投稿日:2009年10月18日|カテゴリ:コラム

「政策に誤りなし」と言われます。国家は絶対に己の非を認めないということです。八ッ場ダム建設を巡る問題は、一度決定した政策はどれほど不具合が判明しても必ず実行すると言う、官僚組織と長期自民党政権の国家運営によって住民が翻弄された典型例です。
国は官僚組織と言う蓑を纏って責任者がはっきりとしないために、大失敗の結果に終わっても、誰も責任を取ることはありません。生活の場を失って途方にくれる地元住民をよそめにして、官僚たちは天下りを繰り返し、政治家は業者からの賄賂で私腹を肥やしてきました。
前原大臣は地元住民に頭を下げるだけではなく、天下の愚策を押し通して、その結果甘い汁を吸った多くの歴代責任者の名前を公表して、彼らを世間の糾弾の場に晒すべきです。

こういう愚かで横暴な政策は国土交通省だけの問題ではありません。ほとんどの省庁で見られる現象ですが、私たち医療を管轄する厚生労働省の理不尽さはトップクラスです。もともとは大蔵省や外務省に比べると格落ちの官庁でしたが、時代の推移に従って利権の場が増えました。官僚にとっては美味しい役所になったのです。
その結果、年金問題をはじめ数多くの不備、不正を生むことになりました。彼等の私腹が肥える分だけ泣きを見るのは私たち医療関係者と国民です。年金のように国民全体が被害者である場合には大きな社会問題として扱われますが、少数派の医療者に対するしわ寄せは誰も取り上げてくれません。結局は私たちが黙って損失を被らなければなりません。

国が推奨する後発医薬品、いわゆるジェネリックがいかに問題が多いかについては一昨年のこのコラムで取り上げました。
その後も厚労省はジェネリック推進政策に拍車をかけています。有名俳優を使った「同じ成分、同じ効果、値段が安い」というジェネリック医薬品の広告は最近ますます頻回にブラウン管を賑わしています。
しかし、以前説明したようにジェネリックは完全に先発医薬品と同じ成分ではありません。このために、実際の効力に差があったり、副作用が多く出たりすることがあります。それでも、厚労省はこの大事な科学的な情報は握りつぶして、ひたすらジェネリックの販売拡大に努めています。
この表向きの理由は医療費の削減ですが、その裏には、大手ジェネリックメーカーが今や厚労省の役人の天下り先の一つになっている事実があります。この自分たちの利権については秘密にしたまま、強引に国民にジェネリックを飲ませようとしているのです。
一般の方は知らないと思いますが、前回の医療保険改正で、それまでは「処方箋に記載してある薬物を薬局でジェネリックに変更してもよい場合には、その旨を処方箋に記す」というやり方であったのが、ついに「原則ジェネリックを使う。どうしても先発医薬品でなければならない時にのみ処方箋にその旨を記載する」という方式に変更されました。国民は原則として、由緒正しい医薬品を服用することができないのです。医師の特別の変更不可理由がなければ、知らない間に訳の分からない副成分の入った医薬品を飲まされてしまうのです。
ところが、あまりにも理にかなわない政策を強引に推し進めた結果、役人が想定していなかった問題が出てきました。
ジェネリックメーカーの中には町工場みたいなレベルの会社があるために先発医薬品と同一の適応症を取得していない場合があるのです。その結果、医師が病気に適応した正しい医薬品を処方したのに、薬局で勝手に選択したジェネリックが主成分は同じであっても、その病気を適応症として認められていないというケースが出てきたのです。
東京保険医新聞に載っていた事例を紹介します。
A医師は脳梗塞の患者さんに「脳梗塞(心原性脳塞栓賞を除く)発症後の再発抑制」の適応がある「プレタール錠50mg」を処方しました。ところが患者さんがその処方箋を持っていったB薬局ではプレタールのジェネリックの一つである{アイタント錠50mg}を調剤して患者さんに渡しました。この患者さんのレセプトを受け付けた診療報酬を査定する機関は「アイタント錠50mgには脳梗塞発症後の再発抑制の適応がないと」の理由でB薬局に支払った薬剤分の代金を処方箋を発行したA医師に支払わさせたのです。根拠は「処方箋に後発医薬品に変更不可の記載と署名がなかったから」と言うものです。
自分たちが強引にやらせたジェネリックへの自動変更。それによって生じた不具合を声が小さな私たち医師に押し付けているのです。医師は雨後の筍のように何十種類もある後発医薬品の名前すら覚えられないのが現状なのに、さらにそれぞれが先発医薬品と同じ適応症を取得しているか否かまで判断することなど不可能です。
よく調べもせずに勝手にいい加減なジェネリックを調剤して、実際に薬代金を受け取った薬局に返金させるのではなく、処方箋代金しか受け取らず、実際にジェネリックを渡していない医師がなぜ薬代を取られなければならないのでしょう。
私たち医師はこれほど無慈悲な扱いを受けているのに、さらに追い打ちをかけるように、次の改正では「ジェネリックを全く使用しない医療機関を処罰する」方針だそうです。己の愚かな政策のつけに対する反省は全くなく、甘い汁は吸い放題、矛盾点はすべて医師に押し付ける。医師虐めもいい加減にしていただきたいものです。私たちは国の奴隷ではないのですから。

長妻新厚労相はミスター年金と言われてきたので、年金問題の解決に力を注ぐことと思いますが、彼には医療に関しても現場に足を運び、これまでの医療行政を根本から洗いなおして、数字合わせだけの理不尽な政策を正してほしいと願っています。

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