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クリニック西川

2007年4月

睡眠障害(その10)睡眠薬総論

薬に対するイメージは人それぞれです。薬大好き人間、口コミやテレビで「○○○という症状には×××という薬が効く」と耳にするやいなや、病院や薬局に駆け込んで飲みはじめる。やがて毎日飲まなければならない薬が山のようになって、食事よりも多くなってしまう人がいます。

一方、薬は怖いもの、いわば毒であると信じている人もいます。そういう方が時々私のクリニックにもいらっしゃいます。薬を飲めば速く治りそうな症状をいろいろと訴えられているにもかかわらず、いざ「お薬をだしましょう」と言うと、「なんとか薬ではない方法でよくしてください」とおっしゃる。

そういう方には「私は魔法使いではありません」とお答えすることにしています。ちなみに、そういう方に限ってサプリメントや△△△茸などといった得体のしれない化学物質を盲目的に愛用されていることが少なくありません。

私は薬とは人間が必要上、考えて作りだした便利なアイテムのひとつだと考えています。家屋や衣服なんかと同じです。

動物は春と秋に毛が生え変わって、夏は暑さに適した夏毛、冬は寒さに耐えられる冬毛になります。そして、暑いときはなるべく日陰で風通しのよいところを探しだして、体力を消耗しないようにじっとしています。冬は木枯らしをさけつつ、わずかな太陽の恵みを求めて日向ぼっこを楽しみます。

ところが人間はそうはいきません。冬になっても体毛は生えてきませんし、地球温暖化だろうがなんだろうが夏も冬も会社に行ってタイムカードを押さなければ生きていけません。ぬくぬく日向ぼっこなんかしていたらすぐにくびになってしまいます。

そこでやむなく考え出したのが衣服です。暑い時期には公序良俗違反にならない程度の衣類をまとい、寒い冬には各関節の動きが障害されない程度に重ね着をして対処しているのです。雨に対処するための傘なんかもすばらしいアイテムですね。薬も衣服や傘と同じように人間が快適に生きていくために考えだしたとても便利なアイテムだと思います。

薬は先人たちの苦心の賜物ですが、しょせん人間が考えだしたアイテムに過ぎませんから万能ではありません。どんな病気も最終的にはその人の自然治癒力がなければ治りません。薬はその自然治癒の手助けをして、病気の苦しさを軽くして、苦しい期間を短くしてくれるだけと言ってもいいかもしれません。

したがって、病気にかかったからといって、なにがなんでも薬を飲めとは申しません。ただ、医学を学んだ者として適当と考えられるお薬をお奨めするだけです。真冬でもタンクトップで頑張る。雨が降ったって傘なんかささない。

そういう信念の方がいらっしゃったっていいわけですから。

さて睡眠薬の話にはいります。不眠という症状に対応した薬、つまり眠るための薬を睡眠薬と呼びます。太古の時代から19世紀までの間、人類が眠るための薬として使っていたのは阿片(麻薬)とアルコールであったようです。20世紀にはいってまもなく、バルビツレートという薬が開発されて、睡眠薬の主流となりました。

このグループの薬は脳全体を抑制します。したがって、眠らせるというよりは意識を失わせるといったほうが適当かもしれません。事実このグループの薬は静脈注射をすれば麻酔薬として使われています。大量に飲んでしまいますと、呼吸中枢をも麻痺させて、呼吸を止めてしまうために死に至ってしまいます。このために睡眠薬は怖い薬というイメージができあがってしまいました。

1960年代にベンゾディアゼピンというグループの薬がつぎつぎと開発されました。このグループの薬の中で眠りを誘う作用が強いものがバルビツレートに替わって、あっという間に睡眠薬の主流におどりでました。主役交替の一番の理由は安全性が高いということです。

バルビツレートのように脳全体を抑制するのではなく、脳の中の不安や緊張を軽くして、眠りやすくする部分に集中して効果を発揮するために、相当大量に飲んでしまっても呼吸が止まって死んでしまうことがありません。

