投稿日:2016年5月23日|カテゴリ:コラム

これまでの人間関係を振り返ってみると、初めは感じが良いと思っていたのに、長く付き合っているうちに、だんだんと嫌と感じる点が多くなって疎遠になる人もいれば、第一印象はなんとなく苦手な人の部類だと思っていたのに、付き合いを重ねているうちに好感度がまし、とても親しい間柄になった人もいる。

私は後者の例が多い方のように思う。最初から「すごく好き」と思う相手はそれほど多くはないが、何回か会っているうちに、だんだんとその人の良さを見つけて仲良くなっていくことが多い。

私とは違って、初対面ですぐに相手を好きになって「素晴らしい人と出会った」と絶賛するのだが、しばらくすると「ひどい奴だ」とか「裏切られた」とか言って付き合いが長続きしないことの多い人もいる。

そういう人は確かに人についていない部分があるのかもしれないが、それよりはその人の相手に対する最初の反応の仕方に問題があるように思える。誰と会っても、批判眼なしに無防備に好きになってしまうのだ。

言い換えると、誰彼かまわず一目惚れしてしまうと言ってもよい。「惚れる」という現象はその字のごとく「惚ける(ほうける)」わけで、理性的な判断ができなくなる。そうなれば、相手の人のなすことすべてが「好き」という感情に支配されて良いように解釈されてしまう。

「好き」という感情は脳の扁桃核が反応してドーパミンが大量に放出される状態と言われている。だから、惚れやすい人は扁桃核が過敏な人なのだろう。

 

こういった扁桃核が過敏な人は別にして、一般的に初めて出会った時の第一印象というものは結構大事にした方が良い。自分の遺伝情報をはじめ、それまで体験したあらゆる情報を基に脳が総合判定した結果なのだから。

したがって、第一印象で「苦手だな」と感じた人とは無理をして必要以上に親しくなろうと努力する必要はない。無駄なエネルギーを消費して悪いストレスを高める。いつまでもその状態を続けると精神的に不健康な状態に陥る可能性が高い。

一方、「好きなタイプ」と感じた人に対して心の扉を開いて付き合っていると、良いストレスを生んで心の平穏が保たれる。

 

異性との関係において「恋に落ちる」と表現されるような一目惚れの時には、扁桃核

がフル活動して大量のドーパミンが脳全体を駆け巡っているのだろう。

女性は男性のフェロモンの匂いに反応しやすく、男性は見目形といった視覚情報が優位と言われているが、きっとそれだけではない。脳が様々な情報を一瞬で総合的に判断して扁桃核を刺激するのだと思う。

家内との初めての出会いの時は、まさにドーパミン全開の状態に陥ってしまった。その勢いで知的な判断を棚に上げて、突っ走って結婚し、子供二人を設けて、現在に至っている。そして今、自分の本能的判断が正しかったと思っている。

 

このように、一目惚れした経験は胸に手を当てれば鮮やかな記憶として蘇るのだが、一目惚れされた経験は?と問われると判然としない。それは当然のことでドーパミンが駆け巡る体験は相手の脳の中の出来事なのだから。

しかし、私は最近一目惚れされた。私も一目惚れしたのだから相思相愛というわけだ。そのお相手は「キナコ」と名付けた雌猫。

昨年の夏、最愛の雄の黒猫、「ルイ」が亡くなって傷心だった私は、夜になると我が家の庭に集まる数匹の野良猫に水とご飯を提供していた。その中の1匹がキナコだ。

他の猫はご飯を食べるとさっさとどこかへ行ってしまうのだが、キナコだけは瞳孔を細めて私の周囲を離れなかったのだ。

そして数日後の熱帯夜の晩。窓を開けて寝ていて朝起きてみたら、私の枕の横でキナコが寄り添うように寝ていたのだ。こうなったらもうドーパミンとセロトニン全開。

今、キナコは新しい家族の一員となった。そして今晩も私の枕元で一夜を共にする。

ああ幸せ。

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