投稿日:2014年3月24日|カテゴリ:コラム

幼いころの楽しい想い出の一つがたまの日曜日に親に連れて行ってもらった多摩川園。多摩川園とはその昔、東急目蒲線(現在の東急多摩川線)沿いにあった遊園地のことだ。
白金台町から5番の都電(目黒~永代橋)に乗ると上大崎の次が終点の目黒駅だったが、天気の良い日は歩いた。歩いても15分ほどの道程だったからだ。国鉄目黒駅から少し離れたところに目蒲線の終点目黒駅があった。山手線の目黒駅は木造のバラックのようなみすぼらしい駅舎だったが、目蒲線の駅舎は2階に食堂のある鉄筋造で子供心に立派な建物に思えたものだ。
目蒲線は目黒駅を出ると目黒川に向かって下り、不動前駅に着く。次の武蔵小山駅はその当時から賑わいのある商店街があった。西小山、洗足を過ぎて、大岡山駅で大井町線と接続していた。大岡山には東京工業大学があり、目蒲線の中では比較的立派な駅だった。大岡山を出ると周囲は畑が続く。そして奥沢、田園調布の次が多摩川園前だ。
多摩川園は多摩川の川沿いに東急の前進、田園都市株式会社が大正14年に「温泉遊園地多摩川園」として開設した。飛行塔、メリーゴーランド、お化け屋敷、電気自動車、ジェットコースターなどが設置されていた。秋に開催される菊人形展が有名であったが、子供の私には特段興味がなかった。私のお目当ては「電気自動車」と「ビックリハウス」。
電気自動車は今でも見かけるが、「ビックリハウス」を知っている方は少ないのではないかと思う。「ビックリハウス」とは長椅子の置いてある部屋のアトラクション。壁には絵画が飾ってあってリビングルームのようになっている。
中に入って長椅子に座ると電気が消えて真っ暗になる。長椅子はブランコのような作りになっており、これがゆらゆらと揺れる。同時に長椅子の揺れに合わせて周囲の壁がぐるぐると回転する。
つまり周りの壁が回転する部屋の中でブランコが揺れているだけなのだが、椅子に座っているお客は自分がぐるぐると回転しているような感覚にとらわれるという、人間の錯覚を利用した絶叫アトラクション。とは言っても、今から考えるとずいぶんと地味なアトラクションだ。
しかし、加速度負荷に弱く、今時の絶叫マシーンには絶対に乗れない私にとって「ビックリハウス」程度がほどほどのスリルなのだ。だから、遊園地で「ビックリハウス」にお目にかかれなくなったのがとても残念でしかたがない。
この多摩川園、東京オリンピックの頃には年間100万人の入場者を誇ったが、周辺の集合住宅の増加に伴う、近隣紛争や景観悪化、さらにはレジャー需要の変化に打ち勝てず、1979年に閉園となった。
最近、この「ビックリハウス」の想い出に限らず幼小児期から思春期にかけての楽しい想い出が生々しく蘇ることが多くなった。母に連れて行ってもらった大倉山(東急東横線沿線)での土筆採りの情景などは、春の匂いまで付いて蘇ってくる。
年を取ると昔の記憶が優勢になると言うから、私の脳は相当に老化してきているに違いない。

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