投稿日:2010年8月30日|カテゴリ:コラム

暑い。暑い。暑い。今年の夏はともかく暑い。炎天下、アスファルトの路上に立つと、頭がもうろうとしてふらつき、息苦しくなって思わず犬のように口を開けてしまいます。暑いというより熱いと言った方が適切かもしれません。
偏西風の流れが少し蛇行した結果、我が国上空に高温多湿の太平洋高気圧がどっかりと居座るラニーニャ現象が、この連日の殺人的な暑さの原因だそうです。
私は、始めのうちは「また夏が来たな」くらいに思っていました。ところが、毎日エアコンをフル稼働しながら連日のように36℃だ37℃だというニュースを観ているうちに、これは本当に異常な暑さなのだと考えるようになりました。実際に、4万人を超える人が熱中症で救急搬送されて死者も150名近くに達しました。
以前のコラムで書いたとおり、人間の記憶はメタモルフォーゼします。ですから、「今年は過去に比べて格段に暑い」と感じても不確かな印象でしかありません。しかし、先日家内から「小学生の時の夏休みの日記帳にその日の天候を記入したけれど、30℃を超えた日はそれほど沢山なかったわよね」と言われて自分の体感記憶に自信を持ちました。
確かに、子供の頃、夏の日記帳に書いた気温は28℃や29℃がほとんどで30℃を超えた日は数日だけでした。ましてや、35℃などという数字を記した覚えはありません。日本の夏は確実に暑くなっているのです。
暑さだけではありません。全国各地で局地的にダムの底が抜けたような豪雨が起きています。にわか雨は夏の風物詩とはいえ、その程度がにわか雨の限度を超えて、全国各地で観測史上記録を更新しています。
また、本州でバナナがすくすくと繁茂し、これまでには見られなかった生物が発生し、山からは人里へ猿が侵出するなど、生物相の変化までも現れています。異常気象と言うよりは、わが国が亜熱帯になったと考えた方がよさそうです。
毎日、熱中症による死亡者が報告されるに及んで、学識者と称する人間の奨める熱中症対策も昨年までとは異なってきました。これまでは「エアコンのかけ過ぎはいけません」と物知り顔で述べていた人間がここへきて「寝ている間も危険なので朝までエアコンを使う方がいいです」ところっと主張を変えています。
私は、ずいぶん以前から、エアコン有害論が間違いであり、大都市の夏を生き残るためにはエアコンを積極的に使用しなければいけないということを主張してきました。ようやく私の意見が認められたようです。

私はこの他に気になることがあります。それは今年、まだ台風が来ないことです。台風は毎年我が国に大きな人的、経済的被害を及ぼす迷惑な自然現象です。しかし一方、我が国の重要な水源でもあります。このまま台風不足のままで乾燥した冬を迎えると、深刻な水不足が懸念されます。
いくらなんでも9月、10月には台風が訪れると思いますが、いざ台風が来襲するとなると今度は未曾有の被害が出る恐れがあります。なぜならば、日本近海の海水温が非常に上昇しているので、台風が日本上陸間際まで発達し続けて、これまでにない大型台風となる可能性があるからです。ハリケーン、カトリーヌ級の大型台風襲来もあり得る状況です。
さらに、海水温の上昇は台風シーズンを延長する可能性もあります。例年ならば冬物を引っ張り出す11月、12月に台風が襲来することもあり得ます。
そして秋らしい秋を体験しないまま冬になるかもしれません。地球温暖化の一段として気候の変動が極端になると言われますが、まさに今年はそのシナリオ通りになっています。

私は未だに二酸化炭素による地球温暖化説の通りに事が進むとは思っていません。過去の歴史からみて地球規模の気候変動がたった一つの要因だけで決まるわけでないと思うからです。このまま二酸化炭素が上昇したとしても、巨大火山が爆発して火山灰が成層圏まで達したならば、太陽光が遮断されて地球は寒冷化します。また、火山爆発がなかったとしても地球の公転のぶれによってこれから地球は太陽から遠ざかるために放っておいても徐々に寒冷化へと向かいます。地球の気温の決定にはこのように様々な因子が関与するので単純に温暖化するとは言い切れません。
ただし、私たちが今迄のようにエネルギーを使用し続けるならば大気中の二酸化炭素濃度が上昇して酸素濃度が低下することだけは確実です。そうなるとやがて、私たちは毎日息苦しさを覚えるようになるでしょう。激しい運動はできませんから、オリンピックやワールドカップもできなくなるかもしれません。少なくとも各競技での新記録更新は困難になるでしょう。
ですから世界が今、化石燃料の無駄遣いを止めて省エネの生活をする努力をしなければならないことは間違いありません。先進国は強欲アメリカを除いてこの現実を認識して真剣にエネルギーを浪費しない生活へと舵を切ろうとしています。しかし、発展途上国はそうも言っていられません。先進国が今迄浪費してきたつけを自分たちに回されても困るというのが彼らの主張も分からないではありません。
たとえるならば一部の連中がずかずかと食堂に上がり込んで、早い者勝ちとばかりに手当たり次第に御馳走を食い散らかして、いざ自分たちが食堂に到着すると、「食べ物は大切にしなければいけないからみんなで我慢しよう」と言っているようなものだからです。
この理屈は核拡散防止問題でも同じことが言えます。アメリカは広島、長崎で大量虐殺しておいて正式な謝罪をしないどころか、いまだにその核爆弾で世界ににらみをきかしています。そして他の国が同じ武器を手にしようとした時、そんなアメリカから「人道に反するから核はおれたち以外は持ってはならない」と言われたって納得する方が不思議というものです。
しかしアメリカばかりを非難することもできません。エアコン使用を勧める私の主張も同じ矛盾を抱えているからです。エアコンを使用すると、室内の高温に加えて機械の発生する熱を室外、すなわち街中へ排出します。ですから、皆がこぞって一日中エアコンを使用したならば都市の気温はいっそう上昇してしまいます。ヒートアイランド現象を促進し、ひいては地球温暖化に加担することになります。
地球の将来を考えるならば、皆でエアコンを我慢して耐える必要があるのです。ただしそうするためには、道路からアスファルトやコンクリートをはがし高層ビルを取り壊して木造建築に立て直す必要があります。車の使用などもってのほかです。
しかし、そんなことをしたならば現在の生活を維持することができませんし、熱中症で死者の山を築きます。現在の課題と将来の課題を両立させるということは甚だ困難な作業なのです。現実の生活と折り合いながら将来に備えるという難問題は私などの手に余ります。私だけではなく、一政治家、一国家の手にさえも負える問題ではありません。地球に住む全人類が知恵を絞り、一致協力してことに当たらなければならないのではないでしょうか。
私が考えるまず手始めにやらなければならない行動は、軍事行動の中止です。イラク戦争に費やされた石油は一体どれほどの量でしょうか。雨霰のように落とされた爆弾の発生した熱、二酸化炭素の量はどれほどでしょうか。しかも、戦争は消費と破壊だけでいっさい何も生み出しません。これほど明瞭なエネルギーの浪費はありません。生活に必要なエネルギーを節約するのはその次だと思うのですが、エネルギー問題の観点から戦争を論じることが少ないのはどうしてでしょうか。

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