投稿日:2009年11月16日|カテゴリ:コラム

「国民の糖尿病予防のために甘いもの、特にぜんざいを規制しよう」という大義名分で「ぜんざい法」が成立し、ぜんざいはすべて「ぜんざい公社」が独占管理運営することになりました。民間の甘味処ではぜんざいを供することが禁じられて公社でしか食せなくなりました。
魔がさしたある男が、ぜんざいを食べようと公社を訪れました。ところが、ぜんざい一杯食べるために住民票と収入印紙を添えて、住所、氏名、生年月日、職業、家族構成などを明記した申請書を提出することとなります。
その間、あちこちの窓口をたらい回し。また指定の病院発行の健康診断書が必要となり、ぜんざい許可のための診断書を書く医者の所まで行って診断書をもらわなければなりませんでした。
さらに焼餅を入れる場合には火気使用許可書が必要となります。むろんそのたびに手数料を徴収されるのでぜんざいの代金を払う前に相当な出費になってしまいます。挙句の果てに遠く離れた専用食堂でやっとのことでありついたぜんざいは全く甘くありません。
怒った男が「なぜ甘くないんだ」と尋ねると役人がこう答えました。「甘い汁は先にこちらで吸いました」。
落語、「ぜんざい公社」の一席です。この落語は明治時代、上方落語の三代目、桂文三が創作した「改良ぜんざい」という話を昭和になって、今年文化勲章を受章した桂米朝が改訂した噺です。さらに、ネタ話はもっと古くからあったと言います。
この話は外人にも大受けだそうですから、無意味で迷惑なだけの法律や役所仕事は国境、時代を超えて共通した問題なのでしょう。

行政刷新会議による事業仕分け作業が始まりしました。10日足らずの間に447の公共事業の存在意義を検討するという、かなり強引な作業です。
担当者の反論に、聞く耳持たぬ態度で、次々と廃止を宣告する仕分けチームの姿は、人民裁判を連想させて、あまり気持ちがよくありません。しかし、俎上に上げられた公共事業の中には「ぜんざい公社」に匹敵するくらい、「なんでこんなものが必要なの?」と首を捻らざるを得ないものが少なくありません。それに、これまで私が存在すら知らなかった摩訶不思議な事業も数多くあります。
現場検証が不十分なままでの判定は、本当に必要な事業まで廃止されてしまう危険性がありますが、今まで国民の目に全く晒されていなかった霞が関の一部が公開されたことだけでも有意義だと思います。
無駄な事業の象徴として話題になった「私の仕事館」ですが、面白いことに、この「私」を「私たち天下り官僚」と読み替えると、こういった独立行政法人の真の目的がよく見えてきます。
公僕たる官僚、政治家は古い中国の詞を肝に銘じていただきたい。
「利して利する勿れ」※。

※利して利する勿(なか)れ:秦の宰相、呂不韋が道家、儒家、墨家、兵家、法家など、多くの学者たちに収録させた雑家書「呂氏春秋」に載っている言葉で「政治を行う者は、人民の利益になることを考えるべきであり、自分の利益を図ってはいけない」ということ。

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