投稿日:2011年8月1日|カテゴリ:コラム

しばしば自分の愚かさを自覚する場面がある。その1つがゴルフ道具の広告を見る時だ。これまでにいやというほど裏切られ続けたにもかかわらず、あいかわらず「飛んで曲がらないクラブ」という謳い文句に目がいってしまうからだ。
私は何年ゴルフをやってもいっこうにまともなスコアが出せない。原因が己の技量にあるということは十分承知している。まっとうな人間ならば、自分に才能がないと知れば、毎日走り込むとか、練習場に日参して手に豆ができるくらい球を打ちこむのだろう。ところが、根っからの怠け者にできている私は、練習どころか日長愛猫たちと一緒にごろごろしてばかりである。これではゴルフの上達を望むべくもない。
ところが始末が悪いことに欲望だけは人一倍大きいときている。ベストスコア更新の未練を断ち切れないのだ。では労せずしてこの欲望を満足するためにはいったいどうすればよいのだろうか。いろいろ考えてみたが、思いつくアイデアは皆重大なルール違反ばかり。ルールやマナーに違反しないとなると道具に頼るしかない。というわけで通販の怪しげな謳い文句に目を奪われてしまうことになる。
「飛んで曲がらず、スコアがアップ」それなのにこの値段。そんなうまい話があるはずがないと知りつつも、今度こそというはかない夢にすがって一度ならず買ってしまうことになる。こうして購入しては私をがっかりさせた品は数えきれない。その中の極めつけは「ハンマーリキッド」と名付けられたドライバーだ。
ゴルフクラブでボールを打つ瞬間を詳しく分析すると、クラブフェースがボールに当たった時、作用・反作用の法則でほんの一瞬だけクラブフェースが凹む。そして金属のもつ反発力が元に戻ろうとして膨らんでボールをはじき出す。
キャッチコピーによるとハンマーリキッドはクラブヘッドの中に液体が仕込まれている。そこで先ほどのクラブフェースがたわんで戻る際に、中に仕込まれた液体がフェース裏面に直撃してより強くボールを遠くへ弾き飛ばすと言う。そしてその圧力は驚くなかれ、なんと1平方センチメーター当たり1トンにも及ぶとあるのだ。
こうなるともう「1トン」という数字だけが私の頭の中を駆け巡る。なぜ1トンと計算できるのか、なぜクラブフェースがボールを押し返す絶妙のタイミングでフェース裏面に液体が衝突するのか、そういった疑問は「1トン」という魔法の言葉にかき消されてしまう。正常な思考回路は完全に停止して、巨大な大砲が小さなゴルフボールを吹き飛ばすイメージだけが浮かんで焼きついてしまった。早速購入したが、結果はいつも通り、180から200ヤード先の左右の林や崖下に打ち込むばかり。「今度こそは」の期待の秘密兵器も、ほどなく物置行きとなった。
残念ではあるが、期待通りの結果が出たとしてもクラブヘッドの中に怪しげなものを入れることは重大な規則違反だから、本来使用禁止であり、物置行きは逃れられなかっただろう。しかも、その後この手のクラブが売り出されたと言う話を聞かないから、「1トンの水」の効用はさほどではなかったようだ。

才能も向上心もなく、秘密兵器も駄目だとなると、ゴルフを止めるのが最善策である。それなのになぜ私が貴重な休日を性懲りもなくゴルフに費やしているのかと言えば、私にとってのゴルフとは家族や気のおけない仲間と楽しい一日を過ごす手段だからにほかならない。
ゴルフは最大4名で一緒にプレイする。スムースに回っても18ホールで4~5時間、食事に30~40分かかるから、合計6時間近くを一緒に過ごすことになる。私はこの間のたわいない会話がとても楽しい。中にはへぼと口をきいたらその日のスコアを崩すばかりか、その後のゴルフ人生が台無しになるとばかりに、緘黙を保ち、ゴルフだけに集中する方もいるが、たいていの人はあーだこーだとおしゃべりに花が咲く。
話題はさまざまで、なでしこジャパン、中国の列車穴埋め作業からパスタの美味しい店、猫自慢までジャンルを問わないが、政治の話はできるだけ避けることにしている。残りの時間を気まずい雰囲気で過ごす可能性があるからだ。
初対面の人と一緒の時にはその人の背景を全く知らないので、話題の選択が難しくなる。ゴルフの腕前を褒めておけばよさそうだが、そうでもない。「ナイスショット!」と掛け声をかけたら怒りだす人もいるからだ。「俺様の腕はこんなものではない。これきしの当たりを俺のベストショットと思われるのは大変心外である。」ということらしい。
そういう気難しい人も必ず大受けしてその後この話題で持ちきりになること間違いなしの話がある。但し、男だけのパーティに限るが。

「うちの女房は最新のドライバー。高反発、低重心、デカヘッド。」
数秒絶たずして大笑いになる。それから必ず各自の女房自慢が始まる。
「○○さんの奥さんは低重心、デカヘッドではないでしょ。でも反発係数の高さはよくわかる。同情するよ」
「うちのやつこのところ贅肉が付いて一層低重心になったよ」
「うちのもよせばいいのにかつらなんか付けたから超デカヘッド」
「うちの家内の反発係数は○○さんちに、ひけをとらないよ。一言文句言ったら最低10言は返ってくるから、一切逆らわないことにしてるよ」
ゴルフのドライバーはあまり飛びすぎるということで、数年前に規制がかかって反発係数とヘッド容量に限度が設けられ、反発係数比べとヘッドの大きさ競争は終わった。
一方世の女性陣はと言えば、ダイエット、エステに勤しんでスリムになり、小顔になった方が多いが、反発力だけはますます強くなっているように思う。私たち男性が太刀打ちできる領域をはるかに超えてしまった感がある。
いまやどの家庭にも規則破りの違反ドライバーが備わっているのではなかろうか。

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