「成るも成らぬも金次第」というが、どうやら健康の基準も時の経済状態で変わってしまうらしい。
去る4月4日、日本人間ドック学会や健康保険組合で作る専門員会が健診診断における基準値を大幅に変更すべきと提言した(下記表)。
人間ドック学会による健康診断新基準値 | ||||
検査項目 | 従来基準値 男女共通 |
新基準値 | ||
男性 | 女性 | |||
血圧 | 収縮期血圧 | 130未満 | 88~147 | |
拡張期血圧 | 85未満 | 51~94 | ||
肥満度(BMI) | 25未満 | 18.5~27.7 | 16.8~26.1 | |
肝機能(γ-GTP) | 0~50 | 12~84 | 9~40 | |
総コレステロール | 140~199 | 151~254 | 33歳~44歳 145~238 |
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45歳~64歳 163~273 |
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65歳~80歳 175~280 |
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LDLコレステロール | 60~119 | 72~178 | 33歳~44歳 61~152 |
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45歳~64歳 73~183 |
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65歳~80歳 84~190 |
同学会では新基準値を6月に正式決定して、来年4月からこの基準値を運用するという。
細かい数値の説明は省略させていただくが、要するに健康の基準がこれまでより大幅に緩くなる。ということは、今までは本来心配せずに生活してよかったはずの人たちが死につながる病気になっていると脅しあげられていたことになる。当然ながら、オオカミ少年呼ばわりされた日本高血圧学会を始め、多くの関連学会は猛反発。
私はもともとこういった検査値の正常基準はあまり信用していなかった。なぜならば、正常値というものは新しいデータが加わるごとに変化していくものだし、健康の指標によって全く異なる値が出るからだ。だから、私は従来から、ごく大雑把な目安として見てきたし、経時的にどう変化するかという点しか重要視してこなかった。
それにしても、この時期にこれほど大幅な変更をする理由は何なのだろう。純粋に学問的要求だけからではないだろう。私には、医療費抑制に躍起な国の力が働いていいるとしか思えない。
先日厚労委員会で、介護保険の自己負担率の引き上げが決議された。これまで1割であった自己負担が年収280万円以上の人は2割になる。年金を含めて年280万円の収入で文化的でゆとりのある生活ができると言うのだろうか。とてもそうは思えない。過酷な政治としか言いようがない。
福祉サービスを低下させないためにと言って我々を説き伏せた、あの消費税増税のペテンがたった1ヶ月で馬脚を現したことになる。増税と引き換えに行われるはずであった国会議員の削減、行政改革などさらさら行う気はなさそうだ。となれば3%の増税なんて焼け石に水。せっせと福祉サービスの削減をしなければならない。その第1の矢がこの介護保険自己負担分の引き上げなのだろう。
こういうあからさまな動きを見れば、健康診断基準値の緩和も医療費削減のためのものであるということが明瞭にとって分かる。医療保険を使う受診者を減らそうと考えているのだ。
さらにさらに、国は詐欺商品満載で健康被害の報告が後を絶たない健康食品(サプリメント)に対して効能効果の記載を許可する方針だそうだ。
健康食品は医薬品と違ってきちんとした実験をする必要がない。つまり何の根拠がなくても「癌に効く」、「若返る」と称することが許される。だから、これまではきちんとした根拠に基づいた薬と錯覚させないために効能効果の記載を禁じてきた。それでも、「学会の権威、○○博士のお墨付き」だとか「10万人の愛用者によって実証された」といった紛らわしい広告表示がなされてきた。それなのに、国はこういったまやかし製品の販売をさらに助長しようとしている。薬だと医療保険が支払われるがサプリメントならば消費者の自腹だからだ。
すべては福祉関連費用削減のためだ。医療や介護を受けようとする人を減らし、人々が勝手に自分の財布から怪しげな健康食品を買って、それで安心と思わせる。もし万が一、とんでもない事故が起きたとしてもそれは製造会社と消費者の自己責任に帰してしまえる。
こういった一連の社会福祉費削減政策作りの陰には必ず御用学者の存在がある。健康診断基準値の変更に際しても、国や赤字で苦しむ健康保険組合からの要請を受けた学者さんたちの活躍があったに違いない。
振り返って見れば、これまでの基準値は降圧剤や高脂血症の治療薬を売る製薬会社御用達の学者さんたちの活躍の賜物であったのかもしれない。ここ当分、この御用学者同士の対決から目が離せそうもない。
それにしても、時の経済状況によって病人にされたり健康人として扱われたりするのではたまったものではない。