投稿日:2014年1月13日|カテゴリ:コラム

1月3日、有楽町駅付近の雑居ビルで起きた火災によって、帰省ラッシュの始まった東海道新幹線をはじめ首都圏のJR線は大混乱に陥った。首都圏だけではない、この火事の影響は遠く九州のダイヤまで迷惑を被ったと聞く。
また、先日副都心線に乗った際、「本日は東武東上線○○駅付近で起きた人身事故による影響でダイヤの遅れが出まして大変ご迷惑をおかけしております」とのアナウンスがあった。
そう、副都心線は小竹向原駅で有楽町線と乗り入れて西武線と接続し、和光市駅で東武東上線と接続している。一方、渋谷駅で東急東横線に乗り入れて横浜駅で横 浜高速鉄道みらい線に接続している。埼玉県の中央部から横浜中華街まで直通で行き来できるのだ。と言うことは、副都心線自体では何の支障がなくても、みら い線、東横線、西武線、東武線のいずれかで事故が起これば即、影響を受けてしまうことになる。
今や、日本中の鉄道は相互乗り入れをして網の目のような鉄道網を構築している。まるで全身に張り巡らされた血管のようだ。
ところが私が日頃一番お世話になっている丸ノ内線はほかの地下鉄に比べてダイヤの遅延が極めて少ない。なぜならば、丸ノ内線は他の路線に乗り入れしていないからだ。
ど うして丸ノ内線は自己完結で他の路線に乗り入れて延伸しないのだろうか。理由はJRをはじめ多くの鉄道の軌間(車輪と車輪の間隔)が1067mmの狭軌で あるのに対して、丸ノ内線の軌間幅は新幹線と同じ1435mmの標準軌であること、一般的な鉄道の集電方式がパンダグラフを用いる架空電車線方式なのに対 して丸ノ内線は走行用のレールの脇に第三の給電用レールを敷設した第三軌条集電方式であることによる。
つまり電車の規格が全く異なるから乗り入れたくても乗り入れられないのだ。だから、丸ノ内線は今後とも中央線、西武線、東武線に直結することはなく、凛と孤高を保っている。
丸 ノ内線だけが特殊なのかと思っていたが、調べてみると、本邦初の地下鉄、銀座線も標準軌、第三軌条方式であった。確かに、銀座線も完結型で他の路線には乗 り入れていない。渋谷駅を歩くたびに、なぜ銀座線が東横線に乗り入れないのか不思議でならなかったが、電車の規格が異なることを知って納得である。
こ れに対して、1067mmの狭軌を採用している地下鉄は、今では皆ほかの鉄道と相互乗り入れをしている。日比谷線が東急東横線、東武伊勢崎線と、東西線が JR中央線、JR総武線、東葉高速線と、千代田線がJR常磐線、小田急線と、有楽町線が西武線、東武東上線と、半蔵門線が東急田園都市線、東武日光線と、 南北線が東急目黒線、埼玉高速鉄道と、副都心線が先ほど述べたように東武東上線、東急東横線と、都営三田線が東急目黒線と。
都営新宿線だけは 1372mmという中途半端な軌間幅なのだが、京王線と相互乗り入れをしている。この1372mmと言う軌間は日本独自の軌道幅で都電の前身である馬車鉄 道の軌間であったために馬車軌と呼ばれる。以前都電と直通運転していた京王線、東急世田谷線が採用している。都営新宿線が馬車軌を採用したのは京王線への 乗り入れを念頭に置いて採用したものと思われる。
1435mmの標準軌の地下鉄は銀座線と丸ノ内線のほかに都営浅草線と都営大江戸線がある。この 2線も孤独かと言えばそうではない都営浅草線は泉岳寺駅で京浜急行と、押上駅で京成電鉄と相互乗り入れして、千葉県、東京、神奈川を結ぶ大動脈の役割を果 たしている。これを可能にしているのは京成電鉄と京浜急行が標準軌を採用していたからだ。
都営大江戸線は標準軌で、さらに駆動方式も従来の鉄道とは異なるリニアモーター方式を採用した。東京最後の地下鉄と称される最新の地下鉄なのに、現在の潮流である相互乗り入れによる近隣県との接続に真っ向から逆らっている。
広 い軌間は高速運転に適している。このため新幹線は標準軌となっている。反面、軌間が広いとカーブの走行には不適で脱線の危険性が高まる。軌道が狭いと高速 走行は不安定だが、急激なカーブに対応できる。ところが路線図を見ればわかる通り、大江戸線はカーブの連続であり、ところによって(汐留~築地)は直角に 曲がらなければならない。トンネル工事の経費削減から車体は従来の車両よりも小型。なぜ急カーブの多い路線でわざわざ小さな車体に幅の広い標準軌を採用し たのか不思議でならない。
そもそも、大江戸線の走行経路は銀座線のような直線でもなければ山手線のような環状でもない。都庁前から麻布十番、門前 仲町、本郷三丁目などを通ってぐるりと一周する環状部と都庁前から光が丘へ延びる直線ルートが組み合わさった奇妙な6の字型をしている。今後どのように発 展させるのか、させないのか、車両規格の特異性と相まって、まことに謎の多い路線である。
我が国の維新後発展期の政治権力闘争に端を発した鉄道規格の混乱と、皇居という不可触領域の存在がかくも複雑怪奇な現在の東京の地下鉄網を生み出した。

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