投稿日:2014年12月1日|カテゴリ:コラム

先日、トヨタから燃料電池車「MIRAI」の発売が発表された。ホンダも来年には燃料電池車を一般販売する。
燃料電池車とは水に電圧をかけると水素と酸素が発生する電気分解の逆の過程によって、水素と酸素から電気を作り出して、その電気によってモーターを回して駆動する車のことだ。
電気分解の逆の過程だから排出される物は水だけ。通常の化石燃料を使ったエンジンのように二酸化硫黄や窒素酸化物のような人体に有害な物質のみならず温暖化の原因とされている二酸化炭素やメタンは一切排出されない。
また、燃料の水素は宇宙にもっとも多く存在する元素。地球上にもあらゆるところに存在する。もっとも容易に手に入るのは海水だ。地球は「水の惑星(aqua planet)」と呼ばれるほど豊富に水を有する。
身近に溢れている水を燃料として動き、また水を排出する燃料電池。資源、環境など多くの観点から究極のエンジンと呼ばれる所以である。
価格は723万6000円だが、国から少なくとも200万円の補助金が出る。政府はこの補助金のさらなる増額も検討しているという。また、これに加えて東京都が100万円の補助金を出すというから、東京都民がこの車を420万円ほどで買えることになる、中間所得層でも手に入れることができる。
だが、残念なことに燃料を補給する水素ステーションは現在まだ日本全国に10数か所しかない。これではステーション周辺をただ動き回るだけしかできなく、実用車としては使えない。
ただ、国も積極的に水素ステーション整備に力を入れるとのことであるから、無公害の燃料電池車が町中を走り回る日もそう遠くないだろう。

フランスのカラダッシュに日本、EU、アメリカ、ロシア、インド、中国、韓国が共同でITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)を建設中だ。2027年の運転開始が現実のものとして見えてきた。
ITERとは実用前段階の実験核融合炉の一つ。核融合炉とは原子核同士を衝突させて融合し、新しい原子核ができる際に飛び出してくる中性子をエネルギーとして発電させる原子力発電炉のことである。
実際には水素原子核同士が衝突してヘリウムになる際に生ずるエネルギーで発電する。つまり太陽の内部でおこっているのと同じ反応による発電システム。地球上に小さな太陽を作ろうという計画だ。
核融合では燃料の質量の0.7%がエネルギーに変換される。現政権が、悲惨な事故の危険性を孕みながらも、その効率性からなお推し進めようとしている核分裂反応でも質量の0.1%しかエネルギーに変わらない。核融合は核分裂の7倍もエネルギー変換率が高いのである。核融合炉が実用化されれば燃料1gを反応させただけで石油8トンを燃やした時と同等のエネルギーを得られることになる。
その燃料は重水素(2H)と三重水素(3H)《トリチウム》だが、重水素は水から分離していくらでも作ることができる。トリチウムはリチウムを原料として核融合炉の中で自己再生産できる。リチウムは現在のところ中南米の塩湖から発掘されているが、海水中からの分離法が開発されている。つまり核融合炉の燃料は、2億年前の生物の死骸に由来する石油に比べて桁違いに豊富なのだ。
福島原発事故で原子力の怖さを思い知った人は、「核分裂反応の7倍のエネルギー」、「地球上の太陽」などと聞くと、もし核融合炉が暴走してしまったら福島どころではなく、地球そのもの破壊されてしまうと心配されるだろう。
だがそうではない。現在の核分裂原子炉では燃料であるウラン235は数年分固めた燃料棒として使用する。核分裂反応はいったん開始すると連鎖反応で止まらなくなる。その暴走する反応を、冷却水の中で中性子を吸収する制御棒を使ってコントロールしている。だから、福島事故のように冷却水が漏れて制御できなくなると炉は暴走してメルトダウンしてしまう。原子炉が壊れても燃料が燃え尽きるまで反応を止めることができない。
これに対して核融合炉では10秒ほどの間隔で数グラム程度の燃料を補給し続ける必要がある。だから、燃料を補給しないと瞬時に炉は停止してしまう。また何らかの事故で炉が破損すると、空気などの不純物が混入して純粋なプラズマ状態が維持できなくなる。そうするとたとえ燃料を補給しても核融合反応は起きない。
つまり核融合炉は、一朝事あった時に分裂炉のように暴走するのではなく、停止してしまう。だから非常用の冷却システムすら必要としない。
さらに、核分裂では半減期が何万年にも及ぶ高レベル放射性物質が廃棄物として生成される。この人の手によって生み出された最悪のごみの処分法は未だ開発されていいない。原子炉がトイレのないマンションと呼ばれる理由だ。
これに対して、核融合炉ではそもそも高レベル放射性廃棄物質は発生しない。中性子を被爆した炉壁などの構造物は使用後、少量ながら、放射性廃棄物となるが、これらも100年ほどでほとんど無害化される。
同じ核でも核融合は核分裂と違って極めて安全な原子力なのだ。高効率で安全な核融合炉が究極のエネルギー源と言われる所以である。

燃料電池も核融合炉も水素を燃料とする。水素はビッグバンによって最初に宇宙に作られた物質。現在もこの宇宙の中の元素で最も多く(宇宙の全原子の90%以上)、普遍的に存在する。水素は理想のエネルギー源と言える。
原料コストの削減が推し進めて経済性の課題を解決も見えてきている。遠くない将来、人類は化石燃料やウラン、プルトニウムを卒業して水素の時代を迎えるだろう。

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