投稿日:2016年12月5日|カテゴリ:コラム

去る11月22日未明、福島県沖でマグニチュード7.4の地震が発生し、福島県、茨城県、栃木県で震度5弱を記録した。東日本大地震以来5年ぶりに可視的な津波を観測した。
東日本大地震による福島第1原発メルトダウン事故以来、少し大きな地震が起こると直ちに震源地付近の原子力発電所の安否が報道されるようになった。これまでは、すべて異常なしであった。
ところが、今回の地震では福島第2原発の使用済み核燃料を保管するプールの冷却水を循環させるポンプが停止した。幸い1時間半後には復旧してプールの水温上昇は0.2度にとどまった。
地震大国日本では震度1以上の有感地震は年間1000~2000回起きている。2000年には1万7676回も起きている。今回の福島県沖地震程度の震度5弱以上の地震だけでも今年に入ってすでに32回も起きている。
一方、放射能の半減期はセシウム137が30年、プルトニウム239だと2万4千年、ウラン238に至っては45億年という気の遠くなるほど長時間を要する。これほど長期間の間に我が国にある多数の原子力発電所が震度5弱の地震にいったい何万回遭遇するのだろう。
震度5弱程度の地震だけでは済まされまい。東日本大震災程度、さらにそれを上回る巨大地震の発生する可能性も極めて高い。そして、その際に毎回安全に乗り切れるとは到底思えない。
そして、いったん原発事故が起こってしまった時の甚大な被害と、その被害が長期に渡ることは第1原発事故、チェルノブイリ原発事故から言わずもがなであろう。
おりしもチェルノブイリに関してはつい最近、原子力発電所をコンクリートで固めた巨大な石棺をさらに被う、とてつもなく大きな鋼鉄製のドームが完成したとのニュースが入った。
この鋼鉄製ドームによる密閉で今後100年は安全と言われている。しかし、100年たった時にはまたこの構造物を収納するさらに巨大な構造物を建設するのだろうか。まるで巨大な核のマトリョーシカだ。

わが国の福島第1原発事故に関しては、まだマトリョーシカ作戦にさえも至っていない。未だに増え続ける汚染水の処分さえままならない有様。汚染水対策の切り札と言われていた原子炉周辺の時の凍土化も、実際に運用してみたら、汚染水の減少には全く役に立たないことが分かった。したがって汚染水は今でも時々刻々と増え続け、いつ漏れ出すか分からないタンクが敷地内に所狭しと建ち並んでいる。
福島第1原発だけでも全く解決の目途が立たず、その後始末にかかる費用が膨れ上がり、その費用を当事者である東京電力や東京電力の株主、銀行にまず持たせるのではなく、遍く一般国民に負担させようとの悪企みが着々と進行している。
その一方で、避難指示地域の住民の帰郷はなかなか進まない。巨額の費用をかけて行った除染作業によって半減期が短いセシウム134はかなり減った。昨年避難指示が解除された楢葉町の多くの地域の放射線量は千葉県柏市と同等のレベルにまで下がった。
それでも避難指示が解除された楢葉町の帰還率は1年以上過ぎた今でも1割弱に止まっている。その理由は、5年の歳月が避難者から奪ったものが土地という目に見える物だけではないからだ。
この間に地域の繋がり、村を取り囲む豊かな里山、福島というブランドなどすべてを奪われてしまった。セシウム濃度が低下したから前のように生活しろと言われても不可能なのだ。以前のように米を作っても楢葉町製というだけでまともな値段で買ってはもらえない。放射能が下がったからといって元の生活に戻れるはずがない。福島第1周辺の人々にとってあの事故はまだ終わっていないのだ。
実は事故が終わっていないのは福島第1周辺だけのことではない。東京新聞と関東学院大学の共同調査によると、東京湾に注ぐ、鶴見川、多摩川、隅田川、荒川、旧江戸川、花見川河口付近の海底の泥には未だに高濃度の放射性物質が蓄積され続けていることが分かった。つまり5年経った今でも川が上流から放射性物質を補給し続け散ることが明らかになったのだ。
福島から遠く離れて、あの当時の生々しい記憶が薄れてきている首都圏に住む人々もまた、まだあの事故の途中経過におかれていることを再認識すべきだろう。
たった1か所の原発の、たった1回の事故だけでもこの騒ぎだ。それなのに安倍政権は未だに全国各地の原発を再稼働させて、事故の危険と捨てる当てのない核のウンコ、使用済み核燃料をさらに増やそうとしている。
そもそも、何か事を始める際には最後の後始末まで算段してから始めるべきである。ところが原子力発電に関しては、高濃度放射線汚染物質である使用済み核燃料の最終処分方法は全く目途がつかないままに出発してしまった。挙句、未だに処分場所さえ決まっていない。日本の原子力行政が「トイレの無いマンション」と呼ばれる所以だ。
原発を動かせば使用済み核燃料が残る。溶かしてプルトニウムを取り出し(再処理)、MOX燃料に加工してもう一度使う方法と、そのままの形で最終処分する方法があるが、いずれにせよ核のウンコは残る。
その処分は各国とも悩みの種だが、ヨーロッパではフィンランドが処分場(オンカロ
)の建設を始め、フランスでも候補地を決めて2年後には建設にとりかかる。
わが国ではどうかというと、年内に学術的見地から有望なエリアを示すと言っているが、高レベルの放射性廃棄物は少なくとも10万年は人類から隔離する必要がある。果たして日本に10万年耐えられる安定した地層が存在するのだろうか。

フィンランドの最終処分場、オンカロは19億年前の地層。フランスの候補地でも1億
6500年前の地層。フランスのビュール地下研究所は420メートルの石灰岩層の下に厚さ150メートルの粘土層がある。岩石化した粘土は水を通さない。この粘土層に閉じ込めようというのだ。
長期保管に水は大敵だ。水があると放射性物質が漏れた時に水に運ばれて外部に拡散する。さらに、水と酸素があると保管容器や外側の遮蔽壁を腐食してしまう。
フィンランド、フランスの研究所とも最終処分場の必要条件として次の3点を挙げる。
①火山・地震がないこと
②水がないこと
③長期に安定した地盤であること
わが国は世界一の火山・地震大国だ。日本ほど水の豊かな国はない。日本中深く掘り進めば温泉の出ない場所はないと言われている。さらに、現在確認できる我が国で最古の地層でもせいぜい7千万年ほど前でしかない。きわめて若い地層の上に成り立っている脆弱な国土なのだ。
果たして日本に上記3条件を満たす場所があるだろうか。私にはあるとは思えない。それでもまだ原子炉を動かし続けるだけではなく、さらに新しい原子炉も建設しようとする政府。このままでは我が国は行き所の無い使用済み核燃料でウンコだらけになってしまう。何が「美しい国日本」だ。
目先の利益を捨て、数十年、数百年先の我が国の将来を考えれば、今すぐに原子力発電をやめるという結論に帰着するはずだ。

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