投稿日:2014年10月6日|カテゴリ:コラム

シリア内戦に乗じてイラクとの国境地帯に生まれた、自称イスラム国の急速な勢力拡大に対して、キリスト教圏の欧米列国は警戒感を強めている。キリスト教圏だけではない。原油によって莫大な財産を築いたイスラム教圏の既存国家も存亡の危機感を持っている。
イスラム国は経済を最優先とする資本主義の西欧文明を否定して、イスラム教による統治を目指しているらしい。確かに私も、西欧化によって世界中に蔓延してしまった飽くなき貪欲な拝金主義はもう限界にきていると思う。
しかし、彼らの主な資金源は占領地域から奪った原油の密売ということだ。資本主義を非難しながら、自分たちの屋台骨が闇ルートを通じて西欧の市場経済によって成り立っているのだから何をか言わんやである。
加えて、自分たちの宗派に改宗しないものは女子供まで殺害すると聞く。やはりとてもついて行けるものではない。所詮巨大なカルト集団ではなかろうか。ただ、そんなばけものカルトを生み出すだけ現在の世界が混沌としているのだろう。

先日新宿で開かれた講演会に参加した。休憩時間に煙草を吸おうと思い会場の外へ出た。さっと見回したところエントランス付近には喫煙室はない。会場係に喫煙場所を尋ねるが「知らない」との返事。外に出てみることにした。
西口ロータリーの周囲は遠距離バスの発着所になっていて、バスを待つ人々がうろうろとしている。長い旅の前に一服したい人がいるだろうから、きっと喫煙コーナーがあるに違いないという儚い希望を抱いて辺りを見回すが、どこにも見当たらない。
ビルの裏手に回ることにした。ところが喫煙コーナーを見つけるどころか、目にするのは歩道やビル脇の至る所に書かれた「路上喫煙禁止」の警告。結局このビルの界隈に合法的にタバコを吸える場所は全く見つけられなかった。
「合法的に」とことわったのは、ビルとビルの隙間にヤンキー座りをして周囲に目を配りながら喫煙している二人の男性を見たからだ。身なりは普通のサラリーマンなのだが、その行動はまるで違法薬物をやっている犯罪者のようだ。
それに実際、あんな隙間で煙草を吸ったら危険だ。万が一吹き溜まったゴミに火がついたならば一大事。本当の犯罪者になってしまう。喫煙場所さえあったならば、あんな危険で怪しげな行動をしたくはなかっただろう。結局、私は巨大なビルを1周したあげく、1本の煙草を吸うことができないままホールに戻った。

私は8年前に建て替えた豊島区医師会館の建設に係わった。当時から、日本医師会が禁煙運動に力を入れていたので、当初は全館禁煙の建物になるはずだった。だが、医師会員の中に喫煙する人が少なくない現実を踏まえて、2か所の喫煙室を設けた。もちろん完全に分煙できる機能を持った部屋だ。
この喫煙室は予想以上に好評であった。私のように煙草を吸う会員、職員からだけでなく、外部の訪問客からも大変喜ばれた。
医師会では頻繁に勉強会をする。いろいろな分野の専門家を招いて、最新の知識を勉強するためだ。こういった勉強会の演者の中にも喫煙者がいる。そういった演者の先生から「数時間の講演を終えた後に一服できるのはありがたい」とのお言葉を頂いた。
会館実働後には、煙草を吸わない会員からも、「煙草を吸う人も吸わない人も一緒に快適に過ごせるすばらしい会館だ」とお褒めの言葉を頂いた。
ところが残念なことに、豊島区医師会は近々喫煙室を取り壊すことに決まった。理由は定かではないが、喫煙する会員がどんどん減り、新しい会員に「医師会館たるものに喫煙室があること自体けしからん」という教条的な嫌煙家が多くなったということだろうと推察している。
せっかく、皆が快適に過ごせる空間を作ったのに、お金をかけて取り壊して、「その後をどう使おう?」と悩んでいるというのだから馬鹿馬鹿しい話だ。
だが、「こうあるべき」の原則を振りかざして現実を見ることのできない人間とはまともな議論はできないので、私は殊更に異論を唱えなかった。医師会館に行かなければいい。ただそれだけのことだ。
医師会館だけならば行かないで済む。しかし、街中に喫煙する場所が無くなったら我々愛煙者たちはどうすればよいのだろう。タバコを吸う者は家に引き籠って社会活動をするなというのだろうか。
確かに以前は、スモーカーが傍若無人に振る舞いすぎていたように思う。狭い空間でも周囲の迷惑などお構いなしにぷかぷか煙を吐き出していた。煙草の嫌いな方はさぞやつらい思いをされていたことだろう。
また、いたるところに吸殻をぽいぽい捨てて、町の美観を損ねてきた。清掃にあたった人たちにも多大なご迷惑をおかけしてきた。
その当時の恨みを晴らそうとしてなのか、嫌煙家の喫煙者排除の攻撃には容赦がない。「今後、我々スモーカーはなるべく皆様のご迷惑にならぬよう、限られた場所で喫煙し、吸殻の始末もきちんとしましょう。」と懇願しても許してくれない。
最後には、「あなたの健康のため」、「世界中の人の健康のため」という錦の御旗を振りかざして、地球上から煙草を根絶しようとしているようだ。だが何に限らず、いいことずくめの笑顔のスローガンほど胡散臭いものはない。
また、アルコールをはじめ健康に良くない物質は五万とあるにも関わらず、彼らの目には煙草しか見えてないようだ。本稿では敢えて踏み込まないが、そもそも、現在まことしやかに提示されている煙草の害悪を示す科学的とされるデータ自体、結論ありきで強引な統計操作をした眉唾物が少なくない。

煙草狩りともいえる現在の行き過ぎた喫煙者排除運動を見ると、私は先ほど述べたイスラム国を連想してしまう。共通する点は狂信的な原理主義と不寛容さである。自分と同じ考え以外の者の存在を認めず排除する姿勢は、イスラム国だけではない。中国共産党、ナチス、オウム真理教にも共通する。
さらに煙草狩りが進めば、我々スモーカーは自己批判の上、より狂信的な嫌煙論者に転向するか、レジスタンスとして地下に潜伏して生きていく以外道はなさそうだ。だが、いくら抵抗しても、煙草会社が焼き打ちされ、煙草畑を破壊されれば絶滅するしかない。いやその前に、一箱数千円に値上げされたら、経済的理由で煙草を止めざるをえない。
だがそうして、健康にとって諸悪の根源とした煙草の煙を根絶した後に見えてくるのは、この上なく不健康な全体主義的社会だ。

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