また、通常に飲む量であれば、意識を失わせるのではなく、眠りやすくする、子守唄のような作用をする薬です。したがって、従来のバルビツレートと区別するために睡眠薬とは呼ばず、「睡眠導入薬」と呼ぶほうがよいと考えます。

このほかに、日本では医薬品として承認されていませんが、欧米ではメラトニンという物質が睡眠薬として用いられています。メラトニンは脳の化学伝達物質のひとつで、他の薬のように本来我々の体に存在しない化学物質と違って、生理的に私たちの脳の中に存在する物質です。このため睡眠に限らず、種々の障害に対する理想の薬ではないかと考えられて、一大ブームを巻き起こしました。

当時はインターネットで個人入手する方、アメリカ旅行のお土産にメラトニンを大量に買って帰る方がいましたが、一時のブームは過ぎ去ってしまったようです。しかし、単純に睡眠薬というよりは脳の体内時計の調節に有効だという研究もありますので、今後とも地道な研究が待たれる物質です。

というわけで、現在、我が国の不眠の治療薬はベンゾディアゼピン系の薬物を中心とした14種類の睡眠導入薬です。とても安全で、便利なアイテムですが、14種それぞれに特徴がありますので、体質や不眠のタイプによる使い分けが必要です。どうしても眠れなくてお困りの方で、なおかつ薬を飲んでもかまわないという方は、是非とも専門医に相談して、ご自分に合った薬を処方してもらってください。

睡眠障害(その9)薬による治療

生活環境をいろいろと工夫・改善しても不眠がつづく場合には、いわゆる睡眠薬を飲むことになります。そしてお酒が睡眠薬としては好ましいものではないことは前回お話しました。

最近は医師の処方箋がなくても薬局で睡眠薬と称するお薬を買うことができるようになりました。ドリエルというお薬です。しかし、このドリエルという薬は本来、抗ヒスタミン剤というグループの薬で、アレルギーによって起こる病気の治療薬なのです。副作用として眠気が強くて不評だったために、これを逆手にとって不眠症の治療薬として売り出しているのです。

このほかにも、不眠に効くと称する漢方薬も売っているようですが、私に言わせれば、そういった薬で眠れる程度の不眠であれば、前にお話したような生活習慣の改善で充分に眠れるようになるはずです。

日常生活に支障をきたすような頑固な不眠はやはり医師の適切な処方によってしか対処できません。さらに一般のお医者さんではなく、メンタル系の専門医への受診をお奨めします。なぜならば、不眠症だけが単独におこることは少ないからなのです。

眠れないという症状はとても容易にしかも素直に自分で感じとれる症状です。また、他の不調があっても、そういった不調は眠れないために起こった症状だと自分勝手に解釈される方がとても多いのです。

たとえば、やる気が湧かない、何をやるのも面倒だ、頭が重い、食欲がないといった昼間の症状があるにもかかわらず、一般的には、そういった症状は睡眠が改善しさえすれば、自然によくなるものと考えられがちです。多分そう考えたいのでしょう。これはまったくまちがった考えです。

大半の不眠症は脳のいろいろな代謝障害の結果おきてくる症状の一部なのです。不眠という現象は種々の不調の原因ではなく、結果の一部なのです。したがって、根本的な解決は不眠をきたすようになったおおもとを治療することにあります。強力な睡眠薬を飲んで不眠だけを無理やりに改善しても、おおもとを治さなければ、昼間の不調はいっこうに治りませんし、睡眠だって睡眠薬を止めたとたんにまた元の木阿弥です。

一般医の先生の中には患者さんが「じつは最近眠れないから、いつもの血圧のお薬と一緒に眠れるようなお薬も出しておいてください」と頼まれると、「分かった、それじゃ軽い安定剤を出しておいてあげますよ」といって、安定剤という代物を処方される方がいらっしゃいます。

