投稿日:2014年6月23日|カテゴリ:コラム

前回のコラムで混合診療解禁によって、高額な先進医療が自費診療として扱われ、その自費診療の枠が徐々に拡大して、我が国の国民皆保険制度を破壊すると述べた。それによって、「国民の選択の幅を広げる」などという巧言で、国は負担になっていた社会保障費を体よく削減することができる。同時にアメリカの保険会社からの長きにわたる要求にやっと応えることになる。
安倍の言う「国民の幸福のため」とは実はアメリカのハゲタカ資本と財務省の幸福のためなのである。
混合診療解禁による健康保険制度破壊政策は高額医療費側からの解体だが、政府の陰謀はそれだけにとどまらない。
ここ十年ほど、政府は価格の安い後発医薬品(ジェネリック)を使うように指導してきたが。今年の保険診療費改正では、役人による医療内容の強制と言えるほど理不尽なものになった。ジェネリック使用率の違いによって、調剤薬局ごとに基本調剤料(調剤に関わる対価)に大きな差をつけた。65%の薬品をジェネリックに置き換えた薬局は220円いただける基本調剤料が、ジェネリックの置き換え率が低い店では50円しかもらえない。
これほどの差があると、薬局にとっては死活問題だ。不本意な場合でも先発品をジェネリックに切り替えざるを得ない。
後発品メーカーがテレビコマーシャルで謳っている通り、本当に「効果が同じでお値段半分」ならば何の問題もない。しかし、実際には先発品とジェネリックでは薬の効果や副作用に差がある(2007年のコラム「ジェネリック(ゾロ)の嘘」参照)。
私のところに来られる患者さんの中には、薬局に勧められてジェネリックを使用してみたが、やはり違いがあると感じて先発品に戻してもらっている方が少なくない。

国が遮二無二に推し進めている医療費削減策はジェネリック誘導だけではない。1件当たりの費用は小さいが、件数の多い医療行為も保険医療から外すそうとしている。その政策に沿って、これまでは医師の処方が必要であった医薬品を続々と一般市販薬のカテゴリーに変更しているのだ。
ビタミン剤程度ならば弊害は少ないが、副作用や他の薬剤との相互作用などの問題から医師の処方でしか使えなかった薬を、患者さん本人が薬局で勝手に購入することができるようにしているのだ。
安倍はこう言う。「国民の自己選択の幅を広げる」と。これに対して一般の人も、わざわざ病院に行かなくても薬が手に入ると喜んでいる。しかし、実は危険極まりない。不測の事態が起きたとしてもそれは患者さんの自己選択、自己責任として扱われる。
なによりも、健康保険料を払っているにも関わらず、その枠の外で医薬品を購入させられる。実は、国民の支払いは大きくなるのだ。市販薬の拡大は保険診療の枠を縮小して国の支払いを削減するための策謀であることに是非気付いていただきたい。

さらにさらに、国は基礎、臨床実験をすることなく、つまりきちんとしたエビデンスもない健康食品(サプリメント)に機能性表示(=効能書き)を謳うことを許可した。
これまでは医薬品ほど厳格ではなかったにしろ、ある一定以上の基準を超えた商品にのみ、特定保健用食品(トクホ)の称号を与えて、機能性表示を表示することを許してきた。「お腹の調子を整える食品」として、オリゴ糖類を含む食品や乳酸菌類を含む食品など、「食後の血中中性脂肪が上昇しにくいまたは身体に脂肪がつきにくい食品」として、黒烏龍茶やヘルシア緑茶などなど。
これでも、かなり眉唾もだが、安倍坊ちゃんは業界からの圧力に屈して国からの認可が得られなくても、業者自身が言い張れば効能を表示してよいことになる。この国民の生命、健康に関する国の責任放棄を彼はこう言い逃れる。「国民が自らの健康を守る。そのためには的確な情報が開示されなければならない。当然のことです。しかし、国から「トクホ」の認定を受けるにはお金も時間もかかり過ぎて、中小事業者には事実上門戸が閉ざされている。経済活性化のためにはこの縛りを撤廃する必要がある。これまでのトクホと区別するには国の認定を受けていないことを明記すればよい。」と。
放任状態にしておいて、的確な情報を担保できるはずがない。詐欺商品が続出すること間違いなしである。衣料品の詐欺商品ならば、代金をどぶに捨てたと考えればすむが、体の中に取り込む化学物質となると被害は代金だけでは済まない。取り返しのつかない健康被害、場合によっては命までも失ってしまう。その場合にも安倍は「自己選択、自己責任」と抗弁するつもりなのだろう。
自分たちの管理責任放棄を棚に上げて、フェリー海難事故に対して船長やオーナーに全責任をとらせようとしている隣国の大統領となんら変わらない。
主権者たる国民の命と引き換えに国が経済成長したとして何の意味があるというのだ。「国」とは何なのかという原点に是非立ち戻ってもらいたい。

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