投稿日:2014年5月12日|カテゴリ:コラム

ゴルフでは同伴者が素晴らしいプレイをした際には「ナイスショット!」とか「ナイスパット!」と褒めたたえ、ミスをした時には押し黙るかあるいは「惜しかったね」と慰めるのが通例だ。だが、同伴者のミスを本当に同情の念で見ている人はそう多くない。「惜しかったね」と言いながら、口元がにんまりとほほ笑んでいる人が少なからずいる。
「他人(ひと)の不幸は蜜の味」とはよく言ったものである。女性週刊誌やテレビのワイドショーの人気の源がこの「他人の不幸は蜜の味」心理にあることは間違いがない。
幸福感とは相対的なもので、月給○○十万円以上の人が幸せとか、部長以上が幸せといった絶対的な基準があるわけではない。たとえば、いくらアラブの王様だからといって最愛の人の死を目の当りにしたら絶望を感じるし、ホームレスの人が思わぬところで暖かい衣類を手に入れた時には幸福感を味わう。また、人は様々な点を他人と比較し、自分より悲惨な姿を見つけた時に快感を覚えるのだ。
人間の人間らしい感情の動きを見事に言い当てた「他人の不幸は蜜の味」という言葉、さぞや古くからの格言であろうと思いきや、そうではないらしい。
1994年にTBSテレビで放映された大竹しのぶ主演のドラマのタイトルが「ひとの不幸は蜜の味」だ。それを大竹の元夫である明石家さんまが上手に言い回すようになって定着した言葉であるらしい。
だが、海外に目を向けるとドイツ語でSchadenfreude(シャーデンフロイデ)という言葉がある。訳すと「欠損のある喜び」、「恥知らずの喜び」であり、他者の不幸、悲しみ、失敗を見聞きした時に感ずる喜び、嬉しさといった快い感情のことをいう。つまり「ざまあみろ」である。
やはり、「他人の不幸は蜜の味」は明石家さんまが発見した人間心理ではなく、万国共通、時代を超えた人間感情と言える。
最近、放射線医学研究所を中心としたグループが行った面白い研究がある。その実験とは、健康な大学生19名を平均的な主人公として、他に3人の人物(A、B、C)が登場するシナリオを読ませる。そして、その際の被験者たちの脳活動を計測した。
Aは被験者と同性で進路、人生の目標、趣味が共通。被験者より上級あるいは優れた物や特性(学業成績、所有する自動車、異性からの人気など)を多く所有している。
Bは被験者と異性で、進路、人生の目標、趣味が全く異なる。被験者より上級あるいは優れた物や特性(学業成績、所有する自動車、異性からの人気など)を多く所有している。
Cは被験者と異性で、進路、人生の目標、趣味が全く異なる。被験者と同様に平均的な物や特性(学業成績、所有する自動車、異性からの人気など)を所有している。
その結果、被験者による妬みの評定はA>B>Cの順に高くなった。そしてAに不幸が起きた時が最も喜びの反応が大きくなることが分かった。
MRI画像を見ると妬みの感情には大脳皮質の前部帯状回という、葛藤や身体的な痛みを処理する部位が関与している。そして妬みの対象に不幸が訪れると線条体という部位の活動が活発になる。線条体は心地よい感情や意思決定に関わるとされている部位である。さらに、妬みに関連する前部帯状回の活動が高ければ高い人ほど、他人の不幸に対して線条体が強く反応することも分かった。
つまり、「他人の不幸は蜜の味」は脳科学的事実なのだ。不謹慎だ、恥知らずだと言っても始まらない。こういう脳の活動も人類の現在の繁栄を生んだ一因かもしれないからだ。
ただ、こういった脳の反応をごまかすことができるのもヒトの特技だ。だから、宿敵のスーパーショットを見て、いくら前部帯状回が反応しても、にこやかに「ナイスショット!」、チョロを見て線条体が強く反応しても渋い顔で「いやー惜しかったね」と言うことにしよう。

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