投稿日:2016年10月24日|カテゴリ:コラム

放射線が人体に作用すると人体を構成している分子や原子が電離(中性的な分子が正又は負の電荷をもったイオンに変化する)あるいは励起(エネルギー水準が基底状態のものがエネルギーを加えられることによってより高いエネルギー状態へ移行する)ことによってイオン化する。

こうして発生したイオンは細胞中の水と反応して化学的に反応性の高いラジカル(対になっていない電子をもつ原子や分子)や過酸化水素、イオン対に変化する。

この高い電離作用をもつラジカルなどが生体細胞内のDNAの化学結合を切断したり、細胞質内のリボゾームなどを変質させる。

つまり放射線は細胞内に直接的に働きかけてDNAや細胞内小器官を破壊する。一般に細胞分裂の周期が短い細胞ほど影響を受けやすいので、骨髄の造血細胞、小腸内壁の上皮細胞、眼の水晶体前面の上皮細胞などが最も影響を受けやすい。

逆に細胞分裂の起きにくい骨、筋肉、神経細胞などは放射線の影響を受けにくい。

細胞内への侵襲の中では当然のことながら、DNAへの影響が最も脅威となる。DNAがラジカルなどによって切断されると、細胞レベルでの死が起きる。障害の程度が少なくて死に至らなくても、切断されたDNAは突然変異を起こし発癌や遺伝的影響を残す。

つまり一定以上の大量放射線を浴びせられると大量の細胞死によって、個体としての死亡を引き起こす。直ちに固体死を引き起こさない程度の放射線被ばくだとしても長期的に見れば癌を誘発して死期を早められる。さらに少量の被爆で放射線障害を直接的な死因とせずに一生を全うできたとしても、生殖細胞を通じて子々孫々のDNAに障害を残す。と言うことは種としての生命の観点から見て死を早める。

放射線暴露は細胞レベル、個体レベル、種レベルを通しての殺人と言えるのだ。

 

私が、現職中にその市場原理主義的政策に対して酷評してきた小泉純一郎元首相。過去のコラムで述べた通り、その君子豹変ぶりに対して改めて再評価している。私もまた小泉元首相に対する見方を大いに改めなければならない。

彼は東日本大震災およびそれによって引き起こされた福島第1原発事故を目の当たりにして、在職中の原子力政策を潔く「過ちだった」と認め、国の原発政策を転換させるべく全国行脚に回っている。「『安全、低コスト、クリーン』と言う原発推進論者たちの主張は全部嘘」とまで明言しているのだ。

9月に行われた故加藤紘一元官房長官の葬儀の際に、同席した安倍首相に「なんで原発ゼロにしないのか。原発ゼロの方が安上がりだ。こんな簡単なのになぜ分からないのか」と詰め寄ったらしい。安倍はこれに対してただ苦笑いして頭を下げるだけだったという。

そして、こういう安倍の姿勢を見て、安倍に脱原発の意思がないと確信して、「民意を無視する政権が長続きできるわけがない」と、自らが後継者として育てた安倍を公然と非難した。今や誰も本人に物言えぬ、裸の王様になりつつある安倍に対して公然と非を唱えられるのは小泉以外には無理だろう。

小泉元首相のさらなる活躍を期待したい。

 

小泉氏の言う通り、福島第1原発事故によって原子力発電の神話は崩れ去った。安全でもクリーンでもなく、とてつもなく危険で汚染をまき散らす存在であることがばれた。報道ではあまり語られなかったが、第1原発から南に12km離れたところに位置する福島第2原発も大震災の際、メルトダウン寸前の状態だった。4回線あった外部電源のうちの1回線がかろうじて使用できたために最悪の事態が回避されていたのだ。

原子力規制委員会の基準では、直下に活断層がある場所での原発の建設や稼働を禁止しているが、つい先日起きた鳥取地震の震源は、これまで活断層と認識されていなかった地点だ。地殻変動の活動期に入った日本列島に、

もはや安全な場所などないと言える。

 

「安い」神話も嘘っぱちであることが明らかになった。

福島原発の処理だけでも12兆円以上かかり、絵に描いた餅であった核燃料サイクル「もんじゅ」などの処分に11兆円以上、老朽化した原子炉の廃炉費用に2兆円以上、まだ候補地さえ決まっていない最終処分場建設に4兆円ほどかかることが分かった。つまり、既存の原子力発電システムを処分するだけで30兆円以上の費用を必要とするのだ。

さらにこの先、原発を稼働すればするほどこれらの費用は増加する。今だけでも30兆円以上の費用が想定されているのに、いったいいつまで悪あがきを続けるのだろうか。

みなさんご存じないだろうが、30兆円のうちすでに14兆円は我々国民が電気料金への上乗せとして負担している。原発さえなければ電気料金ははるかに安いはずなのだ。

 

我々日本人の命、個体としてのみならず種としての命をも蝕み滅ぼす原発は壮大な殺人マシーンと言える。安倍政権はこの殺人マシーンをこれからも動かし続けるという。しかもその殺人費用は殺されていく私たち国民に支払わせて。

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