投稿日:2007年3月5日|カテゴリ:コラム

人は人生の約1/3から1/4を睡眠状態で過ごします。
つまり、60歳まで生きるとすれば、約20年間は眠っていることになります。眠りとは見ためが「死」や「意識障害」と似ているために私たちの人生の負の部分のように思われがちです。このことは死のことを「永遠の眠り」と表現することからも分かりまパニック障害の主な症状は、不安、動悸、息苦しさです。
きちんと呼吸できているにもかかわらず、息苦しく感じるために、必要以上に呼吸をしてしまい、過呼吸発作を起こすことが少なくありません。
パニック障害という病名が広く認知されたのは最近のことです。それまでは不安神経症の中に組み込まれていました。したがって、患者さんに対する対応も今とはかなり違っていました。「襲ってくる不安を自分の力で克服しなければいけない。」という考えが根底にありました。しかし、パニック障害に対する研究が進んで襲ってくる不安が、本人の不心得からくるものでないことが分かってきました。自分の力ではどうにもならない不安なのです。
実はパニック障害は脳という臓器の代謝障害なのです。
糖尿病などと同じ病気なのです。
不安に関係のあるノルアドレナリンやセロトニンといった脳内の神経伝達物質(ニューロトランスミッター)の分泌機能が正常に働かなくなっているのです。こういった脳内伝達物質は気分、意欲という精神機能にも深く関与しています。ですから、気分や意欲の病気である、うつ病と深く関連していることも分かってきました。
治療は脳の神経伝達物質の分泌を調整するお薬を呑むことです。
SSRIというグループの抗うつ薬がパニック障害にも効果があります。その理由は先程述べた病気のメカニズムを考えれば不思議ではありません。ただ、このグループの薬の効果は飲んですぐに現れませんので、対症療法薬として不安を即効的に弱める抗不安薬(マイナートランキライザー)も併用するほうがよいようです。
薬物療法とあわせて精神療法も重要です。
パニックを起こしやすいライフスタイルを変えたり、不安との付き合い方を学ぶことでその後の再発を予防できるからです。
しかし、最近の研究によれば眠っている時の脳は起きている時に勝るとも劣らない位に活発な活動をしていることが分かってきました。すなわち、睡眠とは人生の1/3~1/4の時間を占める脳の活動状態の1つの型です。例えて言えば、眠りは人生の楽屋と言えます。楽屋ですから人目につかず、とかく忘れられがちです。
しかし、華やかな舞台の上の活動がうまくいくかどうかは裏方さんたちの隠れた働きによるところが多いのです。事実、エネルギーの素であるブドウ糖の消費量は覚醒しているときよりも眠っているときのほうが多いのです。眠りは「死」なんかとまったく異なり、脳が猛烈に活動している状態なのです。数分の夢の中で一生にわたるくらい長期間の体験をすることがあります。ブレーキが解き放たれて、脳が自由に動き回っているのでしょう。
植物も昼と夜とでは代謝系が違いますし、時間帯に応じて特殊な動きを見せる植物もありますが、あくまでも受動的な動きであり、ひとの能動的な眠りとは異なります。眠りは脳の進化とともに発現する活動です。昆虫や軟体動物でも眠りと思われる現象は見られます。魚類では脳波から睡眠状態を確認できます。
人における必要睡眠時間にはとても個人差が大きいようです。4時間くらい眠れば充分なショートスリーパー(short
sleeper)もいれば10時間眠らないと調子のでないロングスリーパー(long
sleeper)もいます。また、同じ個人でも環境に応じて眠りの時間が違ってきます。脳の温度が下がりにくい夏は短い眠りしか取れません。逆に初冬は長い眠りになります。女性は性ホルモンの影響を受け、黄体期は卵胞期より長い眠りを要求されます。睡眠は眠る時間帯によってもその質が異なります。人は元来昼行性の生き物ですので、体のあらゆる機能が夜眠ったほうが上手くいくようにできています。ただし、この最適時間帯にも個人差があり、早寝早起き人「ひばり型」と、遅寝寝ぼすけの人「ふくろう型」がいます。しかし、どんなに遅寝が得意な人でも翌日になる前(午前0時を過ぎないこと)には就床したほうがよいようです。
一晩の眠りはNREM睡眠とREM睡眠という2種類の睡眠によって構成されています。この2つの眠りは周期的に交代して現れます。NREM睡眠はいわゆる穏やかな眠りで、REM睡眠は夢を見る睡眠です。第1回目のREM睡眠は寝付いて90分後くらいにやってきます。その後明け方になるにしたがって頻繁に現れます。REM睡眠の間は夢を見るだけでなく、自律神経系が乱れます。突然死が明け方に多い理由はこのことによります。
夢、すなわちREM睡眠は脳がある程度進化しないと現れません。今までの研究によれば、鰐や蜥蜴のような変温動物の脳波にはREM睡眠は見られません。恒温動物の脳になってようやくREM睡眠が認められるようになります。大人の人の眠りのパターンと同じような脳波パターンは猿の仲間にしか見られません。人に限っても若い時には夢をたくさん見ますが、加齢とともに夢を見る眠りは減ってきます。
睡眠・覚醒のリズムを作っている機構は脳の中にある体内時計です。ところが、ひとの体内時計は地球の自転に一致しておらず、放っておくと25時間強の周期で時を刻みます。したがって、私たちは普段よりも早寝をするのは苦手です。普段は地球の自転に適応して帳尻を合わせていますが、本来は夜更かしし易いようにできているのです。隙あらば夜遊びしたがるのは体内時計のせいのようです。
このようにスケジュールが遅れることには適応しやすいので、飛行機旅行の際に生じる時差ぼけは、太陽を追いかける西回りの方が現地の時刻に早く適応できます。パリに行った場合、パリでは比較的容易にパリ時間に体が慣れるのに、日本に帰国してからの方がなかなか日本の時間に戻れないのはこのためなのです。世界一周されるときには西へ西へと回る旅をお奨めします。

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