投稿日:2015年1月12日|カテゴリ:コラム

去る12月30日、自民・公明両党は2015年度の税制改正大綱を発表した。法人税、贈与税の軽減、エコカー減税枠の拡大などの減税の一方、消費税、固定資産税などの税の増税が列挙されている。この改正の狙いは、国民にお金を貯めこませずに吐き出させて、無理やり国内消費を増大させようというもの。
ところで、昨年4月に行われた消費税の引き上げの名目は社会保障費への充当であったはずだ。しかし、引き上げられた3%分の消費税によって本当に社会保障が拡充されたであろうか。否。社会保障はまったく豊かになっていない。それどころか、10%への引き上げを延期することを理由にして一部のサービスが縮小される。
一方、消費税増税と車の両輪のはずであった議員定数の削減をはじめとする立法府、行政府の節約には指1本触れられていない。安倍は大嘘つきで鉄面皮の詐欺師なのだ。
それなのに先の選挙でその大嘘つきが大勝。我が国民はよほどの大馬鹿としか言いようがない。政治家は民衆の合わせ鏡という。馬鹿な我々にはこの程度の連中がお似合いなのだろう。
だが、いくら馬鹿でも、この先を暗いと感じる動物的本能は持っている。だからいくら税率をいじって我々の財布から金を搾り取ろうとしても、なけなしのお宝をそう簡単には手放しはしない。安倍の思惑の通りに内需が拡大するはずがない。
それも政府は織り込み済みなのかもしれない。たとえ景気回復政策の失敗が露呈したとしても、増税のほうでしっかりと毟り取れるからだ。つまり、この先日本経済がどっちに転んでも我々一般庶民は悪代官によって貧窮の縁へと追いやられるのだろう。

ところで、この税制案の中で見逃せない項目があった。それは少額投資非課税制度(NISA)の拡大だ。現在100万円の上限を120万円に引き上げるとともに、未成年向け「ジュニアNISA」を新設するという。
NISAとは、従来株式売買とは無縁であった、それほど所得の高くない人々の財布から株の投資に巻き上げようという悪巧み。なにせアベノミクスなどという自画自賛の経済政策は株価を景気の拠り所にしているから、景気の実態と解離していても、何が何でも株価を吊り上げなければならない。
実は粉飾とも思えるこの政府主導の株価操作のために、NISA導入にとどまらず、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用の5割を株式に投入させる。GPIFは約130兆円にも及ぶわれわれ国民の公的年金の運用を任されている。これまでは安定性に欠ける株式での運用は低い比率に設定されていたが、政府のごり押しの結果、今後は極めて不安定な運用を余儀なくされる。
安倍の悪あがきが底をついて株価が実態経済を反映した途端に、我々の年金はあっという間に何十兆円もの損失を出すことになる。その時になっても「アベノミクスは道半ばです」なんて戯言を言い続けるのだろうか。

さらに私が見逃すことができないのが「ジュニアNISA」だ。目的は子や孫の名義で口座を開いて株取引をして、将来の進学や結婚などの資金にあてること。また、子供のうちから株式投資に関心を持たせることと言っている。
第一の狙いは、年寄りの財布からさらに多くの金を引き出そうというもの。これは体のいい生前贈与枠の拡大だ。金持ちの子や孫は知らない間に株式という形で財産を受け取る。しかし、金持ちの親や曽祖父を持たない子はその恩恵にはあずかれない。つまり、この制度は貧富の差を将来にわたってますます拡大することになる悪法だ。
第二の狙いはより悪質だ。以前のコラムにも書いたが、このところ「働く」ということを正しく理解していない人が多い。私は「働く」ということの基本を理解させるには子供の頃に農業や漁業といった第1次産業を体験させることが必要だと考える。ところが、「ジュニアNISA」は「働く」ことの根本を教えるどころか、働かず金を設けることを勧めるようなものだ。
こんなことで、安倍が常々口にしていた「美しい我が国の文化と伝統」を守ることができるというのだろうか。勤勉な労働に報いようとせず、拝金主義を助長していく先に美しい文化と伝統など見えてこない。

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