投稿日:2010年4月12日|カテゴリ:コラム

我が家には猫が3匹同居しています。私が愛猫家であることはホームページのトップページに我が家の猫の写真を載せていることからも分かっていただけると思います。ホームページ以外に最寄駅の案内板にも近頃、同じ写真を載せました。家族からは精神科の案内にはふさわしくないとの反対の声がありました。案の定、女子高校生の一群がこの案内板をみて、「あら、ここ獣医さんになっちゃったのね」と言っていたよと、甥から報告を受けてしまいました。
ホームページを飾っているのは我が家に最初に住むことになったムック(雌)です。生まれて間もなく我が家に住み始めてもう14年近くになろうとしています。この他に推定11歳の雄のルイと、もうすぐ4歳の雌のジャスミンがいます。
若いジャスミンは息子を気に入っているらしく、息子の部屋に入り浸り。息子が不在の時は、娘の部屋や私の部屋を訪れることもありますが、基本的には息子の部屋を居室としてお留守番しています。
ムックとルイは同世代(いつの間にか彼らの方が年上になっているのかもしれませんが)ということなのか私を取り巻く空間で生活しています。他の家族の部屋は2階で私の部屋だけ1階にあるのですが、私が仕事に出かけている間もムックとルイは私の部屋に籠っているようです。ところが、私が帰ってきてからの行動はムックとルイとでは全く異なります。きっと性格の違いでしょう。
ルイは私が二階に上がっても私の部屋からなかなか出てきません。私があまりいつまでも自室に帰ってこないと、痺れを切らして私を呼びに上がってきます。その代り、私が自分の部屋にいる時は話しかけてきたり、接触を求めてきます。私が寝る時などは、一緒に布団に入ってきてしばらく同衾してくれます。そして私が寝息を立てるのを確かめると、そっと布団から出て行って、自分の寝場所に移動するのです。
一方、ムックの方は私が行くところ行くところついてくるのですが、三歩下がって師の影を踏まずのごとく、常に1,2メートルの距離を保ちます。しかも「どこまでも貴方についていくわ」というべたべたとした態度ではなく、ふと気がつくといつもそばにいます。まるで忍者のようです。
ここでひとつ訂正をしておきます。今まで、ムックとルイはいつも私の部屋にいると言ってきましたが、これはもしかすると大いなる勘違いなのではないかと考えるようになりました。真実は、ムックとルイの居室に私が同居を許されているのかもしれません。
実は私は家で同居している3匹の猫のほかに、玄関脇のスペースに去勢した雌のサマンサと雄のマツの御世話をしています。さらに、最近ガレージの中に島田くんと名付けた性別不明の猫が住むようになりました。外猫と付き合うようになって、夜の猫の集会にも参加させてもらいました。猫という生き物をより身近に詳しく観察する環境でせいかつしているのです。

こうして猫との付き合いが増えれば増えるほど、猫の素晴らしさを再認識して、ますます猫好きになってしまいます。猫は実にデリケートできちんとした自我を持った生き物です。それぞれに個性も持っています。ご飯を貰っているから、トイレの後始末をしてくれるからといって媚びへつらうことなく、プライドの高い孤高の存在です。
一方、私が落ち込んでまいっている時などはどこからともなく現れて、そっと添い寝をして私の心を癒してくれます。猫に比べれば人間とはなんと鈍感で気の利かない生き物でしょう。
私は猫から、精神科医療に役立つ生き方を数多く学んでいるように思います。お互いの関係性における距離感などはその最たるものでしょう。親しき仲にも礼儀あり。猫はいくら仲よしと言っても、無遠慮にずかずかと近すぎる関係を要求はしてきません。人間関係がストレスのもとになって心の不健康に陥っている方は、ぜひとも猫の絶妙な距離感に学ぶべきです。
また、猫は決して虚勢を張りません。猫は好きなものにはすぐに飛びつきますが、嫌なものには絶対に近づきません。虚勢を張って無理をすることなどありません。快感を味あえばグルグルと喉を鳴らし、不快や恐怖を感じればさっさと逃げてしまいます。
怒りも素直にその場で表して、怒りを蓄積して恨み骨髄となって、何日も後でとんでもない意趣返しをするなんてことはありません。まかり間違ってもヒトという馬鹿な生き物のように殺し合いなどはいたしません。
本当は一目散に逃げてしまいたい状況なのに、逃げるのはいけないことと無理をして、精神的な葛藤をより複雑化させることが、種々の精神症状の形成に大きく関与しています。猫のようにもっとシンプルにストレスを処理するように心がける必要があるのではないでしょうか。

ルイが私に「そろそろ寝た方がいいよ」と忠告しているので、原稿書きはこの辺でおしまいにして就床することにします。それではおやすみなさい。

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