投稿日:2016年7月25日|カテゴリ:コラム

前回のコラムで取り上げた「日本会議」について私の知っている限りを述べてみたい。「私の知っている限り」と断り書きをした理由は、この団体には公開されている表の顔以外に、深くて暗い闇の顔があるように思えるからだ。
「日本会議」は、その主張が極めて政治的であり、現政権の主要メンバーがほとんど会員であるにも拘わらず、政治団体としての届出をしていない。また、現政権の主張の大半がこの団体の主張のコピーと思える。つまり、「日本会議」の動きを見れば、これから安倍たちが進もうとする我が国の行く先が見えてくる。

「日本会議」とは1997年(平成9年)に「日本を守る国民会議」と「日本を守る会」という2つの保守系団体が統合されて結成された。
「日本を守る国民会議」は元最高裁判所長官、石田和外によって1978年に設立された「元号法制化国民会議」を前身として1981年に設立された団体で、既存の保守系諸団体や保守系文化人、旧日本軍関係者などが主な構成員である。
「日本を守る会」は1974年に円覚寺貫主、朝比奈宗源や成長の家の創始者、谷口雅春らが創設した神道・仏教系宗教団体が集まった団体。

「日本会議」の役員には、元最高裁判所長官;三好達、日本医師会会長;横倉義武、元東京都知事;石原慎太郎など57名が名を連ねているが、注目すべきはその中の20名は、神社本庁統理、神宮大宮司、神道政治連盟常任顧問、前天台宗座主、熱田神宮宮司などの宗教関係者が占めていることである。
私は神道について詳しく知らないが、天皇陛下を天照大神の末裔の現人神とした戦前の国家神道は、伊勢神宮を本宗として、その下に全国の神社を階層的に組織化されたシステムで、進駐軍によって解体されたかに見たるが、実は今でも水面下で隠然たる力を持っているのだという。神社の宮司の多くは縁戚関係にあり、血で結びついた彼らは、臥薪嘗胆して戦前の国家神道の復活を策していると聞く。
「日本会議」の基本理念は「戦後の占領政策で失われた美しい日本の再建と誇りある国づくりのために政策提言と国民運動の推進」であり、次の3つの綱領を掲げている。

1.歴史、伝統、文化の継承
2.国の栄光と自主独立、豊かで秩序ある世界の実現
3.人と自然の調和、共生共栄の世界の実現

以上の綱領に基づいて、現在「日本会議」は中国および北朝鮮の軍事的脅威、外国人参政権、竹島・尖閣諸島の領土問題、歴史教科書、夫婦別姓、男らしさや女らしさを否定する男女共同参画法、国旗掲揚および国家斉唱、報道と国益との関係、伝統や文化を蔑ろにする風潮などを具体的な問題と考えている。
そして2002年の大会で、①国会が速やかに憲法改正の発議に踏み切るように強く働きかける、②わが国の歴史・伝統を基調とする、教育基本法の全面改正を求める、③靖国神社を蔑ろにする国立追悼施設計画を阻止し、首相の靖国参拝の定着化を求める、④崩壊しつつある家族と地域社会の再生をめざし、道徳心涵養の国民運動に取り組む、という4つの決議をまとめた。
この決議の中の一つ、教育基本法については実際に2006年に改正が行われ、「日本会議」の主張がほぼ実現した。すなわち、改正後の同法には愛国心、道徳心の育成が教育目標に明記された。義務教育課程での教育指導要領に愛国心教育、国旗国歌指導、天皇への理解と敬愛の念、領土領海の学習、防衛の意義と自衛隊の役割、道徳教育の充実、日本神話の学習が盛り込まれた。
彼らが掲げる次なる最大の目標、憲法改正に関しては、次のように主張している。

①「前文」:「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。・・・・・・」という他人任せな文言を消去し、建国以来2千年の歴史をもつ我が国の美しい伝統・文化という文言を明記して世界平和に積極的に貢献すると表明する。
②「元首」:現在天皇は象徴という曖昧な存在になっているが、国際的にいずれの国でも必ず国を代表する元首が置かれている。改めて日本国の元首が誰であるのか明記すべきだ。
③「9条」:9条2項を改正して、自衛隊を国軍として明確に位置づける。
④「環境」:世界的規模の環境問題に対応する規定を明記する。
⑤「家族」:国家・社会の基礎となる家族保護を規定する。
⑥「緊急事態」:大規模災害などに対応できる緊急事態対処を規定する。
⑦「96条」:憲法改正への国民参加のための条件を緩和する。

どうだろう、自民党の憲法改正草案と多くの点で合致していることに気付かれだろうか。
つまり、安倍政権の根本的な政策は、「日本会議」によって作られていると言っても過言ではないのではないか。
それもそのはず、政治団体を標榜していないにもかかわらず、「日本会議」と表裏一体の組織「日本会議国会議員懇談会」には自民党を中心に超党派で衆参両院議員717名の約3割にあたる280名が参加している。
安倍、麻生が要職についていることは言うまでもないが、この他に石破地方創生担当大臣、中谷防衛大臣など、第2次安倍内閣では19名の閣僚中15名が、第3次内閣の25名中12名が日本会議所属議員なのだ。

現在の政治を裏で操っている「日本会議」。彼らの主張は一見筋が通っているかのように見える部分もある。しかし、その成り立ちが国家神道に繋がる宗教関係者や旧軍人・軍属であることを忘れてはいけない。
そのことをよく表わしているのが憲法に対する根本的な考え方だ。憲法とは本来、国民が国家を縛るためのものなのに、彼らの描く憲法とは国民を国家に従わせる手段なのだ。
彼らの究極の目標は戦前の全体主義的な秩序の回復だ。この肥大化した復古主義的右翼集団の動きから目を離してはいけない。

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