この安定剤という、まるで心のすべての悩みを解決して心穏やかにしてくれる、魔法の薬であるかのような錯覚を抱かせる、名前の功罪についてはいずれお話したいと思います。この安定剤と称する薬の実態をみると、正式には抗不安薬というグループの薬であることが少なくありません。

抗不安薬は不安、緊張、焦燥感などを軽くする薬です。たしかに不安、緊張、焦燥感が軽くなれば眠りやすくなることは間違いありません。しかし、これも厳密にいうならば、ドリエルと同じように抗不安薬の本来の使用目的ではない副作用を利用しているといえます。

もちろん一般医の先生が出す「安定剤」の中には本当の睡眠導入薬も使われています。最近は一般医の先生も積極的に睡眠導入薬を処方されることのほうが多くなってきたようです。

現在発売されている睡眠導入薬は昔の睡眠薬と違って、きわめて安全で効き目もはっきりしています。どんな原因の不眠だって、量さえ増やせば一応はそれなりに眠らせてくれます。しかしこれが大きな問題です。

さきほどもお話したように、不眠は原因ではなく、結果の一部ですから、眠れるようになればよいというわけではありません。おおもとの原因となっている問題を治療しなければ本当の解決にはなりません。

しかも不眠にだけ限って言ったとしても、いろいろなタイプの不眠があり、それぞれのタイプに合った薬を使わなければ快適な眠りは得られません。

コンビニに行けば、とりあえず必要な者は手に入ります。でも、本当に美味しい物、自分に合った者を手に入れようと思ったら、やはり専門店に行かなければならないんじゃないですか。魚は魚屋さん、野菜は八百屋さんで買うのが一番だと思います。病気になった時にも同じじゃないでしょうか。

ところで、K前首相とT前大臣のありがたい経済再生政策のおかげで、我が国の経済は立ち直り、政府はいざなぎ景気を超える好景気が続くと自画自賛しています。本当でしょうか。汗水たらして働いている一般の人にはまったくその実感がないのじゃないでしょうか。

一部の大企業という肌のぬくもりを感じない組織と、博打まがいのマネーゲームでたまたま運よく勝った人たちだけに富が集中し、社会の現場で生きている一般市民には好景気と称するもののおこぼれは一切まわってきていません。

私のクリニックのある町でもここ数年、商店が次から次に潰れてマンションに変わってしまいました。あるのはコンビニと美容院ばかり。もはや商店街とは呼べない状態になってしまいました。

元気な魚屋さん、八百屋さん、酒屋さん、豆腐屋さんたちの立ち並ぶ、活気ある商店街にはもう戻れないのでしょうか。

睡眠障害(その8)寝酒はやめましょう

不眠の晩が少なくとも週に3晩以上で、しかも1ヶ月以上続く場合に初めて不眠症という診断がくだされるということはすでに説明しました。そして、そうなってしまった時に自分で工夫できる方法については前回紹介しました。

自分のこれまでの生活をふりかえって、睡眠によくない影響をおよぼしていた生活習慣を改めて、ここちよい眠りをいざなうような工夫を試みたあげく、どうしてもぐっすり眠れないで、昼間の活動に支障をきたす場合には、それ以上むだなあがきをしないで、さっさと専門医の門をたたきましょう。

一般にしばしば見られるまちがった対処法のひとつがアルコールです。お酒を睡眠薬代わりに使う方法です。

アルコールという薬物は適量だととても身体によい作用を発揮します。たしかに、脳をリラックスさせて軽やかに睡眠へいざなってくれます。このほかにも血管を開いてくれますので、血圧をさげて、血行をよくしてくれます。胃や腸などの消化管の動きをよくし、消化液の分泌も促進しますから食欲をまして消化を助けてくれます。腎臓の働きもよくなりますので、尿をたくさん作って、どんどん排泄する作用もあります。

こう書くと、良いことずくめ、最高の薬じゃないかと思われるでしょう。たしかに、量を誤りさえしなければ、昔から「酒は百薬の長」といわれているように、とてもすばらしいお薬です。

