投稿日:2009年9月27日|カテゴリ:コラム

メキシコ発の豚由来新型インフルエンザが日本に上陸して、早5ヶ月になろうとしています。私は初上陸直後の5月には、本コラムで、中途半端な防疫に力を注ぐよりも、「皆で早いうちに感染してしまおう」と提案しました。
理由としては新型インフルエンザが感染力は強いものの毒性が弱いので、感染しても、タミフルなどの抗ウイルス薬で症状をコントロールすれば、たいして苦しまないで天然のワクチンを受けたことになり、その後にウイルスが強毒化したとしても心配無用となるからです。本物のウイルスに感染する方が弱毒化したウイルスを使ったワクチン接種よりも確実に鉄壁の免疫を獲得できます。しかもワクチン製造のための費用も必要としません。
私の提案は海の向こうアメリカの人たちの一部で実践されたようですが、我が国では悪い冗談としか扱われませんでした。
そうこうしているうちに、インフルエンザウイルスの生存にとって好環境とは思えない真夏の間にも、新型インフルエンザの感染は全国各地に広まって、若い人たちを中心に集団発生件数も右肩上がりで増えています。さらに悪いことにはインフルエンザの毒性も強くなってきているように思われます。
このインフルエンザによる死亡例は、最初のころは、既に重症の既往疾患を持っていて、別に新型インフルエンザでなくとも、何かしら合併症があれば死んでしまったと思われるような症例でした。死亡のきっかけがたまたま新型インフルエンザだったということです。
しかし、このところ重篤な基礎疾患がない死亡例が報告されるようになってきました。また、小児科ではインフルエンザ脳症の子供が病棟を占拠していると聞きます。さらに成人の症例でも、タミフルを服用しても数日間は高熱に苦しめられることが多いとも聞きます。
インフルエンザの毒性が強くなってきたとすれば戦術の転換が必要です。「かかってしまう」という正面突破作戦は止めて、防御を固めなければなりません。嗽、手洗いを励行し、なるべく人ごみには出ない。もし人ごみに出る時にはマスクを着用するようにしましょう。こうして守りを固めて、後はワクチンという最大の武器の後方支援を待つしかありません。
ところで肝心の対新型インフルエンザワクチンですが、春に大慌てで製造に取り掛かりましたが、従来からの季節性インフルエンザも作らなければならないために、国内で生産できるワクチンは防疫に必要な数量の1/3以下しか作ることができませんでした。しかし、桝添前厚労相が外国産のワクチンを輸入して必要数を確保することにしました。
政権交代しましたが、新型インフルエンザ対策は前政権時の基本方針が踏襲されると思いますからご心配無用と思います。ただし、ワクチンをいつ、どういう順番で、どこで接種するのかという具体案がまだ確定していません。できるだけ早急に具体的指針を発表して国民の不安を取り除いてほしいものです。
しかし、一番大切な対策は個人個人が免疫力を高めておくことです。そのためにはバランスのとれた栄養と充分な睡眠を取ることです。不規則で偏った食生活や慢性の睡眠不足は免疫機能を弱めます。免疫機能が正しく働かないとウイルスに感染した際に重症化します。ワクチンを接種しても十分な抗体が産生されない可能性もあります。
秋以降に流行するのは新型インフルエンザだけではありません。毎年流行する季節性インフルエンザも活発になります。免疫力を高めておけば新型インフルエンザ以外の病原体の感染に対しても有効に作用します。
当たり前のことですが、最後にものを言うのは自分の体力です。日頃から健康なライフスタイルを確立しておくことが大事なのです。

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