投稿日:2011年11月28日|カテゴリ:コラム

「愚か者」、「うつけ者」は馬鹿者を意味する。しかし、知能指数が低い精神発達遅滞者とはニュアンスを異にする。

大王製紙前会長、井川意高(もとたか)(47歳)が特別背任容疑で逮捕された。容疑内容は大王製紙の連結子会社から総額106億円も借り入れてカジノに使ってしまったというものだ。使いこんだ額も前代未聞だが、その使い道もまた破天荒。一部上場会社のオーナー会長としての資質どころか一人前の大人なのかさえも疑われる行為である。呆れて口が塞がらないとはこのことだ。
井川家や大王製紙と縁もゆかりもない私だから口を開けておくだけですむが、関係者はいったいどういう思いでこのニュースを聞いているのだろうか。虎の子の資金で大王製紙株を買った株主の怒りもさることながら、時給何百円かで一生懸命働いている大王製紙関連企業の従業員の無念さは想像に余りある。
ワンマン経営者が会社の金を私物化する例はこれまでにもよくあった。しかし、今回ほど児戯的な行為はなかったのではないだろうか。
リヤカーによる古紙回収から身を起こした祖父、一度潰れかけた同社をティッシュペーパーのまとめ売りで立て直した中興の祖である父。当然、井川家は大王グループ内で天皇家のような存在になった。3代目に当たる意高が将来グループ企業の総帥になることを運命づけられて教育されてきたことは想像に難くない。はたして井川家の帝王学とは。
意高は小学生の頃から飛行機で東京の進学塾に通っていたという。その甲斐あって、有数の進学校に進み、さらには東大法学部に合格する。さぞや親も鼻高々であったろう。ところが彼は学生時代からギャンブルにはまり、銀座の高級クラブの常連だったとも聞く。学生の分際でそういった金の使い方を覚えるのも井川家にとっては帝王学であったのだろうか。
外見はテレビで見るとおり、すっきり爽やかな二枚目。とても47歳には見えない。この外見を若々しくて素敵とみることもできようが、未熟で責任感のない青二才にも見える。今回の行動に鑑みれば後者が正しいと言える。
東大の入試を突破する能力は育ったものの、大人として身につけておかなければならないそれ以外の力、道徳力、責任感、人を思いやる力など、そして何より、やって良いことと悪いことの区別ができる能力は一切育たなかったようだ。結果として、英語の単語を覚えたり数学の問題を解く能力以外の重要な多くの能力が欠落した未熟な大人もどきが出来上がってしまった。こういう人間を愚か者、うつけ者と呼ぶ。
現代では試験問題を解く能力だけを見て頭の良し悪しを問うようになってしまったが、性格を含めてそれ以外の人間力も実は脳の機能である。したがって意高のような男を「頭がいいのに無責任な男」と表現するのは実は間違いなのである。「試験問題を解く能力だけしかない頭の悪い男」なのだ。
井川家の帝王学はこういう頭の悪い男を育て上げた。子供を育てるのも脳の能力の一つなのだから意高の親もまた愚か者と言える。改めて親の顔を見てみたい。

若さを売り物にする傾向は意高に始まったことではない。実際に政治家を見ても昔の政治家に比べて皆若々しい。街を歩くサラリーマンも実年齢より若く見える人が多い。外見は中身をよく表す。日本人全員が昔に比べて未熟なように思う。実際、結構な地位にいるのに大人としての責任あるけじめをつけられない人が増えている。言い換えれば、愚か者が増えたのだ。
こうなった原因は何か。私は、戦後の親たちが教育とは試験の点数を取る能力を高めることだと思い違いしてきたことにあるように思う。そういう親は、教育は学校や塾の責任だと思っている。だから、学校で何かあるとヒステリックに教師たちを責め立てるばかりで、親としての自責のかけらも持ち合わせない。ところが本当に大事な教育は学校では教えられないことなのだと私は思う。それは家庭や地域で親や身近な人が身をもって教え込むことなのである。
戦後における家族と地域の崩壊は我が国に深刻な社会病理をもたらした。

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