投稿日:2011年5月9日|カテゴリ:コラム

現在、我が国では20歳を持って成人として扱われます。しかし、種々の点で早熟化が見られるので、18歳以上を成人として扱うべきだとの意見が主流になってきています。
ところでそもそも、子どもと大人の違いとは一体何なのでしょう。言い換えれば、どうなれば大人と認められるのでしょうか。
生物学的に考えれば、第二次性徴がみられて生殖能力を獲得するということが成体になるということでしょう。オスは射精能力、メスは排卵能力が成体としての証です。人間の場合にはこういった内部の変化に伴って陰毛が生えて女性は乳房が発達します。他の生物と同様にこの生殖能力を基準に考えれば、現在の日本人は11歳くらいで大人と言えるかもしれません。その証拠に、芸能界ではこのくらいの女性タレントを見かけます。
この他の身体的な基準としては乳歯から永久歯への生え変わり、頭部の身体全体に対する比率の縮小、頭部における顔面の比率の拡大などを思いつきます。しかし一般的には、いくら肉体が大人の形をしていても小学生を大人とはみなすことはできないでしょう。

精神的には自我の確立と言われています。自我が確立するということは意識や行動の主体である自分自身と外界や他人とを区別する能力を獲得するということです。子供の頃はこの自我機能があいまいです。母が喜ぶことが自分の喜びですし、父の怒りは自分の悲しみです。自分と親との区別があいまいです。しかし、年齢とともに自分は自分であって、どんなに身近な存在であっても他人とは違うと認識できるようになります。自分と他人とは同じようには感じず、同じ考えを持たないことが分かるようになります。
私は、この自我機能の発達を裏付ける一つの変化は嘘をつくことができるようになるということではないかと考えます。どんなに親から「嘘をついてはいけない」と言われても、自分とは違う他人の集団の中で、自分を守って、他人と摩擦を起こさずに生きていくためには、嘘をつかねばならないことを洞察するのです。この変化が大人になるということではないでしょうか。
自我機能の発達は身体的な第二次性徴とほぼ並行していると思われます。陰毛が生えて異性を求めるようになる頃には立派な嘘つきになっています。しかし、私たち人間社会の中では色気づいて嘘つきになったからと言って大人になったとは言えません。大人の社会行動が必要とされます。

他の動物で行動面の成熟を考えると、巣立ちと採食行動の自立を挙げることができます。鳥の場合は、巣の中で親鳥から口移しで餌をもらうのでなく、自分の翼で餌を求めて羽ばたけるようになると成鳥になったと言えます。哺乳類でも離乳して草葉を食べたり、小動物を捕獲できるようになることが一人前と認められる条件です。
このように自立生活するための能力を成熟の基準と考えると、社会的生物であるヒトの場合には、その個体が所属する社会によって大人になる年齢が異なってきます。
第一次産業を基盤としている社会では第二次性徴とほぼ同時期に自立可能となります。ところが、技能の習得が必要な第二次産業社会では生活の自立にもう少し年月を必要とします。さらに、日本のような先進国では一人で生計を営むためには膨大な専門知識の獲得を要求されるので、そのためには気の遠くなるような歳月を要求されます。最近の我が国では30歳になっても親のすねをかじっている若者もそう珍しくありません。つまり、社会が複雑に発達するにつれて生物学的な成熟年齢と社会的な自立年齢との乖離が大きくなります。身体が大人なのに自立できない中途半端な状態の人間が増えているのです。
さらに私の考えでは、経済的には自立できていても、本当の意味で成熟した大人とは言えないと思います。なぜならば、大人であるためには自分の行動にきちんと責任をとる能力が不可欠だと考えるからです。そして、今の日本ではこの能力が発達しないままの人を数多く見かけます。
異性の気を引く技術と金儲けや出世術には長けていても、何かうまくいかないことがあると、他人のせいにしたり、みっともない言い訳に終始する人が目につきます。本来、皆の手本にならなければならない、議員や企業のトップといった社会を指導すべき立場にある人までもが、小学生のような言い訳を繰り返す姿を見るのは情けない限りです。
大人の責任の取り方まで言い出すと、若者に限らず、私たちの年代の者でも十分に大人になりきれていない人が少なくありません。そして、身体的成熟と精神的、社会的成熟が乖離した人間は社会のあちこちで問題を引き起こします。現在我が国で起こるさまざまな事件の背景にこうした乖離現象が横たわっていると私は考えます。
何歳から成人として扱うかを議論する前に、いい年をした私たち自身がもっと成熟する必要があるようです。

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