投稿日:2016年7月4日|カテゴリ:コラム

イギリスのEU所属に関する国民投票、舛添の公私混同騒ぎ、熊本地震等々、清原の覚醒剤使用による逮捕、次々と起きる出来事によって、少し前のニュースは記憶のかなたに追いやられてしまう。人の噂も七十五日とはよく言ったものだ。

新しい記憶を形成するためには古い記憶を一時記憶領域からより深い貯蔵庫へと移し替えていかなければならない。これが脳の記憶のメカニズムなのだから致し方ない。

選挙公約を破っていけしゃあしゃあと首相を続けている安倍はこの脳生理学を熟知しているものと思われる。まあ、安倍にそんな知恵があるとは思えないので、バカボンを担ぎあげている菅をはじめとする安倍一派と言った方が正しいのかもしれない。

悔しいけれど、彼らはどんな法螺を拭いたって、国民は75日もすればすっかりと忘れてしまうことを前提に行動している。

だが彼らがどんなに忘却を願っても、絶対に生々しい記憶として保持していかなければならない出来事がある。そのためには、我々は自分たちで脳に時々、その出来事に関する情報を新たに提供していかなければならない。

毎夏行われる広島、長崎の原爆慰霊祭や終戦記念日の催しも、戦争の悲惨さを国民の記憶に留めておくためにとても重要なイベントなのだ。

 

そういった忘れていけない出来事の一つに2011年3月11日東日本大地震に伴う大津波によって引き起こされた福島第1原子力発電所のメルトダウン事故がある。こちらはある意味、先の戦争以上に記憶を新たにしておかねばならない出来事だ。なぜならば福島第1原発事故は過去の出来事ではなく、現在進行形であり、これから何百年と終わりのない戦いだからだ。

チェルノブイリ原発事故をはるかに超える前代未聞の炉心溶融事故のために、5年以上経った今でも9万2千を超える人々が、生まれ育った土地を追われて避難生活を続けている。故郷へ帰れないまま亡くなられる方も増えている。

それにもかかわらず、大手報道機関はこの事件についてほとんど報道しなくなってしまった。マスコミの怠慢なのかもしれないが、参議院選挙直前になって唐突に発表された、事故直後の東京電力の不適切な対応が当時の民主党政権の示唆によったものであるかのような報告から邪推すると、政府からの圧力がないとも言えないのではないだろうか。

 

さて、現在の福島第1原発はどうなっているのかと言うと、1,2,3号炉の中の溶けた燃料棒がどのような形態になっているかは未だに正確に把握できていない。ということは、どうやって溶けた炉心を取り出すかという具体的な手順もまったく決まっていない。

すでに1000基を超えた汚染水貯蔵タンクは頻繁に漏水事故を起こしている。それでも、増え続ける汚染水の処理として補修しながら使い続けなければならない。この先何十年も安全に保存できるとは到底思えない。

さらに、汚染水対策として最近起動開始した凍結土壌壁もまだ完全に包囲できていない。したがって、毎日汚染水は増え続けている。

政府は放射線濃度が安全基準以下になった汚染土を全国の道路や防潮堤などの公共事業に再利用する方針だ、だが、非公式の会合で、放射性物質が安全な濃度に減衰するまでにはあと170年かかるという試算がなされていたらしい。

気の遠くなるような年限、安全に保管できるのだろうか。いや、もしかするとまたもやごまかしの数字を並べて、見切り発車で危険な土壌を公共工事に使うかもしれない。そうなれば、放射能汚染を全国に広めることになってしまう。どうにもならない状況なのだ。

安倍政権は、未だに汚染物質を垂れ流している福島第1原発の状況を国民に周知せず、権益業者ともたれ合ってさらに原発を推進し、参議院選挙の争点からもはずしている。

だが私たちは福島の事故を過去の出来事として記憶の中で風化させてはいけない。我々の子供や孫の生命にかかわる問題だからだ。

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