投稿日:2007年6月18日|カテゴリ:コラム

心身の不調をひきおこすような悪いストレスとはどんなものでしょうか。

身内が突然亡くなったというような、突然襲われる強いショックであることもあります。しかし、いくら強くてもそういう一時的なショックは、たいていの場合には、その人のもっている自然治癒力と「時間」という至高の妙薬によって、私のような医師がかかわらなくても元気をとりもどされる場合がほとんどです。

自然治癒力と「時間」だけではどうにもならないで、私達のような医療機関の門をたたかざるを得ない人達が受けている悪いストレスの多くは、そんなに強くはなくても慢性的に続くストレスが多いようです。

この慢性的に続く悪いストレスの代表が人間関係に関するストレスです。前回のシリーズでお話したように、人間は高度に社会化された生き物です。ですから、自分の所属する組織や社会の中でスムースな人間関係を保っていけないと、とても悪いストレスになります。

職場のストレスから私のクリニックを受診される方にだけかぎって考えても、仕事の内容そのものが問題であるケースは多くはありません。大半の方が職場での人間関係上のストレスが不健康の要因になっています。

かなりきつい仕事でも、人間関係の風通しがいい職場だと、なんとかやっていけるものです。またそういう職場では、おたがい気心がしれているので、過労でぶっ倒れる前に、上司や、先輩、同僚が気付いて、助け舟を出してくれます。

業務そのものはさほどの負担でなくても、上司、先輩、同僚、部下とうまい関係がもてない。しかし、うまくやっていかなければならない。こういう状況が長く続く時に、やっかいな心身の症状が現れてきます。

さて、ここで簡単な質問をします。もしあなたが100人の人と出会ったとしたら、100人全員に好感をもつでしょうか。そんなことはないと思います。逆に、100人全員に対して苦手意識を感じることもないのではないでしょうか。なんとなく好感をもつ人と、ちょっと苦手だなと感じる人に分かれるはずです。

この感覚はお互いさまです。あなただって、100人全員から好かれることはありえません。また、あなたがかなり癖の強い偏屈だとしても、100人全員から嫌われることも不可能です。

そして、うまくできていることには、こちらがなんとなく馬が合うなと感じている人は、相手もあなたに対して話しやすさを感じていて、こちらがなんとなく苦手だなと感じている相手もあなたと波長が合わないと感じていることが多いのです。

人と人とが接すると、立場、損得、利害を超えて、必ずさっき言った、なんとなく合う、なんとなく合わないという感覚を感じるはずです。この感覚を「相性」と言います。

広辞苑で「相性」を引くと、「共に何かをする時、じぶんにとってやりやすいかどうかの相手方の性質」となっています。「馬が合う」とか「波長が合う」と言ってもよいでしょう。

相性とは何で決まるのでしょうか。おそらく、親から遺伝的に受け継いだ素因と成長過程で受けるさまざまな体験によって形作られる人格がおもな要因だとは思いますが、外見(表情も含めて)、声質、そぶり、話すテンポ、嗜好などいろいろな要素が含まれているように思います。

人間の脳はそういった各種の情報を一瞬のうちに総合的に処理して、相性を感じるのだと思います。ですから、相性はどちらかが良い―悪い、正しい―間違っている、偉い―偉くないなどとという単純な尺度で測れるものではありませんし、努力したからといって変わるものでもありません。その人その人の個性そのもので決まってしまうものなのですから。

そして、この相性こそが人間関係を築き上げて、その関係を長い期間続けていく上で、もっとも決め手となる要素であるように思います。

先ほど述べた、人間関係上のストレスでまいってしまう人の多くは、相性が悪い相手を、自分の努力によって、なんとか相性のよい相手に思いこもうと無駄な努力をして、疲れ果ててしまっています。

嫌いな食べ物を好きになれと言われても、無理なように、相性が悪い相手をどんなに好きになろうとしても、骨折り損のくたびれもうけです。むしろ、自分自身をごまかさずに、好きなものは好き、苦手なものは苦手だということをはっきりと自覚するところから出発するほうが賢明です。私達一般人は全国民から好かれる必要はまったくないのです。

とは言うものの、プライベートではない、会社などの組織の中では相性の悪い上司や同僚ともうまくやっていかなければ、生きていけません。では、どうしたらよいのでしょう。

嫌いな人に対してもにっこり笑って、相手を不快にさせない態度を「演じれば」よいのです。本当に尊敬しよう、良いところを見つけよう、好きになろうと感情を操作する必要はないのです。嫌なやつは嫌なやつと思ったままでよいのです。ただ、その感情と表情や態度を切り離すテクニックを身につければよいのです。

嫌いな食べ物だって、好きになることはできなくても、美味しそうなふりをして食べることはできるでしょう。テレビの料理番組でタレント達がやっているじゃないですか。

みんなで役者を目指しましょう。苦手な上司や同僚に好かれる良いサラリーマンになることは大変ですが、一日8~10時間の間「良いサラリーマンの役」を演じる役者をやるのはそんなに難しくないですよ。また、今の自分は役を演じているんだと思うだけで、受けるストレスだって大分違ってくるはずです。

役者さんは、悲しくなくたって涙を流し、嬉しくない時だって笑いをふりまいているじゃないですか。給料も仕事をした報酬なんて考えずに、自分の名演技に対するギャラだと思えば多少のことには耐えられるはずです。

プライベートな人間関係ならば、相性の悪い人とはなるべく付き合わなければよいのです。お互いその方が幸せなはずです。

本当は相性の合わない人なのに、「でも、あの人にもこんな良いところもある」なんて、自分の心をごまかして、好きになろう、好かれようなんてしても、自分のエネルギーを消費して相手からはマイナスのエネルギーを押し付けられるだけです。具合が悪くなるのも当たり前です。

相性の合う人とおおいに付き合って、プラスのエネルギーを与え合って、どんどん元気になりましょう。

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