投稿日:2014年4月21日|カテゴリ:コラム

前回のコラムでは客観的にはちゃんと眠れているのに、本人は強く不眠を感じる睡眠障害についてお話しした。今回はこれと逆に本人は気付かないが客観的には健康な睡眠がとれていない状態をご紹介する。
最 近啓蒙が進んで、この診断と治療を看板に掲げる医療機関が増えた、「睡眠時無呼吸症」もこの一つといえるだろう。この病気は、睡眠の深度が深くなろうとす ると、呼吸筋の活動減弱にともなう気道の狭小化によって呼吸が止まる。その結果体内の炭酸ガス濃度が上昇して睡眠深度が浅くなる。浅い睡眠になると気道が 開くので炭酸ガスが排出されて睡眠は維持される。しかし、再び睡眠が深くなろうとするとまた、呼吸が止まるために睡眠が浅くなる。
この現象を繰り 返すために、睡眠時間が確保されても、深い睡眠を得られないので、一晩中浅いうとうと睡眠を繰り返すしかなく、必要な睡眠を十分にとることができない。そ の結果、日中に絶えず眠気に襲われる。職場で居眠りばかりしていることで異常に気付かれることが多い。睡眠時のポリグラフによって呼吸の停止と深い睡眠相 の欠落から診断がつく。睡眠の質の異常なのだ。

睡眠時無呼吸よりも多くの人が患っているのに、本人も周囲の人もそれに気づかないために、急速に増加している睡眠障害がある。それは睡眠相の異常だ。つまり、眠る時間帯がずれていることによっておこる障害。
動物を活動時間帯から見ると昼行性動物と夜行性動物に分類することができる。狐や蝙蝠などが昼間眠って夜活発に捕食活動をする夜行性動物なのに対して、可視光線を主な情報源として生きている私たちヒトは昼行性動物だ。
ホモサピエンスは発生以来十数万年、日の出とともに活動を開始して、日が沈むと外敵から身を潜めて眠ってきた。ところがここ数十年で私たちは、莫大なエネルギーを消費して夜でも動き回れるように環境を改造してしまった。
コンビニの24時間営業は当たり前、その他の飲食店も深夜遅くまで営業。街そのものが不夜城と化した。その結果、都市で生活する者はこぞって遅寝遅起きの生活になってしまったのだ。12時帰宅で2時就床という生活が当たり前と思っている人が少なくない。
さぞや睡眠時間が少ないのではないかと心配すると、平気な顔で「フレックスタイムで11時に出社すればいいから睡眠はたっぷりとれています」と答える。このように本人には異常の自覚はないのだが、実はポリグラフで見ると立派な睡眠障害に陥っているのだ。
睡眠は単調な活動休止状態ではない。そしてNREM睡眠(普通の睡眠)とREM睡眠(夢を見る睡眠)を交互に繰り返している。そしてこの二つの睡眠の出現パターンは時刻に依存している。深夜はNREM睡眠が多く、深くよく眠る時間帯である。「草木も眠る丑三つ時」* とはよく言ったものである。
こ れに対して、日の出が近づく明け方になるとREM睡眠が多くなる。翌朝、夢を見た記憶が残っているのはREM睡眠が起きる間際に多いからだ。このパターン は何時に寝ても変わらない。午前様の生活をしている人は、たとえ睡眠時間は7時間たっぷりとったとしても、深いNREM睡眠を得られず、やたらとREM睡 眠の多い眠りしかできない。この睡眠相のずれによる障害も睡眠時無呼吸症と同様、量的には睡眠不足ではなくても、質的に睡眠障害されている。
そして、この二つの睡眠のバランスが予想以上に私たちの健康に影響することが分かってきた。バランスの悪い睡眠をとっている人は、成長ホルモンの分泌異常などを介して、循環器、呼吸器、糖代謝系、免疫機能系など多くの生理機能に障害を与えるのだ。
その結果、遅寝遅起き族は早寝早起き人間に比べて、心筋梗塞や脳梗塞の発現率が高く、免疫機能が低下して感染症にもかかりやすいことが分かっている。昔から「早寝早起きは三文の徳」といわれるが、眠る時間帯は命に関わる重要事項なのだから三文どころの差ではない。
いくら核分裂反応を操れたとしても、ヒトは所詮、地球という大きな生命集合体のごく一部分であることを思い知るべきだ。自己中心的に環境を改造するのではなく、地球の動きに合わせた慎ましい生活に戻るべきだろう。そうしなければ自己破滅へと向かう。
猪瀬前東京都知事は、目先の経済発展のために公共交通機関の24時間営業を目指し、この不健康な都市型生活にさらなる拍車をかけようとした。目先の利益しか見えないお馬鹿だから、目先の現金で自滅したのだろう。
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*丑三つ時:古く中国から伝わった時刻の表示法による時間帯。深夜1時から3時ころまでの間を指す。

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