投稿日:2009年4月6日|カテゴリ:コラム

4月5日午前11時半頃、世界中が注目していた北朝鮮のロケット発射実験が行われました。心配されていた誤射や残骸等落下物による我が国の被害もなく飛翔体は太平洋上へと飛び去っていきました。北朝鮮にとっては勿論のこと、我が国にとっても御同慶の至りと言えましょう。
先日のコラムにも書きましたが、今回のロケット発射実験は先端部分が弾頭なのか人工衛星なのかという点が大問題となっていました。日本をはじめ世界の多くはアメリカ本土を射程に入れたミサイルの発射実験だと推測していましたが、北朝鮮は頑なに人工衛星であるとの主張を押し通してきました。
打ち上げ直前になって、アメリカの軍事衛星の撮影した写真の解析から、アメリカの軍事情報機関が、ロケットの先端部分の形状から見て、今回の打ち上げが本当に人工衛星である可能性を示唆しました。
しかし、長らく四海困窮が続いて、路上に行き倒れを目にすることが日常茶飯事の国が、本当に人工衛星を打ち上げるとは俄かには信じられません。もし北の為政者たちが僅かでもまともな神経を保っているならば、玩具みたいな人工衛星を飛ばす資金で餓死者の数を幾分かでも減らす努力をすると思うからです。
よしんば先端部分に人工衛星が搭載されていたとしても技術レベルが低いために正常に発射できない可能性があります。その場合には軌道の直下に当たる我が国へ落下してくる可能性があります。さらに、北朝鮮のロケット燃料はきわめて毒性の高いヒドラジンという液体を使っていますから、その際には落下による人体への被害が広範囲に及ぶ可能性が懸念されていました。
と言う訳で、頭上を危険一杯の飛翔体で脅かされる我が国にとっては傍観してはいられない有事の出来事となったのです。また、ロケットが弾道ミサイルであれば、国境を接して軍事的緊張状態の続く韓国にとっても、また本土がミサイル射程内となるアメリカにとっても由々しき問題であります。このために、三国は共同して発射を思いとどまるように外交努力をするとともに、危険と判断した場合にはロケットあるいはその一部を破壊すべく、ミサイル防衛システムを使った迎撃態勢を敷きました。
中でも日本は国民から総すかんを食っている麻生政権が、この外患を支持率回復のための起死回生のイベントにしようと考えたようです。勇ましく迎撃を宣言し、迎撃ミサイル隊の移動場面や配備場面をこれ見よがしにマスコミに流しました。
でも、麻生さん一流の大見栄を切っては見せましたが、本当に我が国に落下物が飛来したらどうしたものかと、内心は薄氷を踏む思いであったに違いありません。
なぜならば先日のコラムでも書きましたように、打ち上げ直後にはその飛翔体が人工衛星なのかミサイルかの判別が極めて難しいからです。飛翔物体がミサイルであることの確証を示せないままに撃ち落としてしまっては、いくら相手が名うてのごろつきであったとしても、一方的な敵対行為との誹りを免れません。実際に北朝鮮は、もし迎撃すれば宣戦布告と見なすという旨を表明しました。ですから、日米は飛翔体がミサイルであり自国に危険であるという確かな証拠を示さないと、より悲惨な戦争に突入する恐れがありました。そこで、飛翔体がミサイルだとしても、発射を失敗して本体もしくはその一部が日本国内に落下する場合にのみ撃破するという方針にトーンダウンしました。
しかし、ミサイル迎撃システムは正しい軌道で攻撃してくる飛翔体を迎撃することは可能ですが、ふらふらと迷走する欠陥ロケットや破片を撃ち落とすことは技術的に極めて困難です。
そんな訳で、麻生さんが最も望んでいたシナリオは、発射を中止すること。もし直前で発射中止となれば、自分の威勢の良さと日米のミサイル防衛システムが発射を抑止したと宣伝できるからです。
次善のシナリオは正常に発射されて無事に日本領空を飛び去ってくれること。最悪のシナリオはロケット本体あるいはその一部がふらふらと落下してくることでした。そうなれば、それを迎撃ミサイルで撃ち落とすという、かなり確度の低い作戦を成功させて見せなければならなくなったからです。だから、今回の発射が曲がりなりに成功したことを金正日の次に喜んでいるのは麻生さんかもしれません。
でも実際には日本は今回の騒動で相当にマイナス評価を喰らいました。ミサイル迎撃能力以前の危機管理体制の不備が露呈してしまったからです。前日に政府はミサイル発射の誤報を流してしまいました。しかも1度ならず、2度に渡ってです。これでは北朝鮮のミサイルの精度がどうのこうのと批判しているわけには参りますまい。

他人に金品を無心することを「ゆすり、たかり」と言いますが、「たかり」は単なるおねだりですが、「ゆすり」はれっきとした犯罪です。北朝鮮はこれまでも国家ぐるみで「ゆすり」を続けてきました。「国が貧しくて国民が飢え死にする。このままでは多くの難民が貴方達の国へ流入するか、さもなくば一か八か、戦争に打って出るしかない。」とのゆすり文句で多額の援助を受けながら、それを国民には与えず私腹を肥やす一方、さらなる「ゆすり」の材料としての武器生産に当てる。これが金正日一派の「盗人に追い銭」を地で行く山賊商売の常套手段でした。
ロケット打ち上げを成功裏に収めた北朝鮮がさらに強硬な「ゆすり」に出てくることは火を見るより明らかです。これからは「金や重油をよこさなければ核爆弾を積んだミサイルをお前の国に落とすぞ。」と言ってくるのです。
なんとも理不尽な話ですが、同じような手口を別な場面でも観ました。それは北朝鮮を「ならず者国家」と非難したアメリカにおける出来事です。

アメリカではメリルリンチやAIGなどの米国金融資本家がマルチ商法まがいの金融商品で帳簿上の利益を創って見せて、現実の金の形で高額の報酬を掠め取ってきました。この詐欺商法が破綻するや、慇懃無礼に「ちょっとした手違いがあったためにご迷惑をおかけしますが、私達を潰すと国民の被害がもっと大きくなりますよ。」と脅迫して、国民の税金をまんまとせしめました。まっとうな人であるならば、これまでのやり方を悔い改めて金融再建に専心する筈です。ところが彼等は民から目仕上げた金を自分たちの報酬に充てた上に恥じることがありません。これでは言葉遣いが丁寧なだけで、北の金一派の行為と大同小異です。アメリカはこれまで北朝鮮政権を「ならず者国家」と声高に非難してきましたが、自分たちも同じ穴の狢であることを露呈してしまいました。

今世界に垂れ込めている暗雲の源を辿ると、飽くなき物欲に捕われた一部権力者たちの道徳の欠如あるいは恥知らずに行き着くように思えます。
地球が無限の広さをもっていると信じられていた大昔ならばいざ知らず、数10分でミサイルを応酬し合える程度の小さな惑星であることが分かっています。これからの時代、世界中の人々に「知足安分」の訓えを啓蒙し、それに背く行為を「恥」と感じる感性を育成することが急務ではないでしょうか。

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