投稿日:2010年5月24日|カテゴリ:コラム

先週のコラムから1週間が経ちましたが、宮崎県の畜産農家を襲っている口蹄疫の猛威は止まるところをしりません。日を追うごとに感染地域が拡大して殺処分される牛や豚の数が増えています。一時避難していた優等種牛6頭のうちの1頭も感染してしまい、殺されてしまいました。
宮崎県、国は感染の更なる拡大を防ぐために未だ感染の兆候が出ていない農場の家畜も殺処分する方針を固めました。これが実行されれば、なんと30万頭以上の牛、豚が殺されて土に埋められることになります。いくら家畜だとは言え、民族浄化の名のもとにヒトラーが行ったホロコーストを彷彿させる虐殺です。
多くの命が失われていく最中、初めのうちは関係者間で責任の擦り付け合いが目立ちました。野党自民党はここぞとばかりに、民主党政府の対応が遅れたとか、その原因は農水相が外遊してゴルフをしていたとかです。
最も勘違い甚だしいのが宮崎県のタレント知事。民主党叩きの流れに乗じて、河童と馬のあいのこのような顔をひきつらせて国の対応の遅れを非難していました。しかし、一地区の問題で済んでいたかもしれない病気が燎原之火のごとく燃え上ってしまった原因の一つは県の最初の対応ミスにあると思います。三月、農水省が感染の疑いを確認する3週間前に、宮崎県家畜衛生研究所で初の口蹄疫感染水牛を見逃していたのです。
河童馬に他人を非難する資格は全くないはずなのですが、この男ほど言い逃れ、責任のすり替えの上手い男は見たことがありません。さすが元タレントと感心します。でも、事態はお互いに責任を盥回ししている場合ではないのです。

この問題を扱うワイドショーで、感染牛、豚を食べてしまおうという、先週来私が主張している意見を述べるコメンテーターが一人も現れないのは意外です。私が医学的な常識から大きく外れているのかもしれません。でも、どうしても経済原理で行われている現在の対応には素朴な疑問を拭えないのです。
感染地域の半径10km以内の地域の牛、豚は今まで通りに殺して埋却しますが、10km~20kmの範囲の家畜は、殺さずに、本来出荷齢に至らない幼獣を含めて、すべての家畜を売り払うことになりました。これはまさに私の考え方に沿った対処法です。なぜ、初期の段階からこの方法をとらなかったのでしょう。
そして、さらに一歩踏み込んで、半径10km以内の屠殺した家畜も感染防止の加工を施した上で食用に供することを重ねて進言します。肉の商品価値を下げたくないという考えに則った家畜伝染予防法を根底から見直すべきです。
感染既往の恐れがあることを明記した上で、廉価に販売すれば、その事情を承知の上で購入する人は少なくないのではないでしょうか。
贅沢に慣れきった我が国では、健康優良な霜降りの高級和牛の存亡に大騒ぎする余裕がありますが、世界的に見れば、飢えに苦しんでいる人が溢れています。そういう人たちは牛や豚の肉などめったに口にできないのです。日本国内に目を移しても、現実的にはこのところの長引く不況で職に就けない人が増え、生活保護受給者が倍増し、生活に余裕のない人が増えています。曲がったキュウリと同様に、口蹄疫感染地域から半径10km以内で飼われていた牛の肉でも、必ず需要はあるはずです。
生命の尊厳、食糧問題、両観点からみて、現行の家畜伝染病予防法はあまりにももったいないのです。家畜の感染症とそれに対する防疫というものについてもう一度根本から考え直してみるべきだと思います。

防疫という大義名分で行われている家畜の大量虐殺をみていたら、ヒトへの感染性、毒性の高い鳥インフルエンザが我が国に発生した時に、鳥と並んで感染した人間の焼却死体が埋設される、恐ろしい地獄絵図が頭に浮かんでしまいました。

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