投稿日:2016年3月7日|カテゴリ:コラム

「思考過程の障害(思路障害)」は常に本コラムの閲覧項目の上位にある。一般の方にとって、幻覚や妄想などに匹敵するくらい興味深い精神症状のようだ。
主として統合失調症に見られる思考過程の障害は2008年のコラムで述べたが、ここで示さなかった重要な思路障害があったので、今回説明する。
それは思考散乱(incoherent thinking)。
「思考散乱」は思考過程に連絡と統一が欠けて、観念と観念の結びつきに論理的関連が無くなってしまう状態。思考全体が全く纏まらなくなるので、話を聞いていても、いったい何を言おうとしているのか、何を話しているのかさっぱり分からない。
ここまで聞いた方の中には、「なんだ、それじゃ『支離滅裂』と同じじゃないか」と思われる方がいるだろう。そう感じられる方は相当に精神医学を理解されている方だ。
その通り、観念の結びつきの崩壊の様式は統合失調症で見られる支離滅裂とほぼ同じだ。両者の違いは「支離滅裂」が意識清明な状態での症状であるのに対して「思考散乱」は意識障害下の症状であることだ。
意識障害とはいっても、一般に想像されるような、呼んでも揺すっても反応しない昏睡状態のように深い意識障害では思考機能そのものが機能しないので思考過程の障害は見られない。「思考散乱」はごく軽度の意識障害である意識混濁の際に見られる思路障害だ。
インフルエンザ脳症やSLEなどのように、身体疾患に伴う精神障害である症候性精神障害でよく見られる。また、思考散乱はしばしば不安、緊張、夢幻状態、幻覚、精神運動興奮などが伴って現れる。
しかし、意識混濁の存在はよほど熟練した専門医でないと見極められない。最終的には、症状が消失した後に当時の状況を覚えているかどうかで鑑別せざるを得ないことが多い。したがって支離滅裂として扱われて、統合失調症と誤診されてしまうことも少なくない。
支離滅裂な言動を目にした時には常に「思考散乱」の可能性を頭に置いておくべきであろう。

【当クリニック運営サイト内の掲載記事に関する著作権等、あらゆる法的権利を有効に保有しております。】