それならば不眠の時は睡眠薬なんかよりもお酒を飲んだほうが、体に良いんじゃないかと考えるでしょうが、そうではないのです。

アルコールは量を越すと適量のときと反対の作用をしめすのです。つまり、心臓がドキドキと速くなって、血圧が上がり、胃腸が過剰反応して吐いてしまう。翌日は下痢することもあります。肝臓もくたびれはてる。

脳に対しても強い抑制作用をしめして、睡眠ではなく意識障害をひきおこして、普段の人格からかけ離れた行動をとらせたり、記憶に関係する海馬という部位を強く抑制するために、健忘という症状をおこすことがあります。

虎になってお店で暴れたり、どうやって家へたどり着いたのかわからないが、翌日自分のベッドで裸で目を覚ますといった危ない行動へと走らせるのです。これが昔から「酒はきちがい水」と言われているゆえんです。

アルコールにかぎらず、どんな薬物も適量を超えた量を摂取しますと都合の悪い作用(副作用)をひきおこします。この量を中毒量といいます。つごうの良い効果があらわれる量とつごうの悪い効果が出てしまう量との幅が広い薬ほど安全で使いやすい薬といえます。ちなみに中毒量のほうが治療量よりも小さいものは薬物とは呼ばずに毒物と呼びます。

アルコールはこの安全性を示す幅が極端に狭いのです。また、適量の個人差も大きいのです。すなわち、「百薬の長」と「きちがい水」との差が狭くて、しかもどこで逆転するかが人によって大きく異なるのです。したがって、薬物として考えた場合には、アルコールは極めて使いにくい薬といわなければなりません。

アルコールは依存という厄介な性質も強くもっています。初めのうちはグラス一杯の水割りで快適に眠れていたのに、だんだんと効かなくなってきて、グラス二杯、三杯と増えていき、そのうちに一晩でウィスキーのボトル半分が空になってしまうといったことになりやすいのです。嫌なことを酒でまぎらわすことが多いため、量が増えて依存しやすくなるのでしょう。

だいたい、深夜に酒を一人で飲むということ自体、かなり不健全な行為です。一人で杯を重ねていくと愉快になっていくことはあまりありません。たいてい不愉快でろくでもないことを考えて、それを打ち消すためにさらに飲む結果に陥りやすいと思います。

事実、アルコールデプレッションという言葉があります。長期にわたってアルコールを飲み続けると、抑うつ状態になることがあるのです。数人の仲間と宵の初めから始めて、深夜に及ぶことなく飲み終わることをお奨めします。

それぞれの適量にあわせたピッチで飲みながら友と語りあうと、ふだん脳全体を押さえつけてブレーキをかけている脳の部分が真っ先に抑制されますから、お互いが本音をぶつけ合って、会話が弾み、より円滑なコミュニケーションがとれます。

本音がでますから、嫌いな奴と飲んでいると喧嘩になってしまう危険性があります。職場の飲み会など、メンバーの選択が許されない酒席でよく見られる光景です。よりよい人間関係を作るために企画された会であるのに、かえって以前にもましてギクシャクすることになってしまいます。

酒といかにかかわるか、というテーマは哲学的側面をもっています。つまり、酒が主役になるか、自分が主役になるか、というテーマです。「人生と友を楽しむために酒を飲む」お酒だって、そんな人に飲まれたいのではないでしょうか。まかりまちがっても、睡眠薬代わりに飲まれたくはないはずです。

睡眠障害(その7)自分でできる対処法

これから睡眠障害の中の不眠への対処方法を述べます。しかし、あらかじめ御注意申しあげておきますが、これから述べる事項にあまりとらわれすぎると、

かえって不眠になってしまいます。

なぜならば、こだわりすぎるといわゆる「睡眠おたく」になってしまい、眠ることにエネルギーを注ぎこむ結果、寝付くことができなくなってしまうからです。なにごともほどほどが肝心です。

まず、睡眠時間を他人と比べない。前にもお話したように、睡眠時間は人それぞれ違います。ナポレオンみたいに短い睡眠時間ですむ人(short sleeper)もいれば、眠り姫のように長い眠りをとらないとエンジンのかからない人(long sleeper)もいます。

睡眠は8時間とらなければいけない。それ以下の睡眠時間では身体に悪いと信じている人が少なくありません。8時間信仰といえます。じっさいには、8時間も睡眠を必要とするのは若い時で、成人の場合、6~7時間で充分といえます。

また、日によっても睡眠時間が違ってくるのは当たり前です。ぐっすりと長い時間眠る晩もあれば、いつもよりも寝付くまでに時間がかかったり、比較的早く目覚める晩もあります。たまには全然眠れないで一晩を過ごしてしまうことがあったって、別に睡眠障害とはいえません。

カフェインは覚醒作用がありますから、あまり夜遅くになってからカフェインの入った飲み物は飲まないほうがよいでしょう。カフェインというとたいていの人はコーヒーを思い起こされますが、じつはカフェインはコーヒーよりも紅茶、紅茶よりも緑茶のほうに多く含まれていますから、食後の緑茶にはご用心を。

タバコに含まれるニコチンも脳を刺激する作用がありますから、寝しなにあまり吸いすぎると寝付きにくくなります。

昔からよく、早寝早起きといいますが、眠るほうはなかなか自分の意思で行うことは難しい。むしろ、早く眠ろう眠ろうと意気込めば意気込むほど頭が冴えて眠れなくなってしまうことは何回もお話しました。

しかし、早起きのほうは家族の協力や強力な目覚まし時計の力を借りれば、計画的に実行することができます。早起きをして、なるべく早く太陽の光を浴びると、その晩に快適な入眠をもたらしてくれます。遅寝、遅起きの悪循環から早寝早起きの好循環に変換するための秘訣は「早起き」です。

ヒトは起床後、明るい光を浴びてから約15~16時間後に眠気が現れるといわれています。実際には目が覚めているのに、ふとんの中でいつまでもぐずぐずして日の光を浴びないと、寝つきのスイッチが1時間ほど遅れてしまいます。当然ながら、夜いつまでも部屋の明かりを煌々としておくと体内時計のリズムが遅れて、なかなか眠れません。

昼寝は避けたいところですが、どうしても昼寝をするならば、お昼から午後3時までの間にして、できれば30分以内にしておいてください。午後3時以降の昼寝だと体内時計を狂わせます。また、30分以上の昼寝は夜の睡眠を引き起こす力を弱めますし、身体を夜であるかのように錯覚させて、これもまた体内時計のくるいの原因になります。

朝食を摂りましょう。いつも同じ時刻に朝食を摂っていると、やがてその1時間ほど前から胃腸が動き出すようになり、朝の目覚めがより快適になります。

「今日も元気だ、ご飯がおいしい」です。

夕食は軽めにしましょう。夜食はメタボリックシンドロームのためにも避けたいところですが、空腹すぎても寝付けません。やむなく夜食を摂る場合には、蛋白質の少ない消化のよい、低カロリーのものにしましょう。

毎日規則的に、軽く汗ばむような運動を行うと快適な睡眠を得ることができるようになります。しかし、現代の都市生活者の中で毎日の適度な運動なんて、フィットネスクラブに毎日いけるだけの時間とお金の両方があるごく一部のお金持ちしかできません。しかもごく一部の金持ちにだけ富が偏在して、多くの人は神経すり減らして働けど働けど、暮らしが苦しい昨今です。言うは易し、行うは難しです。

でもあきらめてはいけません。庶民はタクシーを使わず、地下鉄の階段をこれぞステァマスターと思って、軽快にのぼるとよいでしょう。IT長者なんて羨ましがることはありません。

「おーい、安倍ちゃん、俺の不眠、なんとかして、夢の中だけでいいから美しい国みせてくれよ」、なんてぼやいていると、よけいに不眠がひどくなりそうです。

睡眠障害(その6)早朝覚醒

眠りに就くのはいつもと変わらないのに、思いもしないような早い時刻に目が覚めてしまって、その後一睡もできない状態を早朝覚醒といいます。

夕食を食べるやいなやベッドにもぐってしまえば、朝まだ明けきらぬ時刻に目を覚ましたとしても不思議ではありません。「朝早く目が覚めてしまって困る」とうったえる患者さんの中に、まれにこういうケースがあります。

よく聴いてみると、なんと7時のNHKのニュースを見終わるとすぐに寝てしまっていたのです。その結果、「3時にはきまって目が覚めてしまいます」と嘆くことになっていたのです。なんと合計7時間半はしっかり眠っているのですから、それ以上眠っていられるわけがありません。身体のほうが睡眠にうんざりして、「もういい加減にせえよ」と起こしにかかったのです。

東方向への海外旅行をした際にも、時差の関係で早朝覚醒が起こります。例えば、前の日に東京からパリに着いたとしましょう。豪華なホテルでゆっくり眠ろうとしても朝4時頃に目が覚めてしまいます。それもそのはず、パリの朝4時には東京では既に正午になっています。

頭の中の体内時計はまだパリに来ていることを自覚せずに東京の時間帯になっていますから、この体内時計の目覚まし機構によって「このボケ早く起きろ」とばかりに、たたき起こされるわけです。

ただ前にも述べましたが、体内時計に対する時差の影響は東回りよりも西回りのほうが強く現れますから、パリからかえった後数日の寝つきの悪さと昼間の眠気に比べれば、パリでの早い目覚めはそう辛くはないはずです。

この理由は体内時計の自分勝手な本来の周期(固有周期)は地球の自転周期である24時間より長い25時間以上であるためです。したがって、前にも説明しましたが、ヒトは早寝は苦手ですが、遅起きは得意にできているのです。

ここでなぜ体内時計の固有周期が地球の自転周期とずれているのかという疑問が湧いてこられると思います。この謎に対する答えはまだ出ておりません。一番容易に想像できるのは、ヒトが誕生した頃の地球の自転が今より遅く、

25時間ちょっとだったという仮説。このために、我々の体内時計はいまだにその記憶を残して、24時間より長い固有周期を持つのだという考え方。

しかし、どうもこの説は正しくないようです。太古の珊瑚の化石の年輪と日輪から推測すると、太古の地球は1年が400日ちかくあった。つまり、今の地球よりも早い自転速度で回転していて、1日は今よりも短かったと考えられるのです。

医療と関係のない話に脱線してしまいました。早朝覚醒の話に戻ります。今までお話した中途覚醒型の不眠は現実の生活にあった睡眠習慣に戻していけば、おのずと治っていきますので、とくに医療を必要とするとは思いません。

専門医の治療を必要とするような早朝覚醒型の不眠は統合失調症やうつびょうといった心の病気にしばしば随伴して現れます。

特にうつ病では高率にこの型の不眠を示すことが多いようです。そして、うつ病がよくなると共に不眠も改善されます。したがって、一刻も早く専門医でうつ病そのものの治療を受けることがなによりです。

一般内科の先生がよく処方される睡眠薬とか安定剤とか称するものは、たいていの場合、正しくは睡眠導入薬や抗不安薬に分類される薬です。この手の薬は寝つきを浴する作用しかあしませんから、早朝覚醒に対しては効果がありません。

大量に服薬すれば早朝覚醒も幾分かは軽くしてくれますが、それは本来の薬効ではなく、睡眠導入薬が朝まで身体に残っているために眠りを維持しているのです。つまり、本来の目的である寝付かせるために必要な量以上に服用していることになります。

早朝覚醒にはそれにあったお薬がありますので、是非とも専門医を受診してください。
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