投稿日:2011年4月11日|カテゴリ:コラム

東京電力管内の電力不足は暖かい春の訪れとともに一息ついた感があります。この間、未曾有の大停電を避けることができた最大の理由は、私たち国民が計画停電という緊急対策を従順に受け入れるだけではなく、多くの人が自らさらなる節電を心がけたことです。
一部に醜い買いだめ行動も見られましたが、多くの国民はこの国難に節度をもって臨みました。被災者たちに思いを寄せて、暴動を起こすことなく我慢の生活を絶える日本人の姿は諸外国のメディアによって称賛の言葉を添えて報じられました。
先日テレビの街頭インタビューでの回答では、「洋服を一枚多く来て暖房の設定温度を下げている」、「なるべく家族が一緒に一部屋で長く過ごすようにしている」、「使っていない電気製品はコンセントを抜いている」、「洗濯物を貯めて選択の回数を減らしている」、「早寝早起きの生活にして夜間の電気消費を減らしている」など様々でした。中には、「電気掃除機をしまって箒で掃除している」と、実にけなげな努力をしている方もいました。危機的な状況に対して一致団結してことに当たる、こういう国民性が、太平洋戦争時に米国を恐れさせたのでしょう。
さて、私たちの涙ぐましい節電にもかかわらず、今年の夏は大ピンチが想定されます。なぜならば、地球温暖化と言われている現象によって、近年の夏の気温は上昇の一途を辿っています。この夏もかなり暑くなりそうです。特にアスファルトで固められた都会では冷房なしには生命が危険に陥るほどです。畢竟、冷房のために莫大な電力消費が予測されます。
現時点での東京電力の試算によると、今年の夏が昨年と同じ程度の猛暑となった場合、各人がエアコンの設定温度を高めに設定したとしても、東電管内の電力消費は瞬間最大6000万キロワットに達します。ところが、福島第1および第2原子力発電所が運転を停止している現在、東電の現時点における電力供給能力は約4000万キロワットでしかありません。
原子力発電再開は絶望的です。そこで震災で被災した鹿島火力発電所の復旧を急ぎ、現在休止中の火力発電所を急いで稼働させ、タイや韓国から提供されたガスタービン発電機を回し、関西電力からの電力融通を受けたとしても6000万キロワットはおろか、5000万キロワットも危うい状況です。
電力確保を難しくしている1つの要因は、大井川を境として以東と以西とで電流の周波数が異なっていることです。東京電力、東北電力、北海道電力は50Hz、関西電力、中部電力などは60Hzとなっています。このために関西の余剰電力を関東に回そうとしても、ただ送電線を繋ぐだけではだめなのです。周波数変換装置によって50Hzに変換しなければなりません。この装置が一度に多量の電流を変換できないのだそうです。しかも、この設備の増設は火力発電所建設よりも時間がかかるときているので、とても今年の夏には間に合わないと言うのです。
どうしてこんな不便な電力事情になったのかというと、明治維新後、電気事業を興すにあたって、東京電力がドイツの発電機を導入し、関西電力はアメリカ製の発電機を導入したからだと聞きます。こんな小さな島国で使用電気の規格がが統一されていないとは何とも馬鹿げた話です。
しかし、明治政府の先見性のなさを避難していても今年の夏の電力不足の解決にはなりません。さらなる工夫をして今年の猛暑を生き延びなければなりません。
現在政府が考えている対策は、エアコン設定温度の引き上げ、企業の時間差操業、サマータイムの採用、強制的に電力所費を抑える電力使用制限令の発動まで、いろいろと考えられていますが、未だ決定打は見つかていないようです。
私からの提案は、大井川以西の60Hzの電気をそのまま関東に流すことです。私が幼いころの電気製品の隅には「50Hz用」、「60Hz用」と明記されていて、確かに東京で使っていた電気製品を関西に持っていって使えることができない場合がありました。
ところが、最近の家電製品で関西に引っ越したら使えなかったなどというものがあるでしょうか。私の知る限り身近な電気製品は日本中どこへ行っても使用できます。つまり最近の家電製品は50Hzの電気でも60Hzでも使えるものがほとんどです。ですから中部、関西電力からそのまま関東地方に送電して、特定地域の家庭用電力をまかなえばよいのです。当然電気料金は関西電力に直接支払います。東京電力はこれだけの不祥事を起こしているのですから、縄張り意識を捨て門戸開放するはずです。
ただ工場で使用する大型モーターなどは周波数が異なると正常に作動しないそうです。こういう工場が多い特定の工業地帯には周波数変換機を経由した分を回すのです。一部の大口に変換した西からの電力を、一般家庭には60Hzのままの余剰電力を割り当てれば、電力事情はかなり融通が聞くようになると思います。
さて、「人さまに偉そうに指図しておいてお前自身はいったい何をやっているんだ」と思われる方もいらっしゃると思いますので、我が家の節電の実態をご報告します。
まずはテレビの電源。これはリモコンではなく元スイッチで操作しています。これによって待機電力を使わなくなりました。以前はつけっぱなしにしていたパソコンの電源をこまめに切ることにしています。
冷蔵庫が沢山あったのですが、中身を大掃除して一つを破棄、もう一つは電源を切って単なるストッカーにしました。
クリニックにおいても使用しない部屋の電気は消しました。また、屋上の看板照明と入口近くの袖看板の照明を消しました。閉院間近の時刻に来院される方は、終わってしまったと勘違いされそうです。7時まではちゃんとやっておりますのでご心配なく。
今までも順次切り替えていたのですが、出来る限り照明をLEDないしは蛍光灯に切り替えています。本当はすべてLEDに切り替えたいのですが、LEDランプはまだとても高価です。低用量の照明はすでに取り替えていたのですが60W、100wクラスだと5000円近い値札を見てこれまではちゅうちょしてきました。しかし、今回の震災をきっかけに意を決して、先日購入してきました。
でも、チューブ状の蛍光灯に変わるLEDランプはなんと2万円もするのでさすがに手が出ません。家電メーカー、政府は一丸となってLEDランプの普及のために補助金を出してでも価格を下げるべきでしょう。
我が家で行っているもう少し大規模な節電は太陽光発電です。これは今回の騒ぎで取り付けたのではなく、すでに一年以上前から設置してあります。家庭用としては大面積のパネルを敷設したので、日中は6キロワットほどをまかなってくれています。日照時間が長くなる夏には東京電力からの送電をかなり節約できます。
太陽光発電は日中だけしか作動しません。夜間は今まで通り東京電力からの電気に頼っています。本当は都市ガスによる発電エネファームも設置したかったのですが初期費用が高いので断念しましたが、これから先の日本のエネルギー事情を考えると再考しなければならないと考えています。
当然のことながら、できる限り家族が一緒に過ごす時間を増やして個人の部屋の照明時間を削減するつもりです。

前回のコラムで、東日本大震災を機に私たちの生活様式や価値観を変えていく必要があると述べましたが、電力を節約するために家族が1部屋に集まって時を過ごすようになれば、これまでばらばらに壊れかけていた日本の「家族」の復活の第1歩となります。災いを転じて福をなすになればと考えています。

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