お馬鹿な奴らが人の怖がる姿を盗み見して楽しもうと企んだ。ところがその悪企みを見透かしたずる賢い男がいた。何が怖いと聞かれて、本当は大好物であるのにわざと「饅頭が怖い」と答える。
お馬鹿さんたちはしてやったりと小躍りして、饅頭を買い集めて山と積み上げた。それから男をその饅頭の山のある部屋に閉じ込める。男が恐怖にのたうち回る姿を見ようと部屋を覗くと、男は「怖い」、「おお怖い」、「こんな怖いものは食べてしまえ」、「旨すぎて怖い」などと言いながら饅頭を片っ端から食べてしまう。
一杯喰わされたことに気付いた連中が怒って男に「本当にお前の怖いものは何だ」と尋ねると、返ってきた答えは「このへんで濃いお茶が一杯怖い」。
落語、「饅頭怖い」の一席です。
先日、民主党の新代表に鳩山由紀夫氏が就任しました。党首の椅子を争った岡田氏は幹事長に、政治資金問題で味噌をつけた小沢一郎前代表は選挙担当の代表代行に残留して、なんとか挙党一致体制をつくりあげました。
代表選前、自民党や公明党の関係者は口を揃えて「岡田が党首になったら脅威だ」とあざとく怯えて見せました。一方ではマスコミを通じて鳩山は小沢の傀儡だというネガティブキャンペーンを展開して、岡田党首が実現するように世論を誘導しました。
国民はいつも通り、まんまとこの戦術に嵌って「岡田」の大合唱。ここで今までの民主党であれば、浮足立って岡田饅頭を買い込んだところですが、今回はお馬鹿で無責任な世論とやらに右顧左眄しないで慎重に実を取ったように思います。
さらに「盗人の番には盗人を使え」とばかりに小沢を執行部に、しかも自民党が最も恐れる選挙の総責任者に留めました。今回の行動は民主党がかなり成熟してきたことの現れではないでしょうか。
政治の世界は嘘吐き村。本当に怖いものを怖いなんて言うわけがありません。私はこの次、自民党がいったい何を怖がるのか楽しみでしょうがありません。
映画「GOEMON」が封切られて石川五右衛門が注目されています。石川五右衛門とは安土桃山時代に都を中心に出没した伝説の大泥棒です。歌舞伎や浄瑠璃の演目に取り上げられたために、次第に義賊としてのイメージが強調されていき庶民からヒーローとして人気を獲得しました。
今に伝わる石川五右衛門の姿は大きく脚色されて、実態とはかなりかけ離れていると思いますが、彼が狙った相手が当時の権力者ばかりであったことは事実のようです。また、捕えられた一族郎党が生きたまま釜茹での刑という残酷非道な方法で処刑されたことも相まって、日頃から権力者の横暴に不満を抱く庶民の心を掴んだものと思われます。
江戸時代の侠客、国定忠治は博打を生業とする博徒で、何件もの人殺しの他、違法行為の限りをつくした挙句、捕えられて磔で処刑されます。五右衛門と同じく無法者なのですが、忠治も弱い者を襲ったりはせず、天保の大飢饉で飢餓に苦しんでいた上州の民を救ったとして、講談、新国劇や映画で庶民のヒーローとして取り上げられ、今でも人気が衰えません。
悪事を働く者なのに庶民から軽蔑されたり嫌われることがなく、それどころ国民的なヒーローとして扱われる五右衛門と忠治に共通するものは何なのでしょう。それは第一に弱い者いじめをしない反権力であること。第二にアナーキーなアウトローとして首尾一貫していること。三番目は颯爽と潔いこと。この3つではないでしょうか。
先日、さいたま地方検察庁の現職検察官が朝の通勤通学電車の車内で、痴漢容疑により逮捕されたという報道がありました。少し前に防衛医大の教授の痴漢容疑裁判で、教授が冤罪被害者であったことが確定する最高裁の決定があったばかりなので、またもや冤罪事件発生かと思いきや、本人があっさりと罪を認めたとあります。さらに地検検事という職業柄、この男はこれまでに痴漢容疑者の取り調べを何件も担当したことがあるというのです。朝の通勤電車内の行為ですから素面の行状と思われます。ブラックユーモアが効いた筒井康隆の小説の世界ならば笑って済ませられますが、それが現実のものとなると腹立たしいやら悲しいやら、複雑な心境にさせられました。
そういえば現職の裁判官が部下の女性に対してストーカー行為を繰り返して起訴された事件も記憶に新しい出来事でした。
いくら「下半身に人格なし」とは言うものの、法曹によるこの手の犯罪を耳にすると、やはり開いた口が塞がりません。呆れる最大の理由は法の番人たる立場の人間が止むを得ない事情なくして法を犯す行為をしたということです。
しかし、呆れる理由はこの「盗人に蔵の番」ということだけではありません。犯罪自身があまりにもいじましくて情けないということもあります。一言でいえばみっともなくてカッコ悪すぎるのです。
下半身と言えば、鴻池祥肇前副官房長官が、首相官邸で新型インフルエンザ緊急対策会議をしている最中に、愛人の人妻と熱海に二泊の不倫旅行していたことが発覚して、官房副長官辞任に追い込まれました。
相手も家庭争議覚悟で関西から熱海まで飛んできた、合意の上の大人の愛であり、犯罪ではありません。嫌がる女子高生の尻を触ったり、立場上弱い部下をメールで追いかけまわす行為などと比べては失礼な話です。別人格である下半身の堂々たる活躍ぶりを示す武勇伝と言えるかもしれません。スクープされた写真には、熱海の街を肩寄せ合って歩いたり、豪快なティーショット場面など悪びれない二人の姿が写っています。
道徳規範からの善悪をさておけば、草食系とか何とか言われて、男子の頼りなさばかりが目立つ昨今、これはこれで日本男児の面目躍如かと思いました。なにせ彼は自称、山中鹿之助の子孫であり、大伯父に関西の大侠客と言われた鴻池忠治郎を持つ男です。格好良い、男っぷりの勇み足かと思いきや、この期待は見事に裏切られました。
なんと不倫旅行の東京―熱海間の新幹線を、国会議員の無料パスで往復していたのです。そういえばこの男、東京での愛人との密会場所に議員宿舎を使っていた前科もありました。私たちの税金に支えられた下半身だったのです。侠の人どころか、何のことはない、吝嗇で無粋な腑抜け野郎だったのです。
痴漢検事、ストーカー判事、好色議員たちの犯した悪事は、それ自体は軽微なものかもしれません。犯罪とは言えないものもあります。しかし、彼等は普段は絶対的な権力をもって国民に偉そうなことを言っている連中です。それが弱い女学生相手に卑劣な行為をしたり、権力を笠にきて交際を迫ったり、血税を使って肉欲にふけったのです。結果として、弱い者いじめであり、弱い者の生き血を食い物にしているに他ならないのです。
また、偽善の仮面で人を欺き、陰でこそこそと悪いことをしています。二重人格、二枚舌です。
ストーカー判事は起訴されてから罷免までの間の給与や賞与の返還の要求に応じる気配がありません。鴻池さんも副官房長官こそは辞任しましたが、議員辞職するわけでもなく、病気を装って病院に雲隠れしてしまいました。潔さが全く見受けられず見苦しい対応です。
国民的ヒーローとなった大悪党、五右衛門や忠治とまったく正反対です。悪事の中に少しもかっこよさが見られません。
人間は法や倫理道徳に照らして、一生清く正しく生きることなんかできません。実際に今まで私は、悪いことを1回もしたことない人なんて見たことがありません。
これからだって、私たちは何らかの事情で悪党の仲間入りをしなければならないかもしれません。もしそうなった時には、悪事を働くとしてもせめて颯爽と粋で品格のある悪党でありたいものです。
先週のコラムでメキシコ発の豚インフルエンザについてお話しましたが、その後、正式に「新型インフルエンザ」と昇格したこのウイルスによる感染は急速に広まって、5月2日午前0時段階で14カ国3,181人、疑い症例まで含めると3,500人を超えました。これまではメキシコ1国に止まっていた死者も、ついにアメリカでも出てしまいました。
この報告とアメリカ国内で2次感染者が増加したことを受けて、WHOはパンデミック段階をフェーズ4からフェーズ5に引き上げました。つまりこの新型インフルエンザによる世界的大流行が目前であると認めたのです。
今やメディアは新型インフルエンザに関する報道一色となり、時々刻々と最新の情報が入手できます。海外の感染状況、国内の防疫体制、国民各人の対処法などについて第一線の専門家が詳細に説明していて、今更専門家でもない私が出る幕はありません。
しかし、医療界にとって何十年かに一度の出来事ですから、この時期に新型インフルエンザの話題には触れず、麻生さんの悪口を書いているようでは、医療人のコラムとしてはあまりにKYとの誹りを受けそうです。そこで、今回はインフルエンザウイルスとはどのようなものなのかという基礎的なお話をすることにしました。
インフルエンザウイルスについて説明するにはそもそもウイルスとは何ぞやという点について解説しなければなりません。
ウイルスとは驚くほど単純な構造をした生物です。いや、生物とは認めずに有機物質からできた単なる微小な構造体じゃないかという考えが主流になりつつあるくらいです。まがりなりにも生き物の端くれに名を連ねているのは、自分と同じ遺伝情報を持った子孫を増やす、自己増殖能力を持っているからです。
その基本構造は、自分の遺伝情報である核酸を外界から守るタンパク質でできている膜で被っている。ただそれだけです。細胞小器官はおろか細胞質そのものが存在しませんから、細胞の体をなしていません。つまり、自己の生命維持や自己増殖に必要なエネルギーを産生するメカニズムを持ち合わせていないのです。唯一己を生物であると主張する証の核酸でさえ、動物や植物や細菌のようにDNAとRNAの2種類は揃っていません。DNAかRNAかのどちらか一つしか持っていないのです。
自己増殖の仕方も他の生物とは大きく異なっています。細菌も含めて他の生物は皆、核酸の分裂によって増殖します。つまり1回の分裂で2倍に増えます。倍、倍と繰り返すことによって増殖する対数増殖です。ところがウイルスは分裂ではなく爆発的な一段階増殖なのです。あっという間に膨大な数に増えて細胞から飛び出します。
また、増殖の直前に宿主の細胞内に分解されます。ですから一時的にウイルスの姿が見えなくなる暗黒期という時期があります。細胞に入ると姿を消して、その後膨大な数の姿を現した時にはその細胞を破壊して飛び出すのです。不気味な奴です。
そして、こういった活動に必要なエネルギーや物質はすべて自分が寄生した宿主(動物、植物、細菌などの細胞)のものを借用します。他の生物は皆、生命活動を維持し、自己増殖するためには体外からエネルギーを取り込んで、それを使って生産活動をしなければなりません。そういった地道な作業はすべて寄生した細胞任せです。徹底して無駄をなくした寄生体なのです。
言い換えれば、単独では生命維持も増殖もできない「ひも」みたいな情けない奴なのですが、お世話になったという感謝の念はさらさら持ち合わせていません。まあ、核酸とタンパク質だけでできた粒子に感謝しろと言っても無理な話というものです。
こうして寄生先の細胞を利用するだけ利用してたっぷりと子孫を増やすと、お世話になった細胞を破壊して外に飛び出し、次の宿主となる細胞にとりつきます。こうやって爆発的に自分を増やすのです。
このままだと私たちの細胞は全滅してしまいそうですが、私たち高等生物もちゃんと対策をもっています。ウイルスの侵入と同時に免疫機構が活動を開始していろいろな種類の白血球やマクロファージといった細胞がウイルスを食べて殺します。また、一度侵入されたウイルスに対してはその遺伝情報を記録しておいて、次に侵入される時には細胞に入り込めないような防御態勢を構築します。
今回のインフルエンザが大騒ぎになっているのは、今までに私たちが一度も見たことのない顔をしたウイルスだからです。このために従来の警備体制を潜り抜けて容易に細胞内に侵入されてしまいます。もちろん被害届が出たならば直ちに白血球その他が出動しますが、初動捜査が遅れる分、被害が出てしまうのです。
ウイルスが何らかの生命体に寄生しなければ生きていけない寄生体だと述べましたが、寄生していない時には「生きている」も「死んでいる」もない、単なる物質です。物質としてのウイルスは宇宙空間に多数漂っていると思います。そのウイルスが地球に飛来して宿主たる生命体と出会った時、ウイルスは再び生物として振る舞うのです。
実際に、ウイルスは結晶化することができます。そして長期間経った後、結晶を細胞に戻すと自己増殖を始めることが確かめられています。
現在地球上に存在するウイルスは皆宇宙から降ってきた可能性が高いのです。しかし、こういった連中が全て敵対的だという訳ではありません。今や私たちの細胞が生きていくために必須の細胞内小器官であるミトコンドリアは、元々は外から侵入したウイルスだと考えられていいます。というよりは植物の細胞が葉緑素を取り込んだことによって初めて光合成という代謝ができるようになったのと同様、私たちはミトコンドリアというウイルスを取り込んだからこそ酸素呼吸を出来るようになったのです。ミトコンドリアは好気生物の細胞と20億年以上も共存共栄してきました。今や私たち自身になってしまっています。
インフルエンザウイルスはDNAだけを持ったミトコンドリアと違ってRNAだけを持ったウイルスで、今のところ人類に対してミトコンドリアほど友好的態度を示していません。しかしエボラ出血熱ウイルスほどの凶暴性も見せません。
このウイルスのややこしいところは、今回の騒動のように遺伝情報が変異しやすいことです。性質や顔形をくるくると変えてしまうのです。このために、これまでは豚にしか感染しなかったウイルスが急に人間に感染するようになったり、感染してもおとなしくしていたはずだったのが、急に暴れだしたりするのです。また、美容整形マニアのように顔も変えますので、私たちの身体の警察である免疫機構も後手に回ってしまうのです。
これからも変異を続けますから、鳥インフルエンザ並みに凶暴化する可能性もありますが、逆に早晩、借りてきた猫のようにおとなしくなる可能性もあります。今しばらくは敵のお手並み拝見と行くしかなさそうです。
さて、今回の騒ぎに対する私の対応はと言うと、運よくゴールデンウィークの臨時休診をとっていますので、クリニックでは当面大騒ぎにはなりませんでした。また、敢えてウイルスを挑発するような海外旅行はしないので、食料とマスクを備蓄して我が家で状況分析をします。ただ、日本国内での感染が急拡大し、致死率が高まるような事態になると、東京都、豊島区からの要請により医師会単位で現場に出動しなくてはならなくなるかもしれません。
そのような事態になった場合には、言うまでもなく、自分のクリニックではインフルエンザを疑う患者さんは一切診療できません。院内に入ることさえお断りということになります。
これは私が冷血漢だからではありません。万が一その方が新型インフルエンザであった場合、私のクリニックの待合室が感染拡大の場になってしまうからです。ですから、今後国内での感染が広がった際には、風邪の症状の方はくれぐれも私たち医療機関を受診しないでください。各地区の発熱センターへ電話でお問い合わせください。よろしくお願いします。
ちなみに東京都発熱相談センターは03-5320-4509、豊島区発熱相談センターは03-3987-4179です。
いたずらに慌てず、しかし、やるべき事前対策は抜かりなく行い、沈着冷静に対応してください。生き物とも呼べない、ひも野郎みたいな情けない奴をのさばらせないよう、皆で協力して頑張りましょう。