眠りに就くのはいつもと変わらないのに、思いもしないような早い時刻に目が覚めてしまって、その後一睡もできない状態を早朝覚醒といいます。
夕食を食べるやいなやベッドにもぐってしまえば、朝まだ明けきらぬ時刻に目を覚ましたとしても不思議ではありません。「朝早く目が覚めてしまって困る」とうったえる患者さんの中に、まれにこういうケースがあります。
よく聴いてみると、なんと7時のNHKのニュースを見終わるとすぐに寝てしまっていたのです。その結果、「3時にはきまって目が覚めてしまいます」と嘆くことになっていたのです。なんと合計7時間半はしっかり眠っているのですから、それ以上眠っていられるわけがありません。身体のほうが睡眠にうんざりして、「もういい加減にせえよ」と起こしにかかったのです。
東方向への海外旅行をした際にも、時差の関係で早朝覚醒が起こります。例えば、前の日に東京からパリに着いたとしましょう。豪華なホテルでゆっくり眠ろうとしても朝4時頃に目が覚めてしまいます。それもそのはず、パリの朝4時には東京では既に正午になっています。
頭の中の体内時計はまだパリに来ていることを自覚せずに東京の時間帯になっていますから、この体内時計の目覚まし機構によって「このボケ早く起きろ」とばかりに、たたき起こされるわけです。
ただ前にも述べましたが、体内時計に対する時差の影響は東回りよりも西回りのほうが強く現れますから、パリからかえった後数日の寝つきの悪さと昼間の眠気に比べれば、パリでの早い目覚めはそう辛くはないはずです。
この理由は体内時計の自分勝手な本来の周期(固有周期)は地球の自転周期である24時間より長い25時間以上であるためです。したがって、前にも説明しましたが、ヒトは早寝は苦手ですが、遅起きは得意にできているのです。
ここでなぜ体内時計の固有周期が地球の自転周期とずれているのかという疑問が湧いてこられると思います。この謎に対する答えはまだ出ておりません。一番容易に想像できるのは、ヒトが誕生した頃の地球の自転が今より遅く、
25時間ちょっとだったという仮説。このために、我々の体内時計はいまだにその記憶を残して、24時間より長い固有周期を持つのだという考え方。
しかし、どうもこの説は正しくないようです。太古の珊瑚の化石の年輪と日輪から推測すると、太古の地球は1年が400日ちかくあった。つまり、今の地球よりも早い自転速度で回転していて、1日は今よりも短かったと考えられるのです。
医療と関係のない話に脱線してしまいました。早朝覚醒の話に戻ります。今までお話した中途覚醒型の不眠は現実の生活にあった睡眠習慣に戻していけば、おのずと治っていきますので、とくに医療を必要とするとは思いません。
専門医の治療を必要とするような早朝覚醒型の不眠は統合失調症やうつびょうといった心の病気にしばしば随伴して現れます。
特にうつ病では高率にこの型の不眠を示すことが多いようです。そして、うつ病がよくなると共に不眠も改善されます。したがって、一刻も早く専門医でうつ病そのものの治療を受けることがなによりです。
一般内科の先生がよく処方される睡眠薬とか安定剤とか称するものは、たいていの場合、正しくは睡眠導入薬や抗不安薬に分類される薬です。この手の薬は寝つきを浴する作用しかあしませんから、早朝覚醒に対しては効果がありません。
大量に服薬すれば早朝覚醒も幾分かは軽くしてくれますが、それは本来の薬効ではなく、睡眠導入薬が朝まで身体に残っているために眠りを維持しているのです。つまり、本来の目的である寝付かせるために必要な量以上に服用していることになります。
早朝覚醒にはそれにあったお薬がありますので、是非とも専門医を受診してください。