投稿日:2016年11月7日|カテゴリ:コラム

11月3日は関東地方では日差しに恵まれて穏やかな休日となった。この11月3日、「文化の日」が1946年11月3日に日本国憲法が公布されたことを記念して、1948年に制定された「国民の祝日に関する法律」で定められた祝日であることを忘れている方が少なくない。因みに、5月3日「憲法記念日」は1947年に同憲法が施行された記念日。

今年の文化の日は現憲法公布70年にあたる節目の記念日であった。戦後70年以上、我が国の平和と繁栄の基礎となってきた日本国憲法。だが、三笠の宮様で代表される、戦争を体験して強く反戦の意を示していた方々が次々に亡くなられていくなか、戦争の悲惨さを体験していない世代の跳ね返り復古主義者たちの手によってこの憲法が葬り去られようとしている。

下手な発言を怖れてなかなか本音を表わさない安倍だが、摩訶不思議な高支持率を頼みに虎視眈々と憲法改悪の決行時期を狙っている。

自民党はすでに2012年4月、党の憲法改正推進本部によって憲法改正草案を提出している。その主な改正点は、国旗・国歌の規定、自衛権の明記、国防軍の保持、家族の尊重、環境保全の責務、財政健全化の確保、緊急事態の宣言の新設、国及び地方自治体の協力関係、憲法改正提案要件の緩和だ。

国民を欺くきれいごとでごまかされているが、この自民党案のなそうとしているところは戦前の国家主義的体制への復古だ。

自民党の改正草案を冷徹に読み砕いて見せてくれている「新しい憲法草案のはなし(太郎次郎社エディタス発行、税込み800円)」と言う本が出版されている。この本を引用して日本会議、安倍一派の目論む憲法改悪の真の狙いを述べてみる。

1.憲法三原則の変更

現日本国憲法は①国民主権、②戦争放棄、③基本的人権の尊重の三大原則を骨子としている。彼らはこの原則を①国民主権の縮小、②戦争放棄の放棄、③基本的人権の制限のように変えようとしている。

2.天皇を元首として国歌、国旗を尊重させる

現憲法では国民主権が高らかに謳われているが、草案では国民は国家があってのものだ。だから国民は一番偉いと錯覚せずに、天皇陛下を元首として仰ぎ、国家を斉唱し、国旗を掲揚するという国民としての義務を果たすことによって初めて日本国民たり得るとしている。

こういう義務を果たさない者は国民とは認められない。「非国民」という死語が復活するかもしれない。

3.国防を強固にし、国民は一致団結して国を守らなければならない

積極的平和主義と銘打って、自衛隊を国防軍に昇格させ、世界中どこでも戦闘行為をすることを可能にする。さらに軍となったので軍人の不祥事は通常の司法機関が裁くのではなく軍独自の軍法会議によって審判する。国民は国防軍と協力して国と郷土を自ら守らなければならない。すなわちいつでも軍人として戦地に赴く(徴兵制)の覚悟を持たねばならない。

4.個人の自由より家族、公共の利益が優先する

現憲法では基本的人権は最大限尊重されてきたが、自民党案ではすべての人権は公共の利益に反しない限り尊重されると、個人の権利が制限される。具体的には、反政府的発言は許されないし、報道も管制されるなど、表現の自由が大幅に制限される。また、社会の単位として家族を重要視することによって子供の養育、高齢者の介護などは家族でみる義務が生じる。このことによって養育手当、介護費用、生活保護費などの福祉関連予算は大幅に削減でき、国家財政は楽になる。因みに、親の反対があれば自由な結婚もできなくなるだろう。

5.緊急事態宣言によって三権分立は停止できる

閣議において緊急事態を宣言すれば、内閣(行政)は国会(立法)を飛び越えて法律を作ることができ、裁判所(司法)の及ばない行動をとることができる。すなわち独裁政治への道を開くのだ。

6.憲法改正を容易にする

現憲法では、憲法の改正に各議院の総議員の三分の二以上の賛成で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成を必要とする。この規定によってなかなか憲法を変えることができなかったことから、自民党案では、両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が発議して国民投票で有効得票の過半数の賛成で改正できるように変える。つまり、憲法改正を簡単にできるようにするのだ。

一説には、安倍はまずこの条項だけの憲法改正を行って、後日、容易になった制度を利用して、次から次へと自分たちのしたいように憲法を変えていく腹積もりとも言われている。

7.立憲主義の考え方を変えてしまう

世界中どこでも通じる一般的な考え方からして、憲法とは国民から国家権力を縛るために設けられた命令である。これを「立憲主義」と言う。ところが、日本会議や安倍一派の連中は「立憲主義」を無視して憲法そのものをまったく別の代物にしてしまう。草案の百二条には、「すべて国民はこの憲法を尊重しなければならない」とある。つまり憲法を国家権力が国民を縛るものという、とんでもない立憲主義を造り上げようとしている。

「お上は正しい」、「お上に従うのがためだ」という封建時代からの悪しき価値観を憲法によって成文化するものと言える。

 

こんな憲法改悪を許したならば、その先に見えるのは政権を制した者とそれにつながる一部特権者たちによる王国と、その周囲を埋め尽くす貧困の民、そして「国」という実体のない者を守るために築かれる累々たる死体の山である。

「道半ば」を繰り返して、国民の生活実態は全く改善しないアベノミクス、あからさまな報道規制、亡国へとひた走る原発再稼働にこだわり、巨大な財政赤字を抱えて

福祉を切り捨てる一方で海外に行っては金を振りまく外交政策、そして止めには国民をないがしろにする憲法改正。

こんな安倍の支持率がなぜ高いのか私はどうしても理解できない。これが日本国民の見識なのだろうか。

【当クリニック運営サイト内の掲載記事に関する著作権等、あらゆる法的権利を有効に保有しております。】