投稿日:2014年2月17日|カテゴリ:コラム

首都圏は2週連続して大雪となった。東京都心部は2月8日には26cm、14~15日には27cmの積雪に達し、45年ぶりの大雪だという。45年ぶりと聞いて懐かしい想い出がよみがえった。なぜならば、1969年(昭和44年)の雪は私にとって忘れられない雪だからだ。
慈恵医大入学試験の2日目、3月2日の日曜日は朝から底冷えのする曇天だった。午前の試験が終わり、午後の試験までの1時間の間、試験会場から追い出された。試験会場であった協立薬科大学は芝公園近く、都心のオフィス街にあった。この近くは今でもファミレスなどなく、日曜日にあいているレストランや喫茶店はほとんどない。芝公園のベンチに座って持参の握り飯を食べたのだが、そんな私たちの頭の上にちらほらと白い物が降ってきた。昼休みが終わるころにはあたりは真っ白、頭や眉毛を真っ白にして会場に戻った。試験が再開されても、体が冷え切って、指が震えてしばらくは鉛筆を握ることに難儀したのを今でも生々しく覚えている。
幸い、私は合格することができたから懐かしい想い出なんて言っていられるが、もし不合格だったとしたら、生涯あの雪空を恨んでいたことであろう。
その10日後の3月12日(水)はさらに大雪となり都心は30cmの積雪を記録した。先日の雪はこの1969年3月12日以来の大雪だったということだ。今年も多くの受験生がこの2回の大雪のために苦労したことだろう。
入学試験は、その人の持つ本来の能力を試す場である。そのためにはなるべく好条件で受験させてあげるべきだ。その点から言って、雪害の多い、この時期に試験を行うのは適当とは言えない。東京は45年ぶりで済むかもしれないが、雪国の受験生は毎年不利な条件を強いられている。
さらに、この時期はインフルエンザ、ノロウィルスをはじめとする感染性胃腸炎の流行時期でもある。1年間寝る間も惜しんで勉強してきても、当日にインフルエンザが発症してしまったらそれまでだ。40℃近い発熱状態で頭がうまく回転するはずがない。1年の努力が徒労に終わってしまう。
実際、私の従兄に幼少期から神童と言われる男がいた。当時、都内で一番と言われた都立日比谷高校を常に首席で通した秀才だ。その彼が東大受験前日から高熱に見舞われた。インフルエンザだ。その結果、不合格。日比谷高校関係者をはじめ周囲の者はあまりの不運に同情の言葉をかけたが、当人は「熱が出たくらいで受からないのは実力がなかったからだよ」とケロリとしていた。もちろん、翌年は見事合格し、数学科に進み、筑波大学副学長まで勤めて現在も名誉教授をしている。
こんな従兄でさえ落ちてしまったようなリスクの高い時期の入学試験は止めたほうがよいのではないだろうか。
グローバル化と言って、盲目的に欧米に合わせての秋入学には賛成するわけではない。しかし、入学試験だけでも雪害や流行性疾患が多い早春ではなく、秋にするべきだと思う。もちろん秋は秋で台風の危険性がある。しかし、早春に比べればはるかに危険性が少ないと思うのだが、いかがなものであろうか。

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