投稿日:2008年11月3日|カテゴリ:コラム

地球のことを水の惑星と呼びます。これほど大量のH2Oが液体の形で存在する星は地球以外に見当たらないからです。
古代ギリシャ時代、アリスタルコスは太陽の周りを水星、金星、地球、火星、木星が公転している(当時はまだ土星、天王星、海王星は発見されていなかった)という地動説を唱えました。しかし一般には彼の説は受け入れられず、エウドクソスやプトレマイオスの唱えた、地球が宇宙の中心であるという天動説が以降1800年間主流をなしてきました。
ようやく16世紀に入ってコペルニクスが天動説を打ち出し、その後のガリレオ・ガリレイやケプラーらの働きによって、地球は宇宙の中心の座を太陽に明け渡すことになります。
ところが、太陽の王座もそう長い期間ではありませんでした。18世紀になるとハーシェルが、それまで夜空を彩る背景と思われていた銀河系の構造を明らかにして、太陽も銀河に所属する数多くの星のひとつにすぎないことを示しました。
20世紀に入ってから宇宙物理学や天文学の急速に進歩します。現在考えられている宇宙像では銀河は少なくとも1000億個以上存在すると考えられます。私たちの所属する銀河は直径約10万光年の渦巻き型の銀河でおよそ2000億個の恒星で構成されています。太陽はその銀河系の中心から約28,000光年の位置にあって約2億2600光年の周期で公転していると考えられています。
銀河中心にはブラックホールが存在し、その近傍は恒星が密集しています。ここを都心部に例えると、太陽はちょっと外れた郊外に位置するどこといって特徴のないごくありふれた恒星であることが分かりました。
地球はその太陽を中心に平均半径1億5000万km、公転周期365.26日の楕円軌道で公転する惑星です。23度強の傾斜角で傾いた自転軸で23.93時間の周期で自転しています。この太陽からの距離、地軸の傾き、質量、オゾン層、自転によって作られるバンアレン帯などの絶妙のバランスが地球に豊かな水を蓄えさせてくれているのです。
地球は46億年前に原始太陽が生まれた際に太陽の周りに作られたガス円盤の中のダスト微粒子が集合してできた微惑星が衝突を繰り返しながら大きくなってできたと考えられます。火星くらいまでの軌道内だと太陽の重力の影響で岩石型の惑星になります。しかしそれ以上遠いところを回転する惑星だと太陽の重力の影響を受けにくいので巨大なガス型の惑星になり液体の水を纏うことは困難です。
岩石型の惑星でも水星や金星のように太陽に近くて質量が小さいと水は蒸発して逃げ出してしまいます。火星も質量が小さすぎて水を保持しておくだけの引力が発生せず、極冠にわずかに氷の形で残っているだけと考えられています。
地球の表面の約70%は水で覆われています。その量は14億km3にも及びます。私たちはずっと長いこと、自分たちの住む星が多くの好運に恵まれた、類稀なる星であることを実感しませんでした。地球が水の惑星であることを初めて直視したのは1961年に人類初の宇宙飛行をしたガガーリンでしょう。彼は「地球は青かった。」という有名な言葉を残しています。今では私たちもスペースシャトルや月から映された、豊かに水を湛えた美しい地球の映像を目にすることができます。
コペルニクス以来、宇宙の中心の座から追い落とされた地球ですが、別な意味で特殊で貴重な存在であることが分かってきました。このように水を液体の形で安定して保持している星はかなり特異な存在なのです。現在の観測技術で見渡す限り、地球と同じような「水の星」はまだ見つかってはいません。
一説には現在の宇宙の広さは940億光年以上といわれています。また、年齢は137億年といわれています。この広大無辺、悠久の時空間の中のある時空においては地球と同じような環境の星がいくつあっても不思議ではありませんが、それほどありふれた星ではなさそうです。
なぜ私がこんなに水にこだわるのかというと、地球を覆い尽くすこの水こそ、ヒトを含むすべての生命の源であり、生命の核だからです。

地球上にいつどのように生命が誕生したかは、未だ確定したわけではありませんが、現在最も有力な説によれば、今から40億年ほど前(地球誕生から6億年ほどした頃)に原始の海の中で生まれたと考えられています。
その頃の地球は煮えくりかえったマグマの海が冷えてきて、厚く覆っていた雲から雨が降り注いで、原始の海ができていました。
この原始の海の中でマントルからマグマが噴き出すホットスポットやプレートが生まれる海嶺には多数の熱水噴出孔があり高温の環境を作り出しています。この熱水噴出孔付近からは水素、メタン、硫化水素などが大量に含まれた熱水が絶え間なく放出されてアミノ酸などの有機物が生成されたものと思われます。
こうやって原始の海にはリボース、リン酸、核酸塩基、アミノ酸などのさまざまな有機分子が濃厚に溜まっていったと考えられます。そういう海水を「原始のスープ」といいます。この原始のスープの中でRNAを遺伝情報源とする原核細胞のような生命体が発生したと思われます。
こうしてできた原核細胞たちに原始のスープに含まれていた有機物が消費され尽くされる頃になると炭酸ガスを炭素源とする生物、さらにその化学代謝のエネルギー源を太陽光に求める光合成生物が出現したと考えられます。
地球誕生から15億年くらい過ぎた頃になると内部のコアの外核(液体状の鉄)と内核(固体の鉄)の分離が起きてきて、自転によるダイナモ作用*が発生して、地球の周囲に強い磁場ができた。このために太陽からの強くて有害な電磁波のシャワーをブロックしてくれるようになって、生命体は海の比較的浅いところまで進出できるようになりました。これが、光合成生物の出現を促したと思われます。
ストロマトライトという岩石はシアノバクテリアの死骸と泥の堆積物によって作られた岩で、地球上のあらゆるところで見つかっていますが、1960年オーストラリアの西海岸で発見されたストロマトライトから生きたシアノバクテリアが発見されました。何と35億年も前から生き続け、成長し続ける岩の存在が明らかになったのです。
こういった原始細菌の営みによって地球上に酸素が満ち溢れることになりました。やがてミトコンドリアや葉緑体といった外来の生命体を自分の細胞内に取り込んだ生物はそれぞれ動物、植物へと進化していきました。

その後の進化の過程は省略させていただきますが、私たち人類もその大元をたどれば、原始の海の底深くにあった熱水噴出孔付近で生成された有機物質に由来するのです。海こそあらゆる生命の母なのです。
それを裏付ける痕跡が私たちの身体にもはっきりと残っています。私たちの身体は種々の細胞の集団からなる器官や組織から作られていますが、そういった組織や器官は血液、間質液、脳脊髄液といった液体の循環に支えられて生存しています。こういった液体成分を細胞外液と呼びます。体重の約20%がこの細胞外液です。
体重の80%は細胞成分ですが、この細胞を構成している物質の大半(67%)も水分なのです。つまり私たちの体の60%(小児では75%~80%)は水なのです。しかも、体液の浸透圧(5,500mmHg)は原始の海の浸透圧にきわめて近いと考えられています。海から陸に上がった生物は、それぞれの身体の内部に海を蓄えているのです。そしてこの「内なる海」を維持していかなければ生きてはいけません。
ところがこの「内なる海」を維持していくためには、現在の地球の海水を直接取り込むことはできません。なぜならば、現在の海水は塩分が濃縮されて浸透圧が高すぎます。したがって陸生の生物は海水でなく、地上に存在する淡水と塩分をそれぞれ別に適当量摂取していかなければなりません。
地球に存在する14億㎞3の水の97%は海水で、淡水は3%しかありません。しかもこのわずかな淡水の約70%は南・北極圏内や高山の氷として存在しています。地下水を含めて、川、湖、沼など私たちが生活に利用可能な淡水は地球の水全体の0.8%にしかすぎないのです。そして今、極圏の氷の融解や砂漠化によって淡水が急速に失われてきています。水の惑星地球とは言うものの、私たちの生命を維持するために不可欠な水は、雀の涙ほどでしかないことを頭に焼き付けてください。

さて、私たちが地球より先に存在していたわけではありません。自分中心から地球中心に考え方を変えてみると、私たちは太古の「原始のスープ」の記憶を語り継いでいくための、束の間の器にすぎないのかもしれません。
ということは、不摂生をして病気になるということは、地球から私たちに託された約束に違反するということになります。自殺などはもってのほかの裏切り行為です。
「なんで生まれてきたんだ」と、生きていることを恨む方がいらっしゃいますが、そういう人は、自分が身体の内に何十億年前の「原始のスープ」を蓄えていることを思いだしてください。私たちが「生きている」のではなく、「生かされている」存在であると感じられれば、人生というものにこれまでとは違った意味を見いだせるかもしれません。
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*地球の外核は液体状の鉄やニッケルなどの金属であり、高温の熱によって対流している。自由電子をもったこれら金属が活発に対流すると、コイルに電流が流れているのと同じ効果を持つ。コイルに電流が流れると電磁石になって磁場を発生させる。したがって地球も液体状の鉄やニッケルが対流、回転することによって磁場を獲得する。

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