの文化が根付いていた日本には、宗教的裏付けのないホワイトデーがなんの抵抗もなく受け入れられた。
やがてバレンタインデーやホワイトデーの贈り物はお菓子に限られなくなった。お互い本命視している相手への贈り物はバッグ、時計、宝飾品へとエスカレートしていった。
一方で、社会環境の変化に伴って積極的な女性が増え、かたや男性は消極的になって俗に草食系男子と呼ばれるような一群が増えた。こうなると、その力関係が反映してホワイトデーのプレゼント相場がぐんと跳ね上がる。
贈りものへのお返しは通常、御祝儀は倍返し、不祝儀は半返しと言われる。ところが近年、女性たちは女性誌を通じてホワイトデーの贈り物はバレンタインデーの三倍返しが常識などという不埒千万な世論誘導をして、男の財布からできる限り絞り取ろうと目論んでいる。
情けないことに、鼻の下の長い男共は蛇に見込まれた蛙の如く、まんまと罠に嵌ってしまう。その結果、最近のホワイトデーには香水や宝飾品などを扱う店がおおいに潤っているらしい。
一方で、女性はバレンタインデーに女性だけが贈り物をするのは理不尽だと言いだした。欧米並みに男女双方から贈り物をすべきという意見が出ている。実際、本家のバレンタインデーは性を問わない愛の告白日である。この主張を飲んでバレンタインデーに女性に対して贈り物をする男性が増えていると聞く。もしそうであるならば、お返しのホワイトデーは無くせば良いのだが、自己主張の強くなった女性群が既得権益を手放すわけはない。
飽くなき物欲の亡者と化した一部の女性に至ってはバレンタインデーには男性が贈り物をして、ホワイトデーには気持ちを受け取ってもらったお礼に男性がまた贈る習慣にすべきと主張しているという。げに怖ろしきは女なり。

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