投稿日:2014年12月15日|カテゴリ:コラム

去る12月10日ストックホルムで2014年のノーベル賞の授賞式が行われた。今年の物理学賞受賞者が赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏であり、受賞理由が青色発光ダイオードの開発であることはもう皆さんよくご存じだと思う。
発光ダイオード(LED)とは電圧を加えると発光する半導体のこと。1962年にアメリカのニック・ホロニアック(Nick Holonyak)によって赤色発光ダイオードが発明された。その後1972年にやはりアメリカのジョージ・クラフォード(M.George Craford)によって黄色発光ダイオードが発明された。
発光ダイオードはそれまでの白熱電球などに比べて10倍以上エネルギー効率が良い。このため、早くから白熱電球や蛍光灯にかわる照明源として実用化が期待されていた。
しかしながら、通常の照明に必要な白色光をLEDで得ることは困難を極めた。なぜならば白色光とは可視光線の全スペクトル帯域にわたって連続した強度の光のことである。だが、半導体による発光はある狭い帯域の波長範囲の光しか発光しない。
となると光の3原色の原理を使うしかない。つまり、赤と黄色に青色の光を発するダイオードを加えれば、厳密な意味での白色光ではないが、人間の目には白色光と認知されるからだ。
ところが、ここでもまた大きな壁にぶつかってしまった。赤や黄色に比べて波長の短い(=周波数の高い)青い色の光を得るためにはより強いエネルギーが必要なのだが、その高エネルギーの光を出すだけの半導体基板の結晶化が大変難しかったからだ。
窒化ガリウムが有力候補として挙げられたが、この物質の安定した結晶化がまことに難しかった。世界中の研究者が何百万回も試行錯誤を繰り返したが実現できず、多くの研究者が窒化ガリウムから手を引いて行った。
そんな中、諦めずに研究を続けてついに結晶化に成功したのが、赤崎、天野教授。さらに実用レベルの高出力ダイオードを製造する過程を完成させたのが中村教授なのだ。
こうして赤、黄、青の発光ダイオードが勢揃いした。そしてそれらをうまく組合せることによって思いのままにあらゆる色の光を生み出すことができるように なったのだ。エコを目指す現在、私たちの身の回りの光源は次々とLEDに取って代わられている。私のクリニックの照明もすべてLEDだ。
12月に入って町中に煌めいているクリスマスイルミネーションも、地球温暖化、原発停止、省エネルギーが叫ばれる現在、LEDの存在なくしてはあり得ない(私はそれでももったいないと考えるが)。
信号機もLED化されて省エネルギーだけではなく、断然識別しやすくなった。以前の電球の前に色ガラスを置いた方式の信号機は冬の夕日をまともに浴びた時などには、何色がついているのか分からないことがしばしばであった。

ところで、信号機の色は赤、緑、黄なのに、どうして緑を「青」を言うのだろう。
信号の色は国際規格で、赤、黄、緑、青、白の五色に決まっていて、そのうち青と白は航空信号に使い、地上交通の信号には赤、緑、黄の3色を使うと決められている。
昭和5年、日本に初めて信号機が設置された時、正式にはちゃんと緑信号と呼ばれていた。ところが、いつの間にか一般的に青信号と呼び出し、ついには法令の方が実情に合わせて「青信号」と言う呼称に変わってしまった。
この理由について調べてみたがはっきりとしたところは分からない。理科で光の3原色を教えているので赤、青、黄と言った方が覚えやすかったという説。緑色 のリンゴや野菜を青リンゴ、青菜と言うように、日本語では青と緑があいまいだという説。いろいろあったがいずれも説得力に欠ける。
さて、日本では青色LEDの普及に伴って、信号機の「緑」を国際規格から逸脱しない範囲で、できる限り青に近づけているそうだ。文字通り青信号になりつつある。

閑話休題、ノーベル物理学賞は1949年の湯川秀樹博士を皮切りに日本人研究者の受賞が多い。2008年には南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏が素粒子物理学の分野で受賞している。
今年の赤崎、天野、中村先生たちの研究は先ほど述べた通り私たちの生活を一変したほど実用的な成果を得た。一方、南部博士たちの研究は、我々の生活場面での実用と言う観点からは何の役にも立たないが、宇宙の始まりを知る上での重要な研究だ。
最近はものの価値をなんでも経済効果と言う金勘定で決める傾向にあるが、科学研究とは決してそんな物差しで測っては欲しくない。実用であれ、今のところなんの役にも立たないものであれ、真実をいかに解き明かすかと言うことに目的がある。
高校生の頃、物理学科への進学も考えた私としては、毎年この時期になるとワクワクしてくる。もちろんノーベル賞に選考されなかった研究にもそれに勝るとも 劣らない素晴らしい研究がたくさんある。一般の人に知られない数多くの研究の積み重ねの上にこそ大きな飛躍が生まれる。そういう意味でノーベル賞受賞者は 運が良いとも言える。
それでもやはりノーベル賞は格別だ。しかもそこに日本人の名前が並ぶとなぜか我がことのように嬉しくなってしまう。
赤崎先生、天野先生、中村先生本当におめでとうございます。
———————————————————–
 電磁波のエネルギーの計算式:光(電磁波)の持つエネルギーはE=hvの式で求められる【E:エネルギー(J) h:プランク定数(6.62607×10-34Js) v:振動数(/s)】。
ここでv(振動数)はc/λ【c=光速(2.9979×108m/s) λ=電磁波の波長(m)】なのでE=hc/λとなる。つまり波長の短い光ほど高エネルギーなのだ。
ちなみに電磁波は波長の長い順にマイクロ波、テラヘルツ波、赤外線、可視光線(赤→青)、紫外線、X線、ガンマ線、電磁放射線となる。

【当クリニック運営サイト内の掲載記事に関する著作権等、あらゆる法的権利を有効に保有しております。】