投稿日:2011年1月1日|カテゴリ:コラム

あけましておめでとうございます。昨年一年、私の駄文にお付き合いくださいまして誠にありがとうございました。本年も懲りずによろしくお願いします。

さて、正月のテレビは、ギャラの安い芸人をかき集めて意味もなくワイワイ騒ぐだけの番組がほとんどですが、皆が心待ちにしている、この時期ならではの放送もあります。それは箱根駅伝の中継放送です。
本当の駅伝ファンは沿道に出向いて応援をするようですが、テレビでの観戦もなかなかです。暖かい部屋に居ながらにして、2日間にわたる大手町~箱根往復の戦いを観ることができます。数多くのスポーツの中で駅伝がもっともテレビに向いている種目かもしれません。
箱根駅伝を皮切りに一月はスポーツのビッグイヴェントが目白押しです。サッカー、ラグビーの天皇杯、大相撲初場所等々です。スポーツ好きの者にはたまらない一ヶ月です。これは日本に限った話ではありません。アメリカでもこれからいろいろなスポーツのチャンピオンゲームが行われます。

さて、アメリカを代表するスポーツというと、日本ではベースボール(野球)やバスケットボールを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実際にアメリカでもっとも人気があるスポーツと言えば、アメリカンフットボールなのです。
アメリカのアメリカンフットボールのプロリーグ、NFL(ナショナルフットボールリーグ)の王座決定戦、スーパーボールの放送は全米TV視聴率、歴代ベストテンの半数以上を占めます。また、大学生によるカレッジフットボールの全米王座決定戦も、メジャーリーグのワールドシリーズやプロバスケットボールの王座決定戦の視聴率を上回るほどです。
ところが、何でもアメリカの後追いをする日本なのに、このアメリカンフットボールに限って、我が国ではあまり人気がありません。体力が歴然とものを言うスポーツなので日本人には不利だということが大きな理由ではないかと思います。さらに、ルールが複雑であるということも一般の人が楽しめない原因ではないでしょうか。
アメリカンフットボールは一見すると、防具を着けたラグビーのように見えます。確かに、ボールの形状や相手のエンドゾーンまでボールを運ぶことによって得点を得るという点はラグビーに似ています。しかし、ゲームの流れはラグビーとは程遠く、実は野球とよく似ているのです。
ラグビーは一度試合開始の笛が鳴ったならば、終了の笛が鳴るまで時計は止まらず、一気呵成に試合が続行します。いくつかあるルールも元を質せば、「ボールより前でプレイをしてはいけない」という一言に尽きます。
これに対してアメリカンフットボールはやたらに複雑なルールで行われます。また、一つのプレイごとに攻撃側と守備側が決められています。攻撃側は4回攻撃するチャンスを与えられます。この4回の攻撃で10ヤード以上前進できれば、再び4回の攻撃権を得ることができるのです。10ヤード進むことができなければ攻守交代、チェンジです。つまり野球は3アウトでチェンジなのに対してアメリカンフットボールは4アウトでチェンジというわけです。
攻撃と守備がはっきりしているので、その都度メンバーが入れ替わるのも野球とそっくりです。1回の攻撃ごとに集まって次の作戦を立てます。数秒プレイをしては集まって10秒以上相談をしている。しかもその度に時計が止められます。この断続的な試合運びがラグビーを見慣れた日本人には違和感を与えるのかもしれません。
とは言うものの、走る格闘技ですから、当然ラグビーと似た部分もあります。その1つがポイント・アフター・タッチダウンです。ラグビーではトライをして5点を得ると、その後御褒美としてトライを決めた地点の後方線上からゴールキックを蹴る権利を貰えます。そしてこのキックがゴールポストの間を通過すればコンバージョンゴールとして2点獲得できます。
アメリカンフットボールにおいても相手のエンドゾーンにボールを運ぶとタッチダウンと言って6点獲得です。そしてラグビーと同様に1回のボーナス攻撃権を得ることができます。これをポイント・アフター・タッチダウンまたはトライ・フォー・ポイントと呼びます。ただしこのボーナス攻撃権はラグビーとは違ってキックだけに限られていません。すなわち、敵陣ゴール2ヤードの地点からのフィールドキックか、通常の攻撃かの選択ができるのです。
フィールドキックは十中八九成功しますが与えられる得点は1点です。一方、通常のタッチダウンを奪える確率は半分以下です。その代りにもし成功すれば2点獲得できます(2ポイントコンバージョン)。
私は学生時代にアメリカンフットボール部でクォータバックをしていました。今では日本の学生フットボールでもヘルメットにレシーバーが内蔵されていて、すべてのプレイコール(次にどのような攻撃をするかという指示)はフィールドサイドのコーチが出します。しかし、私が現役であった30年以上も前、しかも医学部レベルのアメリカンフットボールでは、タイムアウトを取らない限り、プレイコールはクォータバックに任されていました。
クォーターバックの悩ませたたことの一つが、このトライ・アフター・タッチダウンをキックにすべきか2ポイントタッチダウンを試みるかという判断でした。
なぜならば、2点と1点、この1点差はしばしば最終的に勝敗を左右したからです。ともに1つのタッチダウンしか得られなかった場合、相手がポイント・アフター・タッチダウンをフィールドキックで1点取ったとすれば合計点は7点です。そこでこちらが2ポイントコンバージョンを成功させれば8点になり勝利です。ところが、万が一2点を狙って失敗してしまえば6点のままで終わり敗北となるのです。このようにポイント・アフタ・タッチダウンのゲーム選択は極めて重要なのです。

私は昨年還暦を迎え、今年は2度目の干支巡りに入りました。人生をアメリカンフットボールに喩えるならば、60年間健康で家族にも恵まれて仕事を続けられてきたということは、一応タッチダウンに成功したのではないかと思います。となるとこれからの人生はポイント・アフタ・タッチダウンです。ここでフィールドゴールのような成功率の高い安全策をとるのか、はたまたハイリスクだがわくわくするような2ポイントコンバージョンを狙うべきかという選択に迫られているのです。
人生の最終結果を決定するかもしれないトライ・フォー・ポイントは実に難しい選択ですが、現役時代のプレイコールでもそうであったように、ここは一つ2点を狙っていきたいものです。

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