投稿日:2007年7月2日|カテゴリ:コラム

小児科の病棟に長く勤務していたベテランの看護師さんがこう言っていました。「小児科に入院している子供たちをみていると、翌日のお天気がわかるんです」。
雨、つまり低気圧だと喘息の子供達の症状が重くなる。逆に高気圧で晴れの日は、喘息発作がおきにくくなるのだそうです。
症状が気圧の影響を受ける病気は喘息だけではありません。腰痛や膝の痛みなど、関節に関係した痛みや神経痛も低気圧だと悪くなることが多いようです。
病気の症状だけではなく、気圧の変化は私たちの心身にさまざまな影響を及ぼします。
長時間、飛行機に乗ったことのある方は皆さん体験されたことと思いますが、飛行機のなかで飲むお酒は酔いやすい。飛行機のなかで眠っても、とろとろと眠るだけで、深い眠りにはいれません。これも気圧のせいです。
長距離便の飛行機が飛ぶ高空はものすごく気圧が低くて、そのままでは酸素不足のために乗客、乗員とも死んでしまいます。ですから、与圧、すなわちポンプで空気を送りこんでいます。しかし、地上と同じ気圧にまではなっていません。0.8気圧くらいなのです。
0.8気圧の低気圧の環境では酒は少量で酔っ払いやすく、深い睡眠をとることができないのです。
もっと不思議なこともあります。エヴェレスト近くに住むある遊牧民たちの産まれ月が夏からの一定期間に限られているそうです。
その人たちは山羊と一緒に、夏は高地で生活をして、高地に草がなくなる冬場は低い土地へ降りてきて生活しています。ですから、夏と冬とで生活している気圧が違うのです。
そうです、どうやら同じように夫婦で生活していても、気圧の低い環境では赤ちゃんができにくい、受精しにくいらしいのです。したがって、その遊牧の民たちは冬場、比較的低い土地(気圧が高い)で生活している期間に妊娠するために、産まれ月がその10ヵ月後に偏ってしまうのです。
こういった気圧が私たちの生理機能におよぼす影響のメカニズムは、まだ十分に解明されていません。
よく考えてみると、私たちの生命現象は気圧だけではなく、気温、湿度、日照量、電磁場、宇宙線、引力などさまざまな自然界の環境変化の影響を受けています。ただ幸いなことに、私たちが生きているわずかな期間では、それらの変化がごくわずかな範囲で安定しており、しかもあまりにも日常的なことなので、気付いていないだけなのです。
ですから、大潮の日に出産が多いとか、満月の夜は妊娠しやすいといった昔からの俗説もあながち無視することはできないように思います。
私たちの生理現象が自然界のさまざまな力の影響を受けるという事実は、自然を自分と切り離して考えると、不思議に思えてきます。しかし、自分たちも自然の一部であるという考えに立てば、ごく当たり前のことなのではないでしょうか。
私たち人間は約60兆の細胞からできていると言われています。その細胞は常に新陳代謝によって古い細胞が死んで新しい細胞と置き換わっています。つまり、細胞のレベルで考えれば、昨日のあなたと今日のあなたは同じ人ではないのです。
次から次へと生まれてくる細胞のもとは何でしょうか。それは、私たちが口から身体に取り込む自然界の水、動植物、鉱物と呼吸によって取り込む酸素です。つまり私たちの身体は食物という形になった他の生物の遺体からできていると言ってもいいのです。私たちの身体を作っている細胞そのものがすでに大自然の一部であり、歴史なのです。
私たちの身体が自然界の歴史を引き継いでいる一番よい証拠が血液です。私たちの血液の塩分濃度0.9%は、ちょうど脊椎動物が進化し始めた4億年位前の太古の海水の塩分濃度と同じなのです。つまり、私たちは今でも太古の海を自分の身体の中に残しているのです。
私たちの身体を物質のレベルで考えると、もっとすごいことになります。そもそもできたばかりの宇宙空間には原子としては水素しかありませんでした。その水素原子が集まって太陽のような光輝く星(恒星)が作られました。
恒星はその水素を核融合反応によってヘリウムへと変換しながら莫大なエネルギーを生みだして熱く燃えて輝いているのです。私たちの身体を作っている水素以外の原子、例えば炭素、酸素、窒素、カルシウム、鉄等々はいっさい存在しなかったのです。ではどうして今私たちを含めて地球という惑星の自然界にはこんなにいろいろな原子が満ち溢れているのでしょう。
これらの原子は少なくとも46億年よりも前に太陽のように光り輝いていた恒星が過去にせっせと核融合反応で作りだしたものなのです。そういった星が寿命を迎えて、臨終の間際に大爆発をして、宇宙空間に放出しなければヘリウムよりも重い原子は存在しなかったのです。
地球は地球誕生よりも過去に光輝いていた星たちの遺体を受け継いで、初めてこの宇宙空間に生まれることができたのです。つまり、私たちの身体を作っている種々の物質は過去には光り輝く星の中にあった原子からできているのです。
私たち一人一人の身体の中に140億年にもおよぶ宇宙の歴史が秘められています。あなたも私も「星の王子様」、「星のお姫様」と言えるのではないでしょうか。なんとロマンティックではないでしょうか。
人類は、自分達が宇宙の規模でみたって自然の一部であることをよく自覚して、自然と対決するのではなく、自然の一員らしい生き方を目指すほうが賢明かもしれませんね。
星屑のひとりごとです。

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