投稿日:2011年5月2日|カテゴリ:コラム

ワイドショーを観ていると、「これは国がなんとかするべきでしょう」という発言をよく耳にします。震災後はこの発言がひときわ多くなりました。一つの番組枠の中で何十回も耳にするほどです。確かに、津波、原発事故、液状化のどれ一つを取り上げても、一個人、一企業の負担で解決できるものはなさそうです。
ですが、取り上げられる問題すべてについて、最終的には司会者が決まり文句のように「これは国が責任を・・・・・」と纏めてしまうのを観ているうちに、何やら違和感を覚えてきました。「この人たちの言っている国っていったい何なのだろう?」
彼らが「国」と言っている時に思い浮かべているのは眠たそうな管総理の顔なのでしょうか、それとも霞が関の庁舎なのでしょうか。私たちもなんとなく「国」という自分たちと違う次元の「お上(おかみ)」を連想して納得してしまいます。
ぶーぶー文句は言っても最終的には逆らえないもの。困った時にはなんとかしてくれる存在。そんなイメージで捉えているのではないでしょうか。日本人の国家感はどうやら長い江戸時代の幕府のイメージからなかなか抜け出せないようです。
明治維新によって近代国家になったとは言っても、維新はフランス革命のような市民革命ではありません。所詮、徳川家と薩長をはじめとする諸藩の権力闘争でした。さらに、太平洋戦争後に導入された民主主義も一般市民が戦って勝ちえたものではありません。戦勝国である米国から強制的に与えられたものです。このために民主国家の本質を十分に消化できず、未だに江戸幕府のお上意識が残っているのではないでしょうか。
何か被害が起きると安易に「国が補償すべきだ」と結論付けるのは今述べた国家感に基づくのではないかと考えます。今回の東日本大震災のような広範囲、かつ深刻な災害は国家レベルで対処する以外に方法がないことに異論はありません。しかし、国はドラえもんではありません。国が支払うということは私たち国民、納税者が支払うということであることを忘れてはいけません。しかし、「国がやるべきだ」と口を尖らせて叫ぶ人の中には国の金と自分の財布とは全く無関係だと思っているふしが見受けられます。
民主国家においては国民が主権者です。主権者ということは自分の責任であるということでもあります。政治という舞台劇を座視して役者の演技にケチをつけているだけの観客ではいられないのです。自分自身がこの舞台を成功裏に運ぶために汗をかかなければなりません。それが民主主義です。
納税者は国の財布は自分の財布だという意識をもっと強く持たなければなりません。しかし、納税を免れている人が国家の主体者であるという自覚を持てないのは仕方ないのかもしれません。生活保護者は税を支払うどころか生活費を国から支給されています。「国=お上」という意識にならざるを得ないでしょう。この生活保護者が急増して200万人を超えたものと思われます。生活保護者以外にも低所得のために納税を免れている人も多数います。こうして非納税者が増えていくと、国民に健康な国家感がますます失われていきます。
国民が必ずしも納税者でないと言いましたが、逆に、納税しているのに国民でない人もいます。在日外国人です。彼らは代々日本に住みついてちゃんと納税していても日本国民とは認められず参政権がありません。

国の主権者は私たち国民ですが、国家は私たちに奉仕する存在ではありません。この仕組みを一番よく理解できるのが自衛隊です。いま、自衛隊員の半数近くが東北の被災地で不眠不休の救援活動を行っています。しかし、こういった活動は幸い現在、対外的な戦争がないのでサービスとしてやってくれているのです。
本来自衛隊という軍隊の活動目的は国を守ることであって国民を守ることではありません。国民の生命、財産を守るのは警察の役目です。軍隊の主務は国を守ることです。したがって、国を守るために国民が障害となる状況下では、その国民を倒してでも国を守るのです。
国民の屍を乗り越えて守るべき国とはいったい何なのでしょう。ここで言う国とは国土と国家体制、伝統・文化のことのようです。国土は説明するまでもなく日本列島とその周辺領海、領空のことです。次の体制、伝統・文化となると実にあいまいです。漠然と「国のありよう」といったところでしょうか。
日本帝国では明確に現人神、天皇が臣民をすべる国家体制、「国体」を守ると考えていました。敗戦色濃い中、国体護持のために一億玉砕となってもポツダム宣言を受諾せずとした強硬派の強い抵抗があったのはこの理由からです。
現在はさすがに、はっきり「国体」とはいいませんが、抽象的な国家を守るためには国民は二の次という考え方は今も変わりません。

国も国民もその意味するところは極めてあいまいです。安易に「国」、「国民」と口にする前に国と国民のあり方についてもっと掘り下げて考えてみなければならないようです